1970年代の排出ガス規制にも似ている
そうなると今後は燃費競争が展開されるが、従来とは様子が違う。数年前に軽自動車を中心に展開された燃費競争は、背景にエコカー減税があった。
エコカー減税の減税率は「燃費基準プラス20%」という具合に、燃費基準値をいかに超えたかで決まる。
ユーザーとしては燃費が良ければ、燃料代を節約できて、なおかつエコカー減税によって税金まで安くなるわけだ。
その結果、エコカー減税率がクルマ選びの指標にされ、燃費競争が巻き起こった。
ところが今後は、11年後に燃費数値を32.4%向上させることが義務付けられる。エコカー減税率を高めて税額を抑え、売れ行きを伸ばそうという販売促進的な競争ではなく、もっと差し迫った緊張を伴う課題だ。
この状況は、メーカーが「クルマを生産できなくなる!」と慌てた1970年代の排出ガス規制にも似ているだろう。
いきなり燃費を32.4%向上させることは不可能だから、フルモデルチェンジやマイナーチェンジの度に、段階的に数値を高めていく。
そしてこの燃費規制は、全車をクリアさせるものではなく、出荷台数の平均で達成すれば良い。
つまりひとつのメーカーが燃費の優れたクルマを大量に販売すれば、少数しか売られない燃費の悪いスポーツカーを存続させられるわけだ。このあたりは例外を許さなかった1970年代の排出ガス規制よりも融通が利く。
それでも大量に売るクルマは、ハイブリッドに移行していく。従来のクルマでは、減速エネルギーは熱に変換して大気に放出されていた。
それがハイブリッドなどモーターを備えたクルマであれば、廃棄されていた減速エネルギーを使って発電を行い、その電気をホイールの駆動に再利用できる。燃費の向上には減速エネルギーの活用が不可欠だから、ハイブリッドに移行するわけだ。
そしてハイブリッドには複数の種類があり、駆動用モーターと発電機を別個に備えた2モーター方式であれば、さらに効率を高められる。ホイールの駆動はモーターが受け持ち、エンジンは発電機の作動に専念できるからだ。
2モーター方式のエンジンは、走行状態にかかわらず、効率の良い回転域を使える。効率を追求するエンジンが、低速走行時などに過剰な発電をした時は、リチウムイオン電池に蓄えればよい。
この電気を使ってモーター駆動を積極的に行うと、エンジンを停止させて走る時間と距離を長くできる。その分だけ燃料消費量を減らせるわけだ。
2030年にはエンジン専用車がなくなる?
ここで、自動車メーカー別にパワートレインが今後どうなっていくのか、見ていきたい。
■トヨタ
トヨタは2019年6月7日、「トヨタのチャレンジ EVの普及を目指して」と題して記者会見を行った。
車両電動化への取り組み方針を解説する内容で、トヨタの先進技術カンパニーのプレジデント、寺師茂樹副社長が説明した。
内容は、2017年12月に発表した電動車販売計画を5年前倒ししたもの。2030年にハイブリッド車、プラグインハイブリッド車を450万台以上、EV、FCV(燃料電池車)を100万台以上にするという計画を2025年目標に前倒しし、より早く進展させるというものだ。
現在、トヨタは小型/普通乗用車の45%がハイブリッド。車種によってハイブリッド比率に差はあるが、搭載車は多いから、価格設定や販売の仕方によって大幅に増やすことになるだろう。
すでに2025年にはエンジン専用車となくすと表明しているが、ハイブリッドに加えて、ついにEVに本腰を入れた、ということだ。
また、2017年9月、トヨタとマツダ、デンソーの3社がEVを共同開発する新会社を立ち上げたが、 2018年1月にはスバルやスズキ、ダイハツ、日野が加わり、同年10月にはいすゞとヤマハ発動機も参加を表明、合計9社が名を連ねることになった。この新会社がどのようになっていくのか今後の展開に目が離せない。
■日産
日産はノートとセレナにe-POWERを搭載して、セレナにはマイルドタイプのS(スマートシンプル)ハイブリッドもある。電動化が進み、その比率は58%に達した。日産は今後、この流れを加速させていく。
日産は、2018 年3月に世界的商品戦略、同年4月に国内事業計画を発表。2022年までに新型車となるEVを3車種、e-POWER5車種を国内向けに投入すると発表した。この5車種とは ノート、セレナ、エクストレイル、ジューク、キューブの後継モデルとなる 。EVはニッサンIMxコンセプトから発想を得たグローバルなクロスオーバーEVや、日本向けの軽自動車のEV の投入も含まれる。
この投入によってEVとe-POWER搭載車を含む電動駆動車の販売台数に占める割合が、日本と欧州で2022年までに40%、2025年までに50%、米国においては2025年までに20~30%、中国では35~40%になると見込んでいる。
また2030年頃にはシリーズハイブリッド車(HEV)の販売台数がEVとほぼ同等になり、全体の1/4を占める見通しを示している。これは2018年度の販売台数を前提にすると、約138万台に達する。HEVの鍵を握るガソリンエンジンは、わずか2~3機種で、HEVの全車種に対応できると見込む。HEVのコストを大幅に下げて、HEV王者のトヨタを追いかける想定だ。
■ホンダ
ホンダでは上級車種に2モーター方式のスポーツハイブリッドi-MMDを搭載してきたが、2019年の東京モーターショーで登場する次期フィットは、同様のシステムを小型車用に変更し、なおかつコストダウンして搭載する。高効率なi-MMDを一気に広めて、新しい燃費基準に対応するわけだ。
今のホンダは、国内で販売する新車の約50%が軽自動車だから、小型/普通乗用車に限れば、半数以上がハイブリッド車になった。
フィットやフリードといった売れ筋車種には、現時点ですべてハイブリッドが用意される。i-MMDをフィットに割安に搭載するなどラインアップを整えれば、ハイブリッド比率を100%近くまで高めることも可能だろう。
ホンダは、2030年をめどに世界販売台数の3分の2を電動車とする計画(EV + FCVで15%、HEV + PHEVで50%)を発表している。
欧州では2025年までに販売するすべての車両を電動化、中国市場には2025年までに20機種以上の電動車モデルを投入するとしている。
すでに1モーター、2モーター、3モーターと3タイプのハイブリッド車、PHEV(クラリティPHEV)、FCV(クラリティFCV)、EV(クラリティ Electric、米国専用車)など多くの電動車を投入。今後、ゼロエミッションへ向けてEV/PHEVに注力するとしている。
また、最近、EVの投入計画を相次いで発表した。2018年11月の中国広州モーターショーで、中国専用EV「理念VE-1」を公開し、12月から生産を開始。
2019年3月のジュネーブモーターショーでは、小型EV「Honda e」のプロトタイプを世界初公開し、欧州で2019年後半に日本では2020年の発売を予定している。
■スバル
2019年6月6日、トヨタとスバルは中・大型乗用車向けのEV専用プラットフォームおよびCセグメントクラスのSUVタイプのEVを、共同で開発することで合意したと発表した。
両社は共同開発した車両を両ブランドで販売する予定で、トヨタの電動化技術とスバルの4WD技術を取り入れることで、魅力ある商品づくりにチャレンジするとしている。
今後、スバルは、2025年に向けた新中期経営計画STEPに基づき、すでに2018年末にはクロストレック(日本名XV)PHEVを発売、2022年に新型EV、HEVも2020年代前半から順次投入していくとしている。
その一方で、2020年にはレガシィおよびアウトバックの国内投入、2Lと1.8Lに代えて1.8Lと1.5Lのダウンサイジングターボを搭載した新型レヴォーグを2020年に発売する予定。
2021年には新型BRZ、WRX STI&S4、2023年にはグローバル戦略SUV投入と今後5年間は、スバルにとっては重要な節目となるのは間違いない。
■マツダ
今後、マツダ3以外にもガソリンエンジンにおける圧縮着火を世界で初めて実用化した次世代エンジン、SKYACTIV-Xの搭載車種を増やしていく一方で、2030年に生産するすべての車両に電動化技術を搭載すると発表している。
内訳の5%は電気自動車(EV)で、バッテリーのみで駆動するモデルと、ロータリーエンジンを発電に使うレンジエクステンダーモデルを開発する。エンジンのみで走るクルマはラインアップからなくす方針だ。
残りの95%は内燃機関に電動化技術を組み合わせた「xEV( EV、PHEV、HV、マイルドHV、FCV )」とする。
xEVの戦略の1つとして、新開発のロータリーエンジンを核に、駆動用モーターの出力やバッテリーと燃料タンクの容量を市場に合わせて調整するマルチソリューション化により、1車種でさまざまな電動パワートレインを設定できるようにする。
※xEVはEV、PHEV、HV、FCVなど電動車両の総称
その第一弾として、2020年にマツダ独自のEV(ピュアEV/ロータリーエンジンなどを使ったレンジエクステンダーEV)を発売すると発表している。
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