三菱 パジェロ エボリューションは“ランエボ”に繋がる三菱渾身の「エボリューション」モデル【愛すべき日本の珍車と珍技術】

三菱 パジェロ エボリューションは“ランエボ”に繋がる三菱渾身の「エボリューション」モデル【愛すべき日本の珍車と珍技術】

 これまで日本にはたくさんのクルマが生まれては消えていった。そのなかには、「珍車」などと呼ばれ、現代でも面白おかしく語られているモデルもある。しかし、それらのクルマが試金石となったことで、数々の名車が生まれたと言っても過言ではない。

 当連載では、これら「珍車」と呼ばれた伝説のクルマや技術などをピックアップし、その特徴を解説しつつ、日本の自動車文化を豊かにしてくれたことへの感謝と「愛」を語っていく。今回は、パジェロのスーパーパフォーマンスモデルとして一世を風靡したパジェロ エボリューションを取り上げる。

文/フォッケウルフ、写真/三菱

【画像ギャラリー】空力性能とオフロード走破性の両立を徹底的に追求したパジェロ エボリューションの写真をもっと見る!(8枚)画像ギャラリー

ラリーの血統を色濃く引き継いだホモロゲーションモデル

 三菱パジェロは、1982年の登場以来、本格的なオフロード性能と洗練された都市型デザインを兼ね備えたクロスカントリー4WDとして国内外で高い評価を獲得していた。

 市販モデルとしてはもちろん競技ベース車として輝かしい実績を残しており、1983年から本格参戦した「パリ~ダカールラリー」においては、1997年に篠塚建次郎選手が日本人として初の総合優勝を果たすなど通算4度の総合優勝を達成。世界屈指の過酷なクロスカントリーラリーにおいて、安定した成績を残してきた。

 これらのラリー活動を通じて得られた技術は、市販モデルへと積極的にフィードバックされ、信頼性・耐久性・走破性の面で大きな優位点となった。そして、パリ~ダカールラリー参戦15周年の節目となる1997年9月には、究極のホモロゲーションモデルとして「パジェロ エボリューション」を市場へ投入する。

 「パジェロ エボリューション」のベースとなったのは2代目パジェロのメタルトップZR-Sだが、中身はまるで別物と言っていい。ラリーで鍛え上げられたノウハウが惜しみなく注ぎ込まれ、シャシー、ボディ、パワートレイン、サスペンション、そして内外装に至るまで徹底的にモディファイが加えられ、市販車の枠を超えた戦闘力を誇るモデルに仕上げられていた。

 まさに走るために生まれたパジェロであり、モータースポーツと市販車の理想的な融合を体現する存在として注目を集めた。

全長4075mm、全幅1875mm、全高1915mmという寸法のボディサイズと派手なエアロパーツが、人気のクロカンSUVにただならぬ雰囲気を纏わせている
全長4075mm、全幅1875mm、全高1915mmという寸法のボディサイズと派手なエアロパーツが、人気のクロカンSUVにただならぬ雰囲気を纏わせている

 スペシャルモデルとあって、内外装については個性を表現するだけでなく、パジェロシリーズのフラッグシップとしての品格を兼ね備えている。

 外装はフォグランプをビルトインした専用設計の大型フロント&リアバンパーとワイドトレッドに対応するオーバーフェンダーを装備して迫力を演出するとともに、アルミ製ボンネットフードおよびスキッドプレートを採用することで軽量化と重心低下が図られている。

 また、車両の操縦安定性および快適性を向上させるためフレーム剛性を最適化し、空力面では大型フィン付きリアスポイラーと、サイドステップ一体型のエアダムスカートが高速域でのダウンフォースと整流効果を発揮する。

 さらに冷却性能の向上にも余念はなく、大開口のラジエーターグリル、エアインテーク付きボンネット、オーバーフェンダーに設けられたエアアウトレットといったアイテムが、過酷なラリーステージにおける熱対策に貢献する。

荒れ地を俊敏に駆け抜けるために極めたハンドリング性能

 圧巻は走りにおけるパフォーマンスの高さだ。クロカンSUVというと、ボディが大柄なうえに車重が影響して走りは鈍重になりがちだ。しかし、ラリー直系の革新技術が惜しみなく投入されたパジェロ エボは、本格オフロードSUVの範疇を超えた卓越した走りを味わえた。

 足まわりは、パジェロ エボ用に「四輪独立懸架(ARMIE=All Road Multilink Independent suspension for Evolution)」を新開発。これにより、卓越した悪路走破性とオンロードでの快適な乗り心地という、従来は相反する性能の両立を実現している。

 サスペンション形式は、前後ともにダブルウィッシュボーン式コイルサスペンションを採用。フリクションロスを抑え、ロール軸の安定性に優れたジオメトリーを備え、オフロードでもオンロードでも自然な操縦フィーリングを実現する。

 さらに前後のトレッド幅をフロントで+125mm、リアも+110mm拡大して、それぞれ1590mmとすることで、コーナリング性能と直進安定性が飛躍的に高められた。またフロント240mm、リア270mmというクラス最大級となるロングストロークによって、接地性・乗り心地・悪路対応力を高次元でバランスさせている。

 加えて、ショックアブソーバーの減衰特性は車両特性に合わせて最適化され、スタビライザーにはボールジョイント式を採用するなど、細部に至るまでチューニングが施されたことで、足まわりについても市販SUVの常識を超越した能力が与えられている。

搭載するのは、6G74型V6 3.5LユニットをベースにMIVECと電子可変吸気を加えた新開発エンジン。高回転で突き抜ける鋭さと、低速での力強さを併せ持つ、ラリーフィールド直結のパワートレインだ
搭載するのは、6G74型V6 3.5LユニットをベースにMIVECと電子可変吸気を加えた新開発エンジン。高回転で突き抜ける鋭さと、低速での力強さを併せ持つ、ラリーフィールド直結のパワートレインだ

 動力性能の高さも特筆に値する。パワーユニットは新たに開発された3.5L MIVEC DOHCエンジンを搭載。独自の可変バルブタイミング・リフト機構に加え、可変吸気システムを組み合わせることで、低速・中速・高速の各回転域に応じた3モード制御を実現している。全域でフラットかつ力強いトルク特性を発揮し、アクセルを踏み込んだ瞬間から得られる鋭い加速フィーリングは、まさにラリーマシン譲りと言っていい。

 またトランスミッションは、280ps/35.5kgmという高出力に対応するためにケース剛性の強化およびギア比の最適化するといった専用設計が施され、スムースなシフトフィールと優れた駆動力伝達性を両立している。

 ハイレベルなパフォーマンスだけが持ち味ではない。過酷なラリーでの使用を想定し、チタン製バルブリテーナー、中空吸気バルブ、ナトリウム封入排気バルブなど、随所に信頼性と高回転耐性を高める部品を投入し、エンジン内部の耐久性にも徹底した配慮がなされている。

 駆動系には、三菱が誇る「スーパーセレクト4WDシステム」を採用。これは路面状況に応じて2H(後輪駆動)、4H(フルタイム4WD)、4HLc(センターデフロック4WD)、4LLc(副変速機付きローレンジ4WD)の4モードから最適な駆動方式を選択できる独自機構で、オン/オフを問わず高いトラクション性能と安定性を発揮する。

 リアデファレンシャルには、ヘリカルギヤ式LSDとビスカスカップリング(VCU)を組み合わせたハイブリッドLSDを搭載。これにより、悪路におけるトラクション確保だけでなく、オンロードでの旋回時にも優れたコントロール性を実現している。

 トランスミッションは、ダイレクトな操作感を楽しめる5速MTに加え、電子制御5速AT「INVECS-IIスポーツモード5A/T」も設定。ドライバーの操作スタイルや走行状況を学習し、最適なシフト制御を行うことで、日常の快適な走行からスポーティなドライビングまで幅広く対応する。

次ページは : 乗り手を選ぶクルマだが、ただの移動では味わえない歓びがある

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