短期連載第二回のテーマに掲げた「半導体不足と納車待ち」は、ユーザーの関心事であるものの、半導体不足の本質はもっと根深いところにありそうだ。
文/清水和夫、写真/Adobe stock、ベストカー編集部、ネクステージ
(編集部注/本稿は『ベストカー 8/10号』初出の短期集中連載第2回『清水和夫 日本のクルマ界は生き残れるか?』の再録となります)
■「納車待ち」の長期化は解消するのか? このままか?
トヨタやホンダに聞くと、「新車の納車が遅れているのは半導体不足であることは間違いない」という。しかし、これは日本だけの問題ではなく世界的な状況でもある。
それではなぜ半導体が不足したのか? その原因は一つではなく、複合的な要因が絡んでいる。一つは米中の経済的なコンフリクト。二つ目はコロナで工場が閉鎖され、ポストコロナで半導体の需要が急増したことなど。
半導体という製品は受給バランスの変化に対応するのが難しい製品であり、半導体メーカーは供給過大によるコスト低下を恐れている。いずれにしても2023年末から2024年の春にかけて、この受給バランスは改善する、とメーカーは期待している。
コンピューターがあらゆる「モノ・コト」を支配する現代社会ではデジタルとソフトウェアが深く関係し、この領域の技術を持つことがその国の繁栄に深く関わる。こうしたデジタル社会の背後には「CHIP WAR」とよばれる半導体争奪戦争がうごめいている。「半導体が不足するから新車が買えない」というのは、一つの現象に過ぎない。
大きな視野で半導体問題を考えると、はたして日本は強いのか、弱いのか。現状は鳥肌が立つほどの危機に瀕しているのではないだろうか。そんな半導体を理解するために、まずは半導体のイロハからレポートする。
■ポスト石油は半導体
まずは半導体が経済産業や国家の安全保障に深く関わるようになってから四半世紀以上も経っているが、20世紀の機械文明を支配してきたのはまぎれもなく石油であり、石油争奪戦のために二度も大きな戦争を行ってしまった。しかし、その石油争奪戦の勝者はいなかったことは皮肉だった。というもの、その資源がずっと使用できるわけではないということが最近になってわかってきたからだ。
石油の大量消費によって「地球資源問題、気候変動問題、安全保障問題」などのリスクが高まってきている。こうして石油は社会を支配する王座から退く時期がきたようだ。
その石油に替わって21世紀の社会を支配するのは一体誰なのか。多くの人は「再生可能なエネルギー」と答えるかもしれないが、もう一つの支配者は「半導体」であろう。
半導体は、我々が気づかないうちに社会の隅々まで浸透し、私たちの暮らしを支えている。高度なコンピューターの心臓部に使われるだけでなく、驚くほど小さな電子の振る舞いを制御し、この「ミクロの支配者」は航空機からスマートフォン、コンビニの自動ドアやキャッシュレス決済、また家庭にある洗濯機などにつかわれている。
もちろん、現代のクルマは数十個のCPU(チップ)が使われていることは周知のことであるが、ADAS(高度運転支援・自動運転)が普及すると半導体の数は膨大に膨れ上がる。ここ数年、次世代車はBEV普及にともなう「バッテリーとレアメタルの獲得合戦」と言われてきたが、「半導体の確保」も急務なのである。
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