テスラ株は今が売り時? 株価動向を徹底分析!

■直近の価格下落の理由

 その大きな理由の一つは米国の物価指標が予想以上のインフレを示し、早期の金融引締め観測が出たこと。コロナによる景気悪化を防ぐために中央銀行はここしばらく緩和的な金融政策を続け、低利なお金が大量に市場に供給されたことにより現在の株高が支えられてきた。

 その政策が転換されるタイミングが予想外に早まったと考えた投資家が、直近大きく値を上げてきた銘柄、割高に見える銘柄を売って利益を確定する動きに出た。その銘柄の代表例がテスラ株だったというわけだ。

 テスラ株は通常の評価基準からすると極めて割高。現在の株価680ドルは1株当たりの当期純利益の約150倍。テスラの株価時価総額は約6500億ドル、つまりテスラを丸ごと買収しようとすると約71.5兆円必要ということ。

 ちなみにトヨタはそれぞれ12倍、27兆円。テスラの方が2.6倍時価総額が高い。だがトヨタの収益は4倍多く、事業キャッシュフローは3倍多く、総資産も11倍近く多い。

 この「割高」な株価を正当化するものは非常に強気な成長予測。つまり今の利益対比で株価が割高でも、将来利益が急増する予想であればその水準は正当化できる。2021年1-3月期の売上高は前年同期比+74%。だがこの成長スピードは維持できないのではないかとの見方も強まっている。

 テスラは当期純利益よりも同業他社に環境規制に対応するための温暖化ガス排出枠を売って得る利益のほうが現状多い、すなわち排出枠を売らなければ赤字という特殊な収益構造。そしてビットコインの売却でも利益を得ている。既存自動車メーカーが直近SUV、高級セダン、スポーツカーなど様々なEVを発表・発売開始しており、近い将来EV販売での直接的な競合と排出枠売上げの利益の減少が予想されている。

テスラの株価とビットコインの相関性は半年前までは高かったが現在は薄らいでいる(出典:各種公表資料より筆者作成)
テスラの株価とビットコインの相関性は半年前までは高かったが現在は薄らいでいる(出典:各種公表資料より筆者作成)

 また2020年の売上高の21%を占める中国においてここ最近リコール含め品質問題が発生、4月には上海モーターショー会場で抗議活動が行われ中国メディアから非難されるなどし、5月の中国国内での売上が前月対比で半減したと報じられた。品質問題というよりは政治的な問題の可能性も高い。

 EV販売におけるテスラの世界シェアが3月の29%から4月に11%(米国72→55%、欧州22→2%、中国19→8%)と大幅に減少したことから、「EV=テスラ」というブランド神話が崩れつつあるのではないかとの見方も広がった。

■強気論者の根拠は?

 テスラに強気な投資家は短期売買ではなく長期保有を前提として考えている向きが多い。 そもそもテスラを他の自動車会社と比較することが間違っていると指摘するテスラ強気論者は多い。

 テスラは「EVを作る会社」ではなく、今も昔も「持続可能エネルギーの台頭を加速し未来の良い生活を守る」ことを使命としているとイーロン・マスクは2016年に発表した「マスタープラン パート2」にて述べている(ご覧になっていない方はテスラ公式HPでご覧になることをぜひお勧めする、日本語で読める)。

 2020年9月に2万5000ドルの完全な自律走行性能を持つEVを市場に投入する計画を公表。自動車製造販売の利益率は下がるかもしれないが販売できる排出枠が増えることで一部相殺、また市場の拡大による規模の経済によりリチウムイオン電池の価格を低下させることでICE(内燃機関車)に対しての価格競争力を備えていく戦略。

自社のスーパーチャージャー(急速充電器)を保有しその電源を自社のソーラーパネルと蓄電技術で供給(写真:テスラ)
自社のスーパーチャージャー(急速充電器)を保有しその電源を自社のソーラーパネルと蓄電技術で供給(写真:テスラ)

 航続距離の向上とバッテリーのkWh単価削減というハードとしての電池の性能の向上と価格の削減努力に加え、EVで最も重要なバッテリーの劣化や過充電を起こさず充電効率を上げるバッテリーマネジメントのソフトに関しても他の追随を現時点で許さない。

 また生産方法を根本から見直し、ボディの大部分をメガキャストで一体成型させる技術を導入。これまで「モデル3」では70の金属パーツを組み合わせてクルマの3分の1を占めるリア部アンダーボディを生産していたが「モデルY」ではわずか2つとなり、最終的には1つにするとのこと。

 フロント部アンダーボディも同様に一体成型での生産が開始され、溶接個所・部品点数の大幅削減によるコストダウン、工作精度向上を同時に達成。さらには工場規模の縮小や新車開発のリードタイム削減など間接費も下げることができ、EVの相対的な競争力を高めていく試みを進めている。

最重要市場の一つである中国で現地生産を可能にした上海ギガファクトリー、米中間の緊張の影響を受けなければいいのだが…(写真:テスラ)
最重要市場の一つである中国で現地生産を可能にした上海ギガファクトリー、米中間の緊張の影響を受けなければいいのだが…(写真:テスラ)

 そして事故のない安全な自律走行を可能にするには運転データ量の蓄積が必要不可欠だがその量でも他のメーカーをはるかにしのぐ。

 さらには他の自動車メーカーとは異なるユーザーエクスペリエンス・インターフェイスを提供し独自のエコシステムをアップルのように構築、独自のチップやOS、自律走行技術を持ち自社でスーパーチャージャーも提供。ロイヤリティの高いカスタマーを少ないマーケティングコストで維持し利益率を高めても顧客満足度が高いままだ。

これまでのクルマとは全く発想の異なるユーザーインターフェースを持つモデルSの車内(写真:テスラ)
これまでのクルマとは全く発想の異なるユーザーインターフェースを持つモデルSの車内(写真:テスラ)

 これらはすべて「高性能で安全・安価・快適なEVづくり」を目指すものだが、究極的には会社のミッションステートメントである持続可能なよりよい将来の実現のため。「走る、曲がる、止まるがしっかりしたいいクルマを作る」というレガシー自動車会社の理想とは根本的に異なる。

 最後に一番重要なことは、上記のポイントのどれもが「規模が大きくなれば利益率は低下する」という一般的な製造業の常識に反する、「規模が大きくなった方が利益率が上がる」というIT業界に見られるような収穫逓増のビジネスモデルであること。これによって高いバリュエーションが正当化されるのだ。

次ページは : ■まとめ

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