日産の無資格者完成検査問題とは何だったのか


■原因は法令遵守意識が希薄だった? それとも人手不足?

 会見の席上、西川社長は今回の無資格検査の問題について、

「国交省が検査に入るまで、まったく認識していなかった」

 と釈明した。しかし、その後の調査では1枚の検査記録データに検査員の名前は同じだが、形状が異なる2つの押印がある書類も見つかった。

 無資格の検査員は正規検査員から本人用とは別の印鑑を渡され書類に押印していたという。ブレーキの利き具合など安全性にかかわる最終的なチェックを行う完成車両の検査を有資格者になりすまして検査書類を作成していたというわけだ。

 学生時代には授業をサボった友達の代わりに点呼の際に「代弁」を頼まれたことがあったが、不正は不正でも日産の工場での「替え玉」検査の偽装とは比べようもない。

 そもそも、道路運送車両法では、出荷前の新車は本来1台ごとに運輸局の車検場に持ち込んで、ブレーキやライト、排ガスなどが国の基準を満たしているか検査を受ける必要がある。

 ただ、新車を大量生産するメーカーは、自社の「完成検査」で保安基準を満たすと国交省に認められた「型式」どおりに製造したかをチェックすれば、車検を受けたとみなされ、その証明により路上を走る車両として認められる。

 国による出荷前検査をメーカー責任で代行する仕組みであり、国が定めた「完成検査員」は、各社が知識や技能を考慮し、自社で指名した従業員が検査するように求めている。

 日産が全工場で認定した正規の「完成検査員」は約300人、補助検査員は約20人。

 西川社長は「経営拡大路線で人手が足りなくなるなかで起きたわけではない」と、人員コストの削減が不正の背景にあるとの見方を否定したが、生産の現場からは「手数が足りなくて作業が遅れることもしばしばある」(日産工場従業員)との悲鳴も聞こえる。

 いっぽうで、「匠の技を持つ熟練工と違い、3カ月も実習すれば資格が取れるのに、なぜ、検査員の育成指導を強化しなかったのか」(ライバルメーカーの生産管理担当)との声もある。

■日産が失ったのは約250億円のリコール費用と信頼

 西川社長は記者会見で「モノづくりの世界ではあってはならないことだ」と猛省したうえで、「検査そのものは確実に行われていた。安心して使ってもらえないことはない」と強調した。

 百歩譲っても「ルール違反」を見逃すわけにはいかないが、西川社長が「安全性には問題がない」と主張しているのは、補助検査員でも一定の技能知識に習熟しており、完成検査に必要な項目は、作業工程の各段階でも不具合はないか常に厳しくチェックを積み重ねているという理由からだ。

 それでも、10月6日には、2014年1月6日から2017年9月19日に製造されたスズキや三菱自動車などの生産(OEM)分も含め38車種、約116万台のリコールに踏み切った。

 約250億円の費用を見積もっているが、いち早く再点検することで購入者の不安や疑念を解消し、無資格検査問題の決着を図りたい狙いがある。

 しかし、中期経営計画の公表を延期し、今年の「日本カー・オブ・ザ・イヤー」の出場辞退(自粛)など、日常業務でも波紋が広がっている。

 しかも状況はさらに悪化する。

 西川社長は、先の10月2日の会見では「9月20日以降は認定の検査員が100%行うようになった」と発言していたが、10月18日に報道された新たな情報として、10月11日まで、日産車体湘南工場で検査を無資格者が継続していたことが、第三者を交えた社内調査で発覚している。

 国や消費者に対しても虚偽の発言をしたことにもなる。

 徹底した原因究明と再発防止策が急務だが、長年にわたり、日産の完成検査の現場で組織的な偽装工作が横行していた可能性は否定できず、傷ついた信頼の回復は容易ではないだろう。

会見に臨んだ日産の西川社長。日本自動車工業会の会長を務めているが、東京モーターショー期間中は、筆頭副会長であるトヨタの豊田章男社長が「会長代行」として公式行事を務めることになった
会見に臨んだ日産の西川社長。日本自動車工業会の会長を務めているが、東京モーターショー期間中は、筆頭副会長であるトヨタの豊田章男社長が「会長代行」として公式行事を務めることになった

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