日本人は限定品が好きだ。もちろんクルマも限定車(特別仕様車)は人気が高く、中古車が新車価格を上回るケースはある。
最近では日産GT-RやフェアレディZが誕生50周年記念車を発表、またマツダがロードスター誕生30周年記念車を発表するなど、アニバーサリーモデルがブームになっている。
今回はそうした〇周年モデルという、アニバーサリーモデルの限定車に絞り、過去に発売されたアニバーサリーモデルの中古車価格の動向を徹底調査。
はたして価格は上がっているのか? 通常のモデルと大して変わっていないのか? モータージャーナリストの萩原文博氏が解説する。
文/萩原文博
写真/ベストカーWEB編集部
■台数限定のアニバーサリーモデルに価値はあるのか?
限定車は、大きく二つにわけることができる。内外装に特別な色を使用し、さらに人気の装備を装着するタイプ。
そしてもう一つは内外装の変更に加えて、エンジンのファインチューニングやサスペンションの最適化など走行性能に磨きをかけたタイプだ。
そう、前者は販促目的の色合いが強く、後者はよりこだわりの強いユーザーに対して発売するモデルだ。新車価格より中古車の価格が高くなるのはスバルSTIのSシリーズを見てもわかるとおり後者だ。
では、限定車のなかでもさらに絞り込んだ〇周年モデルとなるとどうだろうか?
過去には1996年にはトヨタが市販車生産60周年記念車として車両本体価格800万円で販売したトヨタクラシック、2011年11月にトヨタ自動車生産累計1億台達成の記念車として1000台限定で販売したトヨタオリジンなどがあった。
また、日産の子会社であるオーテックジャパンは限定30台で30周年記念車、マーチボレロA30を356万4000円で販売するなど、従来の市販車とは一線を画すモデルが販売されることがあった。
ここまでのスペシャルモデルは別として、〇周年のアニバーサリーモデルが最も多いのがトヨタだ。
クルマの誕生記念だけでなく、トヨタ店生誕記念といったようなアニバーサリーモデルに加えて、エリアの販売店限定のアニバーサリーモデルも設定されている。
その一方でアニバーサリーモデルが少ないのが、ホンダで、2代目フィットに設定された10thアニバーサリーモデルぐらいだった。
■トヨタクラシック(1996年)
●残価率/44.8%

そこで、ここでは、現在中古車で購入できる注目度の高いアニバーサリーモデルをメーカー別に紹介しよう。
まずはトヨタ。先ほども紹介した1996年に登場したトヨタクラシックは現在3台の中古車が流通していて、価格帯は約340万~432万円、平均価格は約359万円。
販売開始から約23年が経過しても新車時価格の44.8%という残価率は驚異的な数値といえる。
■トヨタオリジン(2000年)
●残価率/45.1%
続いては2000年に発売されたトヨタオリジン。現在中古車の流通台数は6台で、価格帯は約230万~約470万円。
平均価格は乱高下して316万円で約19年落ちのクルマながら残価率は45.1%とこれまた驚きだ。
■カローラ生誕50周年記念車(2016年)
●残価率/73.5%
5ナンバーサイズセダン、カローラアクシオにも2016年7月に生誕50周年記念車の「ハイブリッドG 50リミテッド」が限定500台で販売された。
初代カローラの特徴である赤の内装シートと、花冠エンブレムが特徴だが、現在流通している中古車はわずか2台で、価格帯は約168万~185万円。
平均価格は176.4万円で残価率は73.5%となっている。やはり、ほかのアニバーサリーモデルとは違う、スペシャル感を反映して残価率は高い。
■トヨタ店創立70周年記念特別仕様車のクラウンとランクル&プラド(2016年)
●クラウン:残価率/74.6%

トヨタ店創立70周年を記念した特別仕様車が、クラウン(旧型)、ランドクルーザーそしてランドクルーザープラドに設定され2016年8月に販売された。
クラウンはアスリートとマジェスタにJフロンティアというアニバーサリーモデルを設定。
中古車が最も多いのは2.5ハイブリッドS Jフロンティアで流通台数は9台、中古車の価格帯は約320万~約408万円で、平均価格は388万円。新車時価格は520万200円だったので、残価率は74.6%となっている。
●ランドクルーザー:残価率/101%

ランドクルーザーとランドクルーザープラドにはGフロンティアという本革シートを装着したアニバーサリーモデルを設定。ランドクルーザー4.6ZX Gフロンティアの中古車の流通台数は6台で、価格帯は約689万~749万円。
平均価格も約730万円と3年落ちながら、新車価格723万6000円を上回る残価率101%を達成した。3カ月前の平均価格は772万円だったので、だいぶ適正価格になってきた。
●ランドクルーザープラド:残価率/82%

ランドクルーザープラドは2.8DT TX LパッケージGフロンティアが流通台数18台で最多グレードとなっている。
価格帯は約359.9万~499.8万円で一部新車時価格の477万5760円を上回るクルマもあるが、平均価格は392万円で、82%という高い残価率になっている。
■ハイエース誕生50周年記念車(2018年)
●残価率/101.1%


乗用モデルだけでなく、商用モデルにもトヨタはアニバーサリーモデルを設定しているのが特徴だ。まずは2018年8月に発売されたトヨタハイエースの誕生50周年記念車、スーパーGL 50周年アニバーサリーリミテッド。
最上級グレードのハイエースバン・スーパーGLをベースに漆黒のグリルなどを装着したモデル。
全6グレードが設定されているが、最も多いのが2.8DTスーパーGL50周年アニバーサリーリミテッドロングボディ4WDで流通台数は69台。
価格帯は約379.8万~約499万円で平均価格は418万円となっており、新車時価格の413万3160円の101.1%となっている。
■ハイラックス誕生50周年記念車(2018年)
●残価率/100.5%

2017年9月に13年ぶりに日本市場に復活したハイラックスには2018年11月に誕生50周年を記念したZブラックラリーエディションを設定し、394万7400円で発売開始した。
現在中古車の流通台数は26台で、価格帯は約384.7万円~475万円。ドレスアップ車も含まれるものの、平均価格は397万円で、新車時価格を100.5%と上回る結果となっている。
やはりランドクルーザーやハイエース、ハイラックスと多少ドレスアップ車の影響はあるものの、こういった個性的なクルマが高価格をキープするようだ。
■スカイライン60周年記念車(2016年)
●残価率/56.9%

続いては日産だが、トヨタと比べると車種数は正直寂しい。まずはスカイライン。2016年11月に60周年記念車を3グレード設定。
最も中古車の流通台数が多いのが350GT ハイブリッド60th リミテッドの4台。価格帯は約360万~約399万円で、平均価格は331万円。新車時価格は581万400円なので、残価率は56.9%だ。
■リーフ、キューブの日産創立80周年記念車(2014年)
●リーフ:残価率29.8%

次に2014年5月にリーフとキューブに設定された日産の創立80周年を記念したスペシャルカラーリミテッド。
リーフのX80周年スペシャルカラーリミテッドの中古車は13台流通しており、平均相場は103万円で、残価率29.8%とかなり厳しい数字となっている。
■フィット10thアニバーサリー(2011年)
●残価率/40%
ホンダは旧型フィットに専用のブラック内装や、メーカーオプション装備として人気の高いHondaスマートキーシステム、ETCなどを標準装備したフィット誕生10周年の記念した10thアニバーサリーを設定。
主力グレードの13G 10thアニバーサリーは161台と流通台数が多く、平均価格は53万円と残価率は40%だ。
■ロードスター20周年記念車(2009年)
●残価率/69.4%(ソフトトップモデル)

マツダは2009年7月、旧型ロードスターに20周年記念車を設定。中古車はソフトトップモデル、RHTモデルそれぞれ1台しか流通しておらず、ソフトトップ車が200万円で残価率69.4%、RHT車は残価率58.8%とマニュアル車のソフトトップ車のほうが高い残価率を示している。
●RX-8ロータリーエンジン40周年記念車(2007年)
●残価率/20%

絶版車のRX-8には2007年8月ロータリーエンジン40周年記念車を設定されていた。現在流通している中古車はわずか2台で、平均価格は約63万円。残価率は20%となっている。
●インプレッサWRX STI 20thアニバーサリー(2008年)
●残価率/34.6%

スバルは遡ること10年前の2008年10月STI創立20周年を記念した「STI 20thアニバーサリー」を発売。
現在中古車の流通台数はわずか2台で新車価格412万6500円に対し、平均価格は約143万円、残価率は34.6%。やはりスバルにはSシリーズがあるだけに厳しいか。
■コペン10周年記念車(2012年)
●残価率/85.5%

三菱やスズキはピックアップする車種は見当たらず、最後にダイハツの軽オープンカー、コペンに注目したい。
2012年まで販売されていた初代コペンのファイナルモデルとして2012年4月に10周年記念車を発売。
現在中古車はAT車のほうが8台と流通台数が多く、平均相場も154万円と高い。残価率も7年落ちながら驚異の85.5%となっている。ヘタすると現行型コペンよりも高価格となっているかもしれない。
■スバルSTIタイプRA-R(2018年)
●残価率/113.6%

2018年7月19日、スバルのモータースポーツ、コンプリートカーを手がけるSTIが、創立30周年記念モデルとして、WRX STI特別仕様車の「タイプRA-R」を500台限定、499万8240万円で販売を開始したが、なんとわずか8時間で完売 。
まだタイプRA-Rの中古車流通台数は少なく、5月15日時点で2台しかない。いずれも価格はASK表示で、一度問合せしないと価格はわからない。
そこで問い合わせしたところ、1台は走行2000㎞、オプション価格146万4275円込みで690万円。
もう1台は走行24㎞というほぼ新車状態のタイプRA-R。価格は総額568万円だった。いずれの2台も新車価格より高く、プレミアム価格となっていた。
スバルは、最近、60周年記念車をインプレッサやレヴォーグ、アウトバックなどに設定しているが、そのあたりも気になるところだ。
■アニバーサリーモデルは買っておくべきか?

今回、アニバーサリーモデルで値上がりしている車種を期待していたのだが、全体の傾向を見ると、一部の車種を除き、中古車になっても期待していたほど値段が上がっていないことがわかった。
やはり、内外装に特別な色を使用し、さらに人気の装備を装着する、いわば「大したことのないんじゃない?」と感じる〇周年記念車の中古車価格は、通常のモデルとあまり変わらない。アニバーサリーモデルという名に惑わされず、ちゃんと中身を見ている証拠。
アニバーサリーモデルでもやはり、STIタイプRA-Rのように走りに磨きをかけたクルマのほうが高価格を維持しやすいが、ランドクルーザーやハイエースといった人気車種はやはり特別仕様車の人気も高くなることがわかった。なかでも今回1番の衝撃は初代コペンだった。
限定、アニバーサリーという文言に惑わされず、そのモデルにどれくらいスペシャル感のある特別装備が付けられているのかが見極めどころ。安易に飛びつくことなかれ!