テスラ「サイバートラック」と「株価」と最強の省エネ低公害車「軽」の行く末【短期集中連載:第三回 クルマ界はどこへ向かうのか】

■日本23%削減に対して米9%増加って……

 株価が「お気持ち相場」だとすれば、実は「BEVが唯一解」という考え方も、「お気持ちの話」に筆者には聞こえる。

「内燃機関はCO2を出す」と「BEVはCO2を出さない」という対立構造は大変わかりやすいが、そこにLCA(ライフサイクルアセスメント)が入ってくると話が変わる。LCAは原材料の調達から製造を経て、製品として使用され、最終的に廃棄されるまでを通した、製品の一生のCO2排出量の話になる。

 大筋の理解としては、BEVは「作る時」と「廃棄する時」に大量のCO2を出す代わりに、走行中は出さない。それと比較すると、内燃機関は「作る時」と「廃棄する時」はBEVに比べてCO2の出は少ないが、走行中はBEVに対して比較にならないCO2を排出する。

 そうなると、さっき対立構造の話で出てきた「出すほう」と「出さないほう」の話ではなくなって、「どっちも出すけど、全体的に少ないのはどっち」という程度問題の話になってくる。「スピード違反は何キロまでしていいか」という話になれば、本来の話としては「1km/hたりともダメだ」という以外にない。だったらLCAで考えるかぎり、内燃機関がダメならBEVもダメだとなるべきである。

 しかしながらすでに議論のフェイズは程度問題に切り替わっているにも関わらず「出すほうと出さないほう」の「お気持ち」がキャリーオーバーされ、そこにかてて加えて「善悪論」が入り込んでくるから話がややこしくなる。

 生産時にCO2を先に出してしまうBEVは、走行時のゼロエミッションでその「借り」を返していく構造だ。推進派の人は「5万kmくらいで返済できる」と言い、対立サイドの人は「いやいや14万kmは走らないと無理だ」という。

 数字は人によって色々だが、このあたりは正直「答え」がない。前提条件の置き方次第で変わってしまうので、誰にもわからないのだ。

 単純な話、市街地でのストップアンドゴー付き5万kmと高速巡航中の5万kmではCО2削減ペースは当然違う。計算の基礎になるサプライチェーンの話にしても、災害や戦乱、物流の混乱などで輸入ルートが変わって、距離が変わればまた変わる。キリがない。

 要するに、ざっくりと程度問題の違いと理解して、それぞれの大まかな利用法で負荷の大きさを考え、選択する以外に、いま現実にできることはないのだが、そこに「電動化あるいはBEV化は、進めば進むほどよいこと」というお気持ちの倫理概念が入り込むので混乱する。

 たとえば日本は2001年から2019年までに、CO2排出量を23%も減らしている。これは実績値である。COP(気候変動枠組み条約国会議)のたびにこの実績を叩き出した日本によくぞ「化石賞」を贈れるものだと思う。

 アメリカ、ドイツ、オランダは、偉そうなことをいうわりには、この後に及んでCO2排出量を増やしており、原発大国のフランスも削減量は1%に過ぎない。

日本自動車工業会が作成した、ここ20年間のCO2削減量。2001年を「100」として、2019年時点で日本は-23、英国-9、フランス-1、オランダ+3、ドイツ+3、アメリカ+9という成績だった
日本自動車工業会が作成した、ここ20年間のCO2削減量。2001年を「100」として、2019年時点で日本は-23、英国-9、フランス-1、オランダ+3、ドイツ+3、アメリカ+9という成績だった

 2017年にはフランスのマクロン大統領が「気候変動で勘違いをしてはならない。プランBはないのだ。なぜなら地球の代替はないからだ」と大変ご立派な演説で、意識の低い世界中の人々を意識高く啓蒙していたが、マイナス1%でも減らせば地球を守れるらしい。

 欧州圏で最優秀のイギリスでもマイナス9%と、日本の削減量の半分にも及ばない。

 このぶっちぎりで世界一の日本のCO2削減実績の原動力は、3つの手段によるものだ。一つはハイブリッドの普及、二つ目はダウンサイジング、つまりユーザー全体が小さいクルマに乗り換えたこと。三つ目は軽自動車の性能向上と普及である。

「日本はBEVの普及が進まない」と毎度お小言をいただくBEV劣等国だが、その劣等国に2位が(CО2削減率で)ダブルスコアで負けるザマでどうするのだろう。世界のベストセラーBEV、テスラモデル3&モデルYのアメリカは、なんと驚異のプラス9%、フォルクスワーゲンID.シリーズのBEV先進国ドイツもプラス3%なので、実績を見るかぎりではBEVは結果にコミットしていない。

次ページは : ■CО2削減を進めるのは「お気持ち」ではない

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