自工会「オールジャパン」で遂行していく「新7つの課題」とは?
池田:まずは①番目の課題「重要資源・部品の安全保障」。最近の例でいうと半導体不足ですね。自動車メーカーは製造業なので、サプライチェーンの流れが途切れるとものが作れなくなります。
それを避けるために重要資源と部品をどういう風に確保するか、ということ。いわゆる「レジリエンス」(強靭化/逆境を乗り越える力)が大切。何かあった時に大丈夫! というような安全性の高いサプライチェーンを再度構築するもの。その強靭化を、14社合同でやろうというものですね。
司会(角田):おお。なるほど。
池田:例えば、今までならサプライチェーンのコストの関係で安い部品が買えていたけど、(災害や紛争など)場合によっては高くなる。でも、全社みんなで数を集めてさまざまな購入ルートを確保しておけば、供給が途絶えるリスクは減るし、値段も下がるかもしれない。
司会(角田):確かにそういう効果はあるかもしれません。
池田:そういう意味では、協調戦略を取ることで、みんなが必要とする要素を揃えて規格化することで、重要資源と部品の安全保障をよくしていきましょう、というテーマですね。
司会(角田):次の②番目の課題「マルチパスウェイの社会実装」。こちらの具体的中身とは何でしょう?
池田:2050年のカーボンニュートラル社会に向けて、「マルチパスウェイが重要なカギ」というのはみんなわかっているのですが、社会に実装するにはルール決めなどが必要。例えば、先ほど話に出したバイオエタノール。成分数値をどうするかなどのルール作りを、14社みんなで話し合うこと。
司会(角田):なるほど。題材により14社それぞれが分担することもあるんですか?
池田:あるでしょう。例えば、ディーゼル用の代替燃料はウチの会社がやります、ウチはEVを中心に担当します、と。各社、強みを生かした受け持ちジャンルでマルチパスウェイに向けて研究を進め、お互いに技術供与もするというものです。
さらに、EVを普及させるためには充電器の普及が重要です。でもこれは、自動車メーカーだけではどうにもならないわけですね。国とも話し合わないとならない。
司会(角田):そうですね。
池田:充電器の普及については、日本自動車工業会(自工会)だけでなく日本経済団体連合会(経団連)とのつながりが大切になる。そのために、佐藤恒治氏はトヨタの社長を辞めて、自工会の会長と経団連の副会長を兼任することになりました。
自工会だけではなく経団連側にもいろんな申し入れをしながら、EVを含めたマルチパスウェイを、我々(自動車メーカー)はこういうふうに進めようとしていると説明し、場合によっては協力も仰ぐ。政治や行政も含めた、まさにオールジャパンとして戦っていくための枠組みを作り、進めています。逆にいえば、その仕事をするために佐藤氏はトヨタの社長を退任するしかなかったわけです。トヨタの社長業と並行してはできない、と。業務量がものすごく大きいのと、トヨタの社長のままでは、どうしても「トヨタに有利な仕組みづくりなのでは?」という疑念が生まれますから。
司会(角田):なるほど。佐藤さんの社長交代劇はかなり注目を浴びたんですけど、そんな背景があったとは……。佐藤氏が自工会の会長と経団連の副会長になったのは、今後の日本の自動車産業にとって大きなポイントですね。
クルマと人が混在する道路での「自動運転の高いハードル」
池田:次は③番目の課題「サーキュラーエコノミーの仕組みづくり」について。「サーキュラーエコノミー」とは「循環型経済」のことで、製品と原材料を廃棄せずにうまく循環させ、資源を活用しながら付加価値を作り出す新しい経済システムのこと。これの仕組み作りを取り組もうというものです。
特にEVに関してはバッテリーの再生が今のところまったくできていない。実験室レベルではできているけど、採算に合うのかというと全然合わない状況。たとえば話題のリン酸鉄のバッテリー、いますごく増えていますよね。
司会(角田):もう中国勢のEVのバッテリーはほぼリン酸鉄製のバッテリーです。
池田:増えるのは結構だけど、リン酸鉄はリサイクルするのがすごく大変です。なぜかというと、リサイクルして出来てくるのがリンと鉄で、これ、安いんですよね。
司会(角田):安いということは(リサイクルしても)儲からないということ?
池田:そう。だから「1万円かけて再生したら100円のものが出来る」みたいな話になってしまう。リサイクルのシステムが成立しないという大きな懸念材料があります。だから、おそらくこの先、最終的には新車を買う時のリサイクル費用に、バッテリーのリサイクル費用を組み込むしか方法はないと思いますね。
そういった、バッテリーのことをはじめ、クルマに関わるリサイクルを、どういうルールにして、採算の合う仕組みづくりを14社で取り組んでいこう、という課題です。
司会(角田):続いての④番目の課題は「人材基盤の強化」ですね。
池田:就労人口が減っていくなかで、若い人を含めて多くの人に、「自動車産業に関わる仕事は夢があるね」と思ってもらえるよう変えていこう、という取り組みです。
司会(角田):業界の基盤を支える重要な課題ですね。次は⑤番目の課題「自動運転を前提とした交通システム確立」です。
池田:世間でよく取りあげられる「自動運転」、これ、今は車両側からのアプローチの話ばかりが多いけど、例えば、ガードレールがあるところとないところでは走行の安全性が違うわけです。とすると、自動運転をやるからにはガードレールがある道か、ない道かを車両が判断するシステムが必要。万が一何かあった時のためにも、それを備えないといけないんですよ。
だから、自動運転は本来、車両の機能。人がそれを補完する安全性。そして、インフラの安全性。この3つがないと成立しないんですよね。
司会(角田):東京銀座の裏通りなど、クルマと人がうじゃうじゃ混在している道では、自動運転のハードルはかなり高そうですよね。
池田:そうです。人は必ず歩道だけ歩くわけじゃなくて、車道に入ってきたりしますから。例えばガードレールの内側しか人が歩かないようにするなど、歩車分離をしっかりしないと自動運転は難しい。場合によっては、横断歩道に駅にあるホームドアのようなものを設置して、そのドアが開かない限り車道に出てこないようにするとか。そういう安全性の完備やインフラ整備をしないと、自動運転は難しい。この先、その自動運転を前提とした交通システムを自工会で考えましょう、という課題ですね。
司会(角田):⑥番目は「自動車関連税制 抜本改革」という課題ですね。
池田:中身としては「簡素化・負担軽減でユーザーに納得感のある税体系へ」です。例えば燃料に対する課税。現状、ガソリンにかなりの税が負担されており、今後EVが増えていけば電気料金もやはりそうせざるを得ないですよね。
仮に全車両のEV比率が30%になったら、EVだけ(電気料金だけ)追加課税なしというわけにはいかないと思う。公平で、納得のいく税制の再構築をやっていく必要がありますよね。
司会(角田):なるほど。最後の⑦番目は「サプライチェーン全体での競争力向上」。
池田:例えばエンジン部品の標準化。サプライチェーン全体でエンジン部品を標準化、規格化にしましょう、と。ものによっては標準化はできるんですよ。
司会(角田):おお、なるほど。そうするとエンジン、作りやすくなりますね。今後、内燃機関が少しずつ減ったとしても、標準化すれば低コストでできる、と。
池田:半導体もそうです。半導体の開発サイクルは、本来、クルマのモデルチェンジ・サイクルに比べてすごく短くて、数年単位でぼんぼん新しいタイプに変わります。いっぽうクルマは、開発のところから入れたらその世代終了まで、十数年ほどのモデルチェンジ・サイクルになります。その十数年も同じ製品(半導体)を作ってくれ、供給し続けてくれと言われても、半導体メーカーにしてみれば、そんな古い部品を今さら発注しないでよ、という話になる。
だから、何年で切り替えるというルール作りをみんなで決めて、半導体メーカーとの歩幅をある程度合わせましょう、ということを自工会側は考えています。
司会(角田):紹介していただいた「新7つの課題」を掲げて自工会の改革がうまくいくと、日本に関していえば2050年のカーボンニュートラルを、自動車メーカー14社が足並みを揃えて走っていく可能性が高そうで、僕らも期待が持てますね。




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