いまBEVが一般ユーザーの需要を「まともに」満たせるのは両極端だけ 【短期集中連載:第一回[後編]クルマ界はどこへ向かうのか】

■そもそも「充電インフラ」が成立していない

 BEVがファミリーカーとして本格的に普及するには、バッテリーが唯一の問題というわけでもない。出先での充電、いわゆる「経路充電インフラ」の普及や事業化も、まだまだなのだ。

 政府にもっと金を出せという声は大きいが、それ以前の問題として、重たいイニシャルコストを全額補助でカバーしても、充電事業の採算化は難しく、世界中を見回してみても、まだ誰も「それ」を成し遂げていない。

 当たり前だが、未来永劫続く補助金はあり得ない。タダで設置してもらった充電器は、耐用年数を迎えたところで、新品の代替機に入れ替えたいところだが、続々と廃止になり、充電拠点が減っている。

 補助金でイニシャルコストをゼロにしても、ランニングコストぶんも稼げない赤字では継続のしようがない。

 いずれにしてもどこかで充電事業をサステイナブルにしない限り、インフラが発展する可能性はない。充電単価を上げるしかないだろう。

経済産業省「充電インフラ整備促進に関する検討会 事務局資料」より資料引用。2019年3月には国内22,494台あった普通充電器が、2023年3月は20,974台まで減っている。普通+急速充電器数も30,242台(2019.3)→29,969台(2023.3)に減少。初期設置費用は補助金で賄えるが、現時点で「充電ビジネス」が成立していないため、古くなった充電器を入れ替えることができていない
経済産業省「充電インフラ整備促進に関する検討会 事務局資料」より資料引用。2019年3月には国内22,494台あった普通充電器が、2023年3月は20,974台まで減っている。普通+急速充電器数も30,242台(2019.3)→29,969台(2023.3)に減少。初期設置費用は補助金で賄えるが、現時点で「充電ビジネス」が成立していないため、古くなった充電器を入れ替えることができていない

 そうしたBEVのランニングコストの上昇も含めて、結局のところ、すべてを決めるのは「市場の吸収力」である。BEVの普及は、お客に選ばれ、買ってもらって初めて成立するし、充電も事業化して成立する。

 そこを無視して「作ればなんとかなる」という雑なプランで行くからフォルクスワーゲンのようにリストラに至ったり、中国のようなBEVの墓場ができるわけで、そこがわかっているテスラは「低価格モデルを出す」「もうじき出す」と言い続けているが、いまだに出してこない。筆者の買い被りでないのなら、現状では訴求力のある商品にならないと判断しているのだと思う。

■「指をくわえて待っていろ」というわけでは断じてない

 ということで、BEVの普及には、何よりもバッテリーの価格を下げることと、充電インフラの事業採算性を確立することが必須であり、それを解決しないまま勢いだけで「今でしょ?」というのは無謀。

 昨今、スピード経営が無闇に持ち上げられているが、すでに述べたとおり、他山の石とすべき事例が先行している。

 早く仕掛けて失敗に至った例こそ直視すべきであって、当たり前の話だが物事にはタイミングというものがある。

 主流のファミリーカーに関しては、状況が煮えてくるまでは仕掛けるタイミングを見計らうべきで、現状では調査目的で先行的に商品をリリースする程度にとどめたほうが賢明だ。

 そうした状況判断を単純に「出遅れ」呼ばわりするなら、拙速を尊ぶとでもいうのだろうか? 本格的にBEVビジネスを仕掛けるには残念ながらまだ機が熟していない。バッテリーに関しては多少なりとも前進は見られるものの十分とは言えず、結局のところ課題そのものは3年前とまったく同じである。

 ……と書くと誤解を受けるのだが、課題が3年前と同じだからと言って、ただ誰かが解決してくれる時まで指を咥えて見ていろという意味ではない。事態を自分で切り開くトライは当然必要だ。

 バッテリー価格と充電インフラについて、誰かが研究開発を続けなければ、いくら待てども機は熟さない。当然、日本の自動車メーカーも無策でいるわけではなく、その機を熟させるために、さまざまなトライアルを行なっているのだ。それこそが「マルチパスウェイの本質」である。

「第二回」に続く
「池田直渡の脱炭素の闇と光」シリーズ一覧はこちらから

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