■深夜割引が導入された経緯と改革案
その前にまず、深夜割引の意味を考えてみよう。高速道路に深夜割引が導入されたのは、04年11月からだ。目的は、「高速道路に並行する一般道路の沿道環境改善」だった。
大型トラックには、03年9月からスピードリミッター(90km/hで作動)の設置が義務付けられた。それまで大型トラックは、深夜、高速道路を恐ろしい勢いでブッ飛ばしており、悲惨な追突事故が多発。その対策としての義務化だった。
一方、高速道路に並行する一般道では、深夜、高速料金を節約するためにブッ飛ばす大型トラックが問題になっていた。03年のスピードリミッター義務化以降は、高速道路と一般道の速度差が減少したため、それに拍車がかかった。一般道を深夜、大型トラックがブッ飛ばせば、危険だし騒音も増加する。それを緩和するために、高速道路への深夜割引が導入されたという経緯である。
深夜割引は、昼間の大型トラックの交通量を減らす効果もあった。NEXCOの高速道路では、渋滞は主に週末に発生するが、首都高では平日が中心。高速道路の深夜割引は、大型トラックの稼働を深夜にシフトさせることで、これを緩和する効果も果たしている。
問題点を抱える一方で、そういった効果も上げている深夜割引だが、今年7月の国交省国土幹線道路部会では、深夜割引について、次のような中間答申がまとめられた。
「現在は、割引適用される時間帯に少しでも利用すれば、走行全体が割引されているが、これを、割引が適用される時間帯の走行料金のみを対象にするよう、見直しを検討する」
深夜割引が始まった頃は、料金所の通過時刻で判断する以外に方向がなかったが、現在の技術を使えば、実際に深夜走った分だけ割り引くことが可能、ということだ。ただ、これを実施すると、割り引かれる金額は現在より大幅に減少する。しかも、「0時から4時までのド深夜を必ず使って走れ」ということになりかねず、かえって労働条件を悪化させる恐れがある。
そのため中間答申では、「深夜割引の時間帯の拡大や、割引の開始時・終了時に渋滞が起きないよう、割引率を段階的に変化させることも検討すべき」としている。
■筆者が提案するバランス案
いずれにせよ、深夜の走行に大きな割引が存在する限り、トラックドライバーの労働条件は改善されない。労働条件改善のためには、深夜割引を廃止する以外にない。
しかし深夜割引を廃止すると、首都高など、平日混雑する接続路線で渋滞が悪化する恐れがある。私案だが、双方の妥協点として、首都圏と関西圏の周辺区間でのみ、深夜割引を存続させたらどうだろう。適用時間帯は、首都高や阪神高速の渋滞がほぼ消える21時から翌朝5時までに拡大する。
たとえば東名の場合、深夜割引の対象は東京-御殿場間のみとする。長距離便の場合、深夜割引額は大幅に減少するので、無理に深夜走ろうという動機は薄まるが、短距離の場合はそれなりに魅力的。適用時間の延長によって深夜労働は減少し、首都高の渋滞増加も防ぐことができる。
これを実施すると、深夜割引が廃止される区間では、その目的である「一般道路の沿道環境」が悪化する恐れがあるが、深夜割引の導入当時と現在とでは、状況がかなり異なっている。
04年当時は、タコグラフ等による運転データのチェックはそれほど一般的ではなく、スピード違反はドライバーの一存に委ねられていた。現在はほとんどの運送会社が厳しく目を光らせているので、少なくとも、「深夜の一般道を爆走」することはできないはずだ。制限速度を守っていたら、一般道では時間がかかりすぎるため、多くの車両が高速道路を利用し続けるのではないか。
これを実施すると、割引が減ることで運送業界の負担は増してしまうが、それについては、たとえば「大型車以上は、全時間帯で現在より1割引」といった妥協策を新たに取り入れて、バランスを取ることも可能だろう。
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