2020年4月20日、原油価格はマイナスだったのに…
ガソリン価格が高騰している原因は、言わずもがな、原油価格が上がっているからだ。コロナ禍の制限が解除されはじめ、経済が回復傾向にある。また、原油はプラスチック製品や化学品など、さまざまな製品の原材料となるので、その消費が促進すれば原油価格は上昇する。
しかし、それは需要側の話であり、昨今の原油高は供給側に問題がある。10月6日に大々的に報道されたように、石油輸出国機構OPECの加盟国と、ロシアなどの非加盟国からなるOPECプラスが原油の増産を見送ったのだ。
去年5月、OPECプラスは新型コロナによって世界の経済活動が落ち込んだため、参加各国が協調減産(日量970万バレル)を開始した。コロナ禍で原油の需要が停滞しているのに産油すれば、原油価格が暴落するからだ。
実際、昨年4月20日には原油先物価格が史上初のマイナス価格に陥った。新型コロナのパンデミックによって世界の消費が減退し、米国クッシングなど主要な貯蔵施設がオーバーフローし、期限に迫られた原油先物商品の保有者が、「誰か! 原油を引き取ってくれ!」という事態になったのだ。
原油先物市場では、オイルの現物を必要とするバイヤーのほか、投資目的に市場参画する機関投資家が多い。そうした輩にとっては原油先物の売買過程における差益にしか興味はなく、オイル現物を必要としているわけではない。暴落する原油先物の売り時を逃したバイヤーに、その現物受取の期限が迫った結果、「金を払うから原油をもらってくれ!」という事態に陥ったのだ。
ガソリン高騰は、脱炭素によるもの?
昨今、先進国の経済活動が正常化しつつあり、原油の需要が高まったのに、なぜOPECプラスは原油の本格的増産を見送ったのか? なぜ今年12月までは日量380万バレルの減産縮小を維持するという決定をしたのか?
答えはシンプル、原油高のほうが産油国は儲かるからだ。増産すればコストが上がる。そのため現状のままの生産体制で収益を最大化しようとしているのだ。
近年、脱炭素が叫ばれているのも、中東の産油国などにとっては面白くない。彼らがいかに抵抗しても、これから世界的に化石燃料離れが加速する。であれば、一時の原油増産のためにわざわざ新たな増資をしたくない。カーボンフリーに関するさまざまなマニュフェストが全世界的に謳われる今、金融機関もオイル関連企業に対する長期的な投資は控える傾向にある。
「脱炭素」をぶち上げたバイデンの苦悩
各国の石油産出量
現在、世界の産油国におけるランキングの1位はアメリカだ。2010年代に本格化したシェールガスの掘削によってアメリカは、それまで1位だったサウジアラビアを2016年に追い抜いた。では、アメリカこそが原油増産に取り組めば、世界の原油価格がいくらか下がるのではないか?
しかし、事はそんなにシンプルではない。ニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)で取引されているWTI(West Texas Intermediate)という原油先物商品が世界の原油相場の指標となっている以上、他の産油国の動向を無視して増産することは難しい。世界経済のバランスシートを崩す可能性が高いからだ。このWTI価格は、それほど影響力が大きい。
また、シェールガスは掘削・産油のコストが高い。そのため短期的な増産のための増資がスムーズでない。すでに脱炭素化に向けて舵を切った米経済界において、石油関連プラントに対する融資は金融機関も二の足を踏む、という状況なのだ。
バイデン大統領はOPECプラスの参加各国に原油増産を促している。しかし、彼は今年4月、彼自身の主導のもと気候変動サミットを開催し、2030年時点におけるCO2削減の中間目標を掲げ、それに日本などにも追随させたばかり。それを推進した張本人が中東各国やロシアに「原油が足りないから増産してくれ!」とは言いにくいだろう。
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