■日産が失ったのは約250億円のリコール費用と信頼
西川社長は記者会見で「モノづくりの世界ではあってはならないことだ」と猛省したうえで、「検査そのものは確実に行われていた。安心して使ってもらえないことはない」と強調した。
百歩譲っても「ルール違反」を見逃すわけにはいかないが、西川社長が「安全性には問題がない」と主張しているのは、補助検査員でも一定の技能知識に習熟しており、完成検査に必要な項目は、作業工程の各段階でも不具合はないか常に厳しくチェックを積み重ねているという理由からだ。
それでも、10月6日には、2014年1月6日から2017年9月19日に製造されたスズキや三菱自動車などの生産(OEM)分も含め38車種、約116万台のリコールに踏み切った。
約250億円の費用を見積もっているが、いち早く再点検することで購入者の不安や疑念を解消し、無資格検査問題の決着を図りたい狙いがある。
しかし、中期経営計画の公表を延期し、今年の「日本カー・オブ・ザ・イヤー」の出場辞退(自粛)など、日常業務でも波紋が広がっている。
しかも状況はさらに悪化する。
西川社長は、先の10月2日の会見では「9月20日以降は認定の検査員が100%行うようになった」と発言していたが、10月18日に報道された新たな情報として、10月11日まで、日産車体湘南工場で検査を無資格者が継続していたことが、第三者を交えた社内調査で発覚している。
国や消費者に対しても虚偽の発言をしたことにもなる。
徹底した原因究明と再発防止策が急務だが、長年にわたり、日産の完成検査の現場で組織的な偽装工作が横行していた可能性は否定できず、傷ついた信頼の回復は容易ではないだろう。
■なぜこの時期に立ち入り検査したのか?
それにしても、国交省はなぜ、この時期に抜き打ちで立ち入り検査を行ったのだろうか。巷では「現場を軽視する経営陣への嫌がらせで、待遇に不満の期間従業員の告発」(業界関係者)との噂話もあるが、真相はやぶの中。
そこで注目したいのは衆院解散・総選挙が急浮上した直後に、立ち入り検査を行ったことである。
石井啓一国交相は「使用者に不安を与えて極めて遺憾。安全性の確保と再発防止の徹底について厳正に対処していく」とコメントした。
森友・加計学園問題などで批判を浴びた安倍内閣が、常態化した不正行為を正す改革姿勢をアピールして支持率の低下を食い止めたいとする意図も読み取れる。
前述のように、石井国交相も「制度の根幹を揺るがす行為」と批判したが、制度そのものが時代に即さないとの指摘もある。資格者の選定も曖昧な基準を再検討するなど検査制度の抜本的な見直しに真剣に取り組むべきだろう。
日産の偽装工作の疑いが発覚してから、ほぼ1カ月半になるが、信頼を裏切るような「反則行為」だけに、監督官庁の国交省やユーザーもあっさり見逃すことができないのは当然だろう。
危機意識の甘さや現場との風通しの悪さなども浮き彫りとなり、今後、原因究明がどこまで進められるのか、日産の無資格検査問題は、経営責任が問われる新たな局面を迎えている。
■全国の販売店はどう対応するのか(編集部)
日産は38車種、約116万台のリコールを国土交通省に届け出たが今後の展開としては、10月末までに対象車種を割り出し、該当者のユーザーにお詫びと点検を要請するDM(ダイレクトメール)を発送した。
ユーザーはそのDMを携え、該当車を指定された販売店に持ち込むことになる。これを各サービス工場に在籍する資格のある検査員が点検し問題がなければユーザーに引き渡し、走行が可能となる。ところが実際は問題が山積している。
点検に要する作業時間は1台について2~4時間程度かかるといわれる。車検とほぼ同じチェック項目をクリアしなければならないからだ。
したがってユーザーが愛車を持ち込んでから点検作業が終了するまでショールームで待たせるわけにはいかない。ユーザーはいったん自宅に帰るとすれば、その足や費用は誰が負担するかである。終了した愛車は営業マンが届けることになる。
サービスマンの半数(1店舗4~5人程度)は自動車検査員の資格を持っているので、この人たちが点検作業にあたる。ところがこちらのスタッフも日常は定期点検、車検、修理の業務を行っているので、そちらの作業を遅らせることはできない。
「販売店は作業にかかった費用をメーカーに請求するので、経営には多少のプラスになると思いますが、営業マン、サービススタッフは残業といってもそれほど手当が上がるわけではないのでくたびれもうけですね」(首都圏日産営業マン)とコメント。
また「お客さんにお詫びをする。そのうえ、引き取り納車で時間を取られるのでその間、本来の新車販売業務ができないのがつらいです」と頭を抱える。
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