■クルマの廃プラは意外と少ないが
クルマの影響はどうなのか。日産によれば、乗用車1台分のプラスチック使用量は平均12.2%と意外と少なめ。また、クルマの部品のリサイクル率は99%といわれており、廃プラ総量のうち輸送部門(クルマ以外も含む)の占める割合は4.4%と少ない。
しかし、だからといって無視していいものではないし、99%のリサイクル率のなかで、こちらも燃やしてCO2を排出するサーマルリサイクルが大部分を占めているという問題もある。なぜプラスチック部品の再生利用が進まないのか? 日産の環境部門担当者はこう説明する。
「現時点では経済性が見合わないからです。リサイクルする部品を人手で取り外す(人件費がかかる)、破砕処理した混合物のなかから目的とするプラスチックを選別する(選別コストがかかる)、原料をプラスチック再生工場に運ぶ(物流費がかかる)、また、異物を除去したうえで再生プラスチックを製造するにもコストがかかります。さらに、再生プラスチックはまだ供給が不安定という課題もあります」
ただし、コストがかかるからといって、再生利用に消極的なわけではない。同じく日産担当者の説明。
「設計面では、プラスチック材料の規格を統合し、リサイクルしやすいように配慮しています。また、部品から素材を取り外しやすいよう締結方法にも配慮するなど、課題解決に向けた技術開発を関連する企業の方々と進めています」
また、原油由来ではないバイオマスプラスチックの開発も進んでおり、日産ではリーフの内装表皮材に一部使われている。
■いま、世界は「タイヤの粉塵」に注目している
実は、クルマ関連ではタイヤもプラスチックごみの問題を抱えている。
「日本ではあまり知られていないのですが、微少なマイクロプラスチックの主要発生源がタイヤの摩耗粉塵であるというデータが欧州で発表されています。空気中に舞ったマイクロプラスチックが最終的に海に入り、それが海洋生物の体内に蓄積されている可能性があります。マイクロプラスチックには有毒物質であるPCBが吸着されやすい特性があり、これも大きな懸念材料なのです」(三沢氏)
天然ゴムを使えばマイクロプラスチックは発生しないが、コストが跳ね上がるだけでなく、天然ゴムの持続的ではない大量採取は森林破壊に繋がる。タイヤ業界も難しい対応を迫られているのだ。
昨年秋、英国のエレン・マッカーサー財団が提唱する“ニュープラスチックエコノミー”に賛同し、“グローバルコミットメント”に署名した世界285の企業や政府が共同宣言を行った。
バーバリー、ダノン、コカコーラ、ペプシなど著名な企業が2025年までにプラスチックごみの削減と循環経済に取り組むことを宣言したものだが、これに署名することはプラスチック問題に真摯に取り組む意志を確認するひとつのバロメーターになるという。
「一般消費財メーカーが中心ですが、フィリップスなど耐久消費財メーカーも参加しています。しかし、世界の自動車メーカーやタイヤメーカーは一社も署名していません。業界からこういう取り組みに参加し、持続可能なビジネス構築に主体的な役割を果たしてほしいと願っています」
と三沢氏は言う。
この件に関して自動車メーカーの見解はどうか。
「世界のプラスチックごみの約半分は包装によるものであり、“グローバルコミットメント”にもあるように、不要な包装をなくす、シングルユースのプラスチック包装や容器を削減するなどの取り組みが重要であると考えます。自動車業界はその類のプラスチックはほかの産業に比べて少なく、弊社は参加していませんが、その対策は積極的に進めています。また、プラスチックを含む廃棄物の削減、バンパーやASR(自動車残滓(ざんし))のリサイクルにも取り組んでいます」(日産担当者)
日産は2022年にクルマに使用する原料のうちの30%を新規採掘資源に頼らない材料に代替し、2050年には70%に削減するという長期ビジョンを掲げている。持続可能な社会を作るのはやはり技術だ。これからの動きに注目したい。
コメント
コメントの使い方