技術はなんのために発展するのか AIと自動運転と少しだけ『けものフレンズ』【編集部便り】

■人工知能や自動運転が「職を奪う」という語られ方をしている現状

 仕事柄、自動運転技術や人工知能を研究しているエンジニアと話す機会があります。彼らと話し込むと、多くのメディアが両技術を「人を排除するテクノロジーである」と報じることに彼らが哀しい思いをしている、と話してくれるケースがいくつかありました。

 “オックスフォード大学が認定 あと10年で「消える職業」「なくなる仕事」”

 上記の記事では、人工知能の研究を行うオックスフォード大学教授が「『Google Car』に代表されるような無人で走る自動運転車は、これから世界中に行き渡ります。そうなれば、タクシーやトラックの運転手は仕事を失うのです」と語っています。

 人工知能や自動運転技術は、華やかにその登場が期待されるいっぽうで、常にこうした「不安」とともに語られています。

 テクノロジーの大幅な進歩には時に「ある種の不安」がつきまといます。「人が排除される不安」、「人と敵対する不安」、「人を傷つける不安」ですね。

 しかしもちろん現場のエンジニアは不安を煽りたいわけでもなければ、失業者を出したいわけでもありません。ただただその技術が実現すれば、人々の生活が豊かになって楽に生きていけるようになる。

 そう思って日々研究しているわけですし、実際に多くの技術が人々に安心と安全と快適で幸せな暮らしを提供してきました。

 「人間の幸福を技術によって具現化するという技術者の使命が、私の哲学であり誇りです」(本田宗一郎)

 これは自動車に限らず、インターネットだって電車だって携帯電話だって電子レンジだって同じはずです。

ゾウ
ゾウ

■日本自動車産業の黎明期を支えた人たち

 突然話は大幅に飛びますが、1940年代初頭、日本は世界トップクラスの工業大国でした。

 その地位自体がその後の歴史に(良し悪し含めて)さまざまな影響を及ぼすことになるのですが、ともあれ当時の最先端工業製品である戦闘機の開発と製造技術において、まぎれもなく世界トップクラスだったわけです。

 その日本が敗戦で研究室も工場もなくなり、開発・製造母体だった各メーカーも解散させられたのち、技術者たちはさまざまな分野へ散らばりました。

 ある者は国鉄に就職して新幹線の技術開発に貢献し(0系新幹線の設計を担当した三木忠直氏は海軍航空技術廟出身)、ある者は航空宇宙産業の分野(「日本の宇宙開発の父」と呼ばれる糸川英夫氏は立川飛行機でジェットエンジン研究を担当)に進んで大きな実績を残しました。

 そして多くの者が向かった先が、自動車産業でした。

 トヨタで初代カローラの開発主査を務めた長谷川龍雄氏(高々度迎撃機「キ94」の設計主務)、日産でエンジン開発チームを率いた中川良一氏(紫電改の「誉エンジン」設計主任)、

 ホンダF1初代チーム監督の中村良夫氏(陸軍航空技術研究所でジェット戦闘襲撃機「火龍」開発担当)、富士重工でスバル360を作った百瀬晋六氏(海軍航空技術廟で「誉エンジン」に過給器追加担当)と、その例は枚挙にいとまがありません。

 日本において戦後急速に自動車産業が発展し、高度成長期を支え経済大国へと押し上げた背景には、戦前・戦中から積み上げていた優れた技術者たちの育成とその活躍に依るところが大きかったわけです。

 自動車技術は人々を幸せにしたか? むろんしました。しかしその技術開発は軍事産業の中で育まれ、のちに交通戦争と呼ばれる多大な事故死傷者と排ガスによる大気汚染問題もまたもたらします。

 それでも自動車技術は人々を幸せにしたと言えるのか? 私は「少なくとも技術者たちはそれを目指したし、充分にその使命を果たしている」と答えたいと思っています。

 話が明後日の方向に飛んで行ったまま戻って来ませんが、もう少し続けます。

 本企画担当編集は前述の長谷川龍雄氏に、生前一度だけインタビューしたことがあります。

 「工業技術者としては、やっぱり兵器を開発していた頃よりも、自動車を開発しているほうが幸せを感じるものでしょうか?」

 と聞くと、

 「それは人によるでしょうね。少なくとも私の場合はそういうことはあまり考えていませんでした。課題が目の前にあったら、それをどう乗り越えるかに集中していました。

 ただ技術者にも矜持とかプライドとかやる気とか、そういうものを満たしていたほうがよい仕事をするんですよね。

 だから私は、高度成長期を支えるために安価で頑丈で高性能な大衆車が必要だと思っていたいっぽうで、トヨタスポーツ800のような、作っていても乗っていてもワクワクする楽しい車を開発するよう会社にお願いしました」

 とおっしゃっていました。

 のちにトヨタ自動車取締役製品企画室長を務め、技術開発だけでなく商品戦略や人材育成までマネージメントしてきた長谷川氏ならではの考え方だと思います。

シシバナザル
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