テスラ「サイバートラック」と「株価」と最強の省エネ低公害車「軽」の行く末【短期集中連載:第三回 クルマ界はどこへ向かうのか】

■「ジョンウェイン的世界観」はBEVでも作り出せる…のか?

 ただし、ピックアップトラックの世界ではV8至上主義が生きている。いわば「ガラケー」に誇りを持つ世界。映画のシーンなら「スマホなんぞを使うヤツは、帰ってママのおっぱいでも飲んでいな」とタフガイに言い放つ人種である。そこに理屈は通じない。

 ギークでサイバーな人は、V8よりもモーターのほうが低速トルクが出るし、制御も緻密にできる。「強いクルマを作るのなんか簡単だ」と考えている。

 ただ、筆者はここに両者の行き違いを感じ取る。

 ギークでサイバーな人たちは、「より強いクルマを作ればV8教徒もひれ伏すだろう」と思っているが、そんな理屈が通じるなら最初から苦労はない。今時デカいV8のピックアップトラックのどこに合理性があるのか。当のV8教徒にとっては結果が強いかどうかはほぼ関係ない。

 彼らが愛しているのは「様式」であり、「結果そのもの」ではない。伝統的価値観を愛する保守主義者は、そもそも破壊者を嫌う。

アメリカの車種別販売台数ランキングでなんと41年連続首位(2022年末時点)のフォード「F」シリーズ。2022年は年間約64万台を販売した
アメリカの車種別販売台数ランキングでなんと41年連続首位(2022年末時点)のフォード「F」シリーズ。2022年は年間約64万台を販売した

 そこにあれだけ新規性の高いデザインを持ち込んで、既存の価値観を壊そうとすれば対立が起きるのが道理である。だから現在ピックアップを買っているコア層には、サイバートラックはおそらく売れない。数の大きいピックアップトラックのマーケットを取りに行くのが戦略的な狙いだとしたら、その攻略は、たぶん難しいだろう。

 もちろんまったく新しいBEVトラックに目覚める新たなユーザーはいるかも知れないが、少なくともF150のBEVモデルである「ライトニング」は成功したと言い難い。ということで果たしてテスラの提案する新しい「強いクルマ」が彼らのお眼鏡にかなうかどうか、そこが勝負の分かれ目になるはずだ。

■日本の全メーカー合計より高いテスラの株価総額のカラクリ

 さて株価の話である。少し前までテスラの株価は、日本の全自動車メーカーの株価総額より高かった。同じようなことはバブルの時に見たことがある。日本の国土の地価総額がアメリカの3倍だった。

 すごい人気である。

 だがそれだけだ。

 仮に転売を禁止する条件で、「アメリカ3つと日本と、どちらかもらえるとしたらどちらが欲しいか」とか「テスラと日本メーカー全社、どちらかもらえるとしたらどちらが欲しいか」という問いで、答えは明らかになるだろう。

 原理に立ち返れば、「株価」とは、その企業が持っている資産に、配当総計(利益)を足したものを株式発行数で割ったものだ。細かくいえば実態貸借対照表上の利益なのだが、まあここでは概念の話なので。しかし現実の社会での株取引は、それに「みんながどのくらい欲しがるか」というプレミアムが足されて取引されている。

 株式売買のビジネス構造は、基本的に転売ヤーと同じで、品薄の商品(株)を「人気」というお気持ちの価格ぶん高く売る話である。1足2万円くらいのスニーカーが、ちょっとどこかに差異があるだけで、「いやそれはちょっとじゃない」という人に評価されてオークションでは3億円で取り引きされたりする。

 その評価価値はあくまでも「その取り引き」で成立した相場であって、距離や質量のように物理的に計測できるものだとは思わないほうがいい。

 たとえばテスラの株価は、イーロン・マスクがCEOを辞めたら崩壊しかねない。もちろん人事で株価が動くことはどこにだってあるのだが、おそらくテスラは動きの値幅が違う。

 要するに、株価というのは「今買ったら、利益を乗せて売れるか」という予想で決まる。外野であるマーケットが「まだ上がる」と思えれば相場が上がるだけのことで、皮算用評価額である。企業の実力を測るものではないし、本質的にいえば価値を測るものでもない。マネーゲームなので投資家と証券会社以外があんまり参考にするものではないと思う。

 あくまでも個人的意見だが、企業の価値はGDPをどれだけ生み出したかだと思う。だから営業利益こそがその指標だと筆者は考える。

 さて、編集部からのお題をどうやって1本の原稿に仕立てるかが腕の見せ所で、ここから軽自動車の話に繋げなくてはならない。

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