トヨタのTNGA、スバルのSGP(スバル・グローバル・プラットフォーム)の登場により、その重要性がこれまで以上に広まった感のあるプラットフォーム。
とはいっても、外からは見えないクルマの基本部分であるだけに、外観やエンジンといった部分に比べれば、認知度はやっぱり低め。
そんなプラットフォームに注目してみようというのが本企画だ。メーカーごとのプラットフォーム事情、そしてその賞味期限について整理してみたい。
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※本稿は2020年3月のものです
文:永田恵一、鈴木直也/写真:ベストカー編集部
初出:『ベストカー』 2020年4月26日号
■トヨタ
トヨタのプラットフォームは現在、旧世代のものと、低重心化によるシャープなハンドリング、ドライビングポジションやスタイルの自由度の拡大、共用部分を広げることなどにより低コストでいいクルマを提供するという、新世代のTNGAプラットフォームがオーバーラップしている状況だ。
TNGAプラットフォームを使うモデルはコンパクトカー用のBを使うヤリス、ミドルクラス用のCを使う新型カローラ、プリウスなど。

Lプラットフォームを使うレクサスLSの初期モデルの完成度の低さという問題はあったが、後者は現在ほぼ改善ずみだ。
それだけに元気で勢いのあるトヨタが、全車TNGAプラットフォームへの移行をすませる時が楽しみだ。

・Aプラットフォーム(通称)…パッソ、タンク/ルーミー
・Bプラットフォーム(通称)…アクア、ポルテ、11代目カローラ系など
・MCプラットフォーム(通称)…プレミオ/アリオン
・新MCプラットフォーム(通称)…MIRAI、ハリアー、ノア3兄弟、プリウスαなど
・TNGA GA-Bプラットフォーム…ヤリス
・TNGA GA-Cプラットフォーム…12代目カローラ系、プリウス/プリウスPHV
・TNGA GA-Kプラットフォーム…カムリ
・TNGA GA-Lプラットフォーム…クラウン
・TNGA 商用車専用GAプラットフォーム…グランエース
・FR系プラットフォーム(通称)…86
・専用プラットフォーム…ランドクルーザー、プラド、ハイエース
※アルファードはTNGAではないが、TNGAの考えを受けた新たな設計手法を採用する

■日産
日産のプラットフォームは国内販売のエースであるセレナのCプラットフォームが三世代15年、ノートのVプラットフォームも初採用のマーチから10年と、全体的に古さが目立つのが非常に気になる。

もちろんプラットフォームが新しければいいというわけではないが、セレナを例に挙げればフロアの高さによる乗降性の悪さ、ハンドリングと乗り心地の古さなどに見劣りがあるのは事実だ。
末期には投資を渋ったゴーン体制が終わったのだから、今後は今なら潤沢にある内部留保を新しいプラットフォーム作りにも有効に使い、日産復活につなげてほしい。

・CMF…エクストレイル、デイズ、ルークス
・Vプラットフォーム…ノート、マーチ
・Bプラットフォーム…シルフィ、ジューク、キューブ(改良版)
・Cプラットフォーム…セレナ
・Dプラットフォーム…ティアナ、エルグランド
・FR-Lプラットフォーム…スカイライン、フーガ/シーマ、フェアレディZ
・PMプラットフォーム…GT-R
■ホンダ
ホンダはトヨタや日産と異なりプラットフォームの名称がそれほど明確ではない。
調べてみるとメインとなるものは3つと意外に少なく、販売台数が少ないモデルや関係のありそうな車種があまり浮かばないモデルは専用のプラットフォームになっているケースが多いことに驚く。

これだけ専用プラットフォームが多いというのは、独創的なクルマが多かった、かつてのホンダの名残のようなものなのかもしれない。
また、あれだけボディサイズが違うシビックとアコードがプラットフォームという観点では同じものというのも意外だ。

・共用プラットフォーム①(軽自動車クラス)…N-BOX、N-WGN、N-VAN、N-ONEなど
・共用プラットフォーム②(コンパクトクラス)…フィット、ヴェゼル、フリード、シャトルなど
・共用プラットフォーム③(ミッドクラス)…シビック、アコード、CR-V、インサイトなど
・専用プラットフォーム…NSX、S660、ステップワゴン、オデッセイ、クラリティシリーズ
※レジェンドも現在、実質的に専用プラットフォーム
■マツダ
マツダも、公式には全モデルとも「SKYACTIV BODYとSKYACTIV CHASSIS」とプラットフォームが明確ではない。
これは「サイズによる使い分けはしているがコンセプトは同じ」と解釈すればいいだろう。

今後はマツダ3とCX-30が採用したスモールアーキテクチャーと、2022年度中に導入される予定のFR+直6となるラージアーキテクチャーの2つによって商品戦略の最適化を進めるという。
マツダ2の存在なども考えるとスモールアーキテクチャーは特に拡張性が高いと思われ、今後のマツダは何かと注目だ。

・SKYACTIV BODY&SKYACTIV CHASSIS…マツダ2、マツダ6セダン、マツダ6ワゴン、CX-3、CX-5、CX-8、ロードスター
・Smallアーキテクチャー(通称)…マツダ3、CX-30
・Largeアーキテクチャー(通称)…2022年度内投入予定のFR+直6エンジン車
■三菱
三菱自動車は「このクルマはあのプラットフォームだろう」というのが非常にわかりやすい。
しかし、このことはCセグメント用に至っては15年前と、軽自動車用以外新しいプラットフォームがないという裏返しでもある。

今後は日産傘下となっただけに三菱独自のプラットフォームが作られるというのは絶望的で、プラットフォーム含め日産の基本コンポーネンツを使ってキャラクターの違うクルマを作るということになるだろう。
しかしプジョーとシトロエンのように差別化は可能であり、三菱自動車の個性はぜひ持ち続けてほしい。

・Cセグメント用プラットフォーム…アウトランダー/アウトランダーPHEV、RVR、エクリプスクロス、デリカD:5
・Bセグメント用プラットフォーム…ミラージュ
・リヤミッドシップレイアウト用プラットフォーム…i-MiEV
・軽自動車用プラットフォーム(日産名:CMF-A)…eKワゴン/eKクロス、eKスペース
■スバル
スバルも「現行インプレッサ以降に登場したモデルは強固なボディ剛性を持ち、電気自動車化などの高い拡張性を持つSGP」と、「現行インプレッサ以前に登場したモデルは旧世代のSIシャシー」と区別は明確だ。

SGPのポテンシャルの高さは折り紙付きだが、SIシャシーも度重なる改良により今でも古さを感じないのは大変立派だ。
今後日本向けのSGPは次期レヴォーグからボディ剛性を高めるフルインナーフレーム構造の採用が発表されており、人間で例えれば体幹が今まで以上に強くなるだけに、次期WRXともども期待大だ。

・SGP(Subaru Global Platform)…インプレッサスポーツ、インプレッサG4、SUBARU XV、フォレスター
・SIシャシー…レヴォーグ、WRX S4、レガシィ、レガシィアウトバック
・SIシャシーベース専用プラットフォーム…BRZ
■スズキ
スズキの主力モデルのプラットフォームは2014年登場の現行アルト以降、アンダーボディの骨格を最短距離で滑らかにつなぐことなどにより、軽量ながら強いボディ剛性を持つ「ハーテクトコンセプト」で設計されたものを車格やサイズによって使い分けている。

「ハーテクトコンセプト」によりアルト以降のスズキ車は充分なボディ剛性を持つうえに軽量なため燃費も良好で、スズキの社風を象徴しているように感じる。
ただクルマによっては車重が軽すぎるのか、高速道路などで強い横風に遭うと少し不安定に感じることがあるのが残念だ。

・ハーテクト(軽セグメント)…アルト系、スペーシア、ハスラーなど
・ハーテクト(Aセグメント)…イグニス、クロスビー、ソリオ
・ハーテクト(Bセグメント)…スイフト系、バレーノ
・ラダーフレーム系プラットフォーム…ジムニー、ジムニーシエラ
・乗用(Cセグメントプラットフォーム)…SX4 S-CROSS、エスクード
・商用バン(軽セグメント)プラットフォーム…エブリイ、エブリイワゴン
■ダイハツ
ダイハツはトヨタのTNGAコンセプトに近い「強いボディ剛性などを持ち、いいクルマを安価に提供する」というコンセプトを持つDNGAプラットフォームと、旧世代のプラットフォームが現在オーバーラップしている状態。
あと3年も経てば主力車種のDNGA化は完了するだろう。

DNGAプラットフォームは、第一弾のタントが「よく曲がるけど乗り心地が今ひとつ」、第二弾のロッキーは「ハンドリングと乗り心地が今ひとつ」と途上段階だが、ポテンシャル自体は高そうなだけに、熟成を進めれば、いずれいいクルマが現われるだろう。

・DNGA新プラットフォーム(Aセグメント用)…ロッキー
・Aプラットフォーム…ブーン、トール
・DNGA新プラットフォーム(軽自動車用)…タント
・軽乗用プラットフォーム…ミライース、キャスト、ムーヴ、ウェイクなど
・軽商用プラットフォーム…アトレーワゴン
・Dフレーム(区分のための便宜上の名称)…コペン
■5年もすれば賞味期限切れ? プラットフォームの賞味期限
(TEXT/鈴木直也)
自動車というのは、だいたいモデルライフが6〜8年くらいあるから、プラットフォームはその2倍くらいの寿命で構想されるのが相場。モノ作りとしてはわりと長期的なタイムスケールで仕事が進行する。
ところが、最近はクルマを取り巻く社会情勢の変化が激しく、世代交代のサイクルがどんどん短くなってきている。

典型的な例としては、衝突安全規制に対応したボディ構造の見直しとか、ハイブリッドやEVをバリエーションに取り込むためのパッケージング変更などなど……。
人間、誰しも5年先はイメージできるが10年先を正確に見通すのは難しい。特に今は自動車100年に一度の変革期だから、長くても10年くらいを見込んだプラットフォーム構想しか立てられなくなっているのが現状だ。

そんなわけだから、華々しく登場した新プラットフォームも、5年くらい経つと賞味期限切れが見えてくるイメージ。
電動化革命が迫りつつあるだけに、陳腐化が早いのは致し方ないのかもしれませんなぁ。
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