日産の無資格者完成検査問題とは何だったのか

■なぜ最初から西川社長が謝罪会見を開かなかったのか?

 対応に追われた日産は、9月29日夜には緊急記者会見を行い、企画・監理部と広報担当の部長クラスが出席。経過説明とともに深々と頭を下げて謝罪した。

 本来、経営を揺るがしかねない不祥事が発覚した場合は、経営トップか、それに準ずる代表権を持つボートメンバーが説明するのが通例だ。昨年、三菱自動車とスズキが燃費データ改ざんを公表する際は経営トップが対応している。

 ところが今回、日産の西川廣人社長が重い腰を上げて記者会見を開いたのは、部長クラスによる最初の会見から3日後の10月2日夕刻。会場は都心から離れた日産横浜本社だった。

 経緯を説明し、「お詫びを申し上げる」と陳謝したものの、(企業が謝罪会見を開いた際には通例となっている「深々と頭を下げる行為」はなく)淡々と事情説明に終始した会見だった。

 以前、トヨタ自動車もリコール問題が取り沙汰された際に、当時マスコミ取材に消極的だった豊田章男社長の会見を夜遅く名古屋のオフィスで行ったことがあった。

 在京のメディアのなかには最終の新幹線に乗り遅れて始発まで駅周辺で夜を明かした記者もいたという。

 取材となれば、いつ、どこでも駆けつけるのが記者の使命だが、「上から目線の対応では、危機管理意識が足りないと思われてもしかたない」(大手メーカーの広報担当)との指摘もある。

 この時点での日産の対応も(「謝罪会見ではない」と印象づけるための危機管理処置だったのかもしれないが、のちに発覚する諸々の状況を考えると)、企業体質そのものを如実に反映した認識の甘さがあったと言わざるを得ない。

■原因は法令遵守意識が希薄だった? それとも人手不足?

 会見の席上、西川社長は今回の無資格検査の問題について、

「国交省が検査に入るまで、まったく認識していなかった」

 と釈明した。しかし、その後の調査では1枚の検査記録データに検査員の名前は同じだが、形状が異なる2つの押印がある書類も見つかった。

 無資格の検査員は正規検査員から本人用とは別の印鑑を渡され書類に押印していたという。ブレーキの利き具合など安全性にかかわる最終的なチェックを行う完成車両の検査を有資格者になりすまして検査書類を作成していたというわけだ。

 学生時代には授業をサボった友達の代わりに点呼の際に「代弁」を頼まれたことがあったが、不正は不正でも日産の工場での「替え玉」検査の偽装とは比べようもない。

 そもそも、道路運送車両法では、出荷前の新車は本来1台ごとに運輸局の車検場に持ち込んで、ブレーキやライト、排ガスなどが国の基準を満たしているか検査を受ける必要がある。

 ただ、新車を大量生産するメーカーは、自社の「完成検査」で保安基準を満たすと国交省に認められた「型式」どおりに製造したかをチェックすれば、車検を受けたとみなされ、その証明により路上を走る車両として認められる。

 国による出荷前検査をメーカー責任で代行する仕組みであり、国が定めた「完成検査員」は、各社が知識や技能を考慮し、自社で指名した従業員が検査するように求めている。

 日産が全工場で認定した正規の「完成検査員」は約300人、補助検査員は約20人。

 西川社長は「経営拡大路線で人手が足りなくなるなかで起きたわけではない」と、人員コストの削減が不正の背景にあるとの見方を否定したが、生産の現場からは「手数が足りなくて作業が遅れることもしばしばある」(日産工場従業員)との悲鳴も聞こえる。

 いっぽうで、「匠の技を持つ熟練工と違い、3カ月も実習すれば資格が取れるのに、なぜ、検査員の育成指導を強化しなかったのか」(ライバルメーカーの生産管理担当)との声もある。

次ページは : ■日産が失ったのは約250億円のリコール費用と信頼

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