フェラーリを買って数年乗って、下取りに出すと買った値段とほぼ同じ金額だった、という話を聞いたことがある。
これは都市伝説、ガセ情報なのか? いくらなんでも超人気のスポーツカー、フェラーリだからといって、そんな夢のような話があるのか、にわかに信じがたい……。
ということで、はたしてフェラーリは売っても損をしないのか? フェラーリオーナー、モータージャーナリストの清水草一氏と、フェラーリ専門店「コーナーストーンズ」の榎本店長にご登場願って、その真相に迫ってみた。
文/清水草一
写真/清水草一 コーナーストーンズ フェラーリ
取材協力/コーナーストーンズ
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フェラーリほどコストパフォーマンスの高いクルマはないと断言できるワケ
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フェラーリほどコストパフォーマンスの高いクルマはない。具体的には、満足度に対する対価が猛烈に安い。なにしろ下取り価格がほとんど下がらない。
私はそのことを20年以上書き続けてきたが、世の中にはまったく浸透していないらしく、いまだに信じてもらえない。
今回も担当編集者に、「フェラーリは買った値段で売れるというのは本当ですか?」と問われてしまった。
そして、今回、「フェラーリオーナーの視点で、清水さんが榎本さんと対談してください」という依頼を受けた。
私は、「買った値段で売れる!」と書いたことはない。実際、これまで13台中古フェラーリを買ってきて、買った値段より高く売れたことは一度もない。
ということで、毎度お馴じみ、東京都町田市にあるフェラーリ専門店店長の榎本修氏に登場いただいた。
榎本修氏(以下エノテン)「そんなことはないですよ清水さん! 買った値段より高く買い取らせていただいたケースはいくらでもあります!」
清水「だろうね、タイミングによっては」
エノテン「清水さんはだいたい2年くらいで買い替えていらっしゃいますから、値段が上がるところまではいってませんけど、もうちょっと長く乗って、世の景気動向とシンクロすれば、買った値段で売れることなんて珍しくもなんともありません。
たとえば10年前に328を600万円で買った方は、大事に乗っていれば、いま900万円くらいで買い取らせていただけると思います」
……う、うっそ~と驚くなかれ。紛れもない事実である。私も2009年に328GTSを598万円(諸経費込み)で買ったが、現在乗っている328GTSは、2019年に1180万円(同)で買ったものだ。あのまま11年間乗り続けていれば、確実に資産は増えていただろう。
エノテン「10年前は、F355のMTの合格点のクルマが、798万円くらいで買えました。
今は1200万円からですから、10年間フェラーリを楽しんで、大きな故障もなく、車検も1回20~30万円くらいで済んで、それで何百万円かお釣りがくるわけです。
ついこの間も、そういうお客様からF355を買い取らせていただきましたけど、『本当にありがとうございました。すべて榎本さんのおかげです』って、しみじみ感謝されましたウフフフフ~!」
清水「夢のような話だよねぇ……。でもさ、こういう話を聞いて、『なら買ってみようかな』って思うのは、間違ってると思うんだよ!」
エノテン「その通りです! フェラーリはそういうもんじゃありません!」。
私がこれまでフェラーリを買い続けてきたのは、「買った値段で売れるから」ではない。
確かにそういうケースもあるだろうが、だからといって実用性のまったくない高価なクルマを、好きでもない人間が買うだろうか?
駐車場代だって保険料だって税金だってかかる。運が悪けりゃ故障だってする。F40とかF50みたいな、10年間で値段が5倍になっちゃったスペシャルフェラーリでもない限り、収支をすべて計算すれば、そんなにプラスになることはない。
フェラーリを買うのは、あくまで「欲しくて欲しくてどうしようもないから」なのである。すべてを捨てても手に入れたいと願った者が、最後に意外なプレゼントを手にするってことだ。
フェラーリが好きならば、死ぬほど欲しいと願っていた者ならば、フェラーリを買えば猛烈にシアワセになれる。しかも望外に少ない出費で。しかしそれにも条件がある。
清水「フェラーリならなんでもいいってわけじゃないよね!」
榎本「その通りです。ピュアにフェラーリのスピリットが感じられるモデル、つまり『すべてを捨ててでも手に入れたい!』と願う者が多いモデルだけに、そういう恩恵があるんです」
清水「具体的には、ミドシップのMT。これがテッパンだね」
榎本「もっと具体的にモデル名を上げますと、328とF355のMT。これなら絶対に間違いありません。F1マチック(セミAT)ならMTより200万円安いですけど、ぜひMTにこだわっていただきたいです」
清水「前回の伊達軍曹との対談で、店長は355F1にずいぶんダメ出しをしてたよね。俺、F1マチックは買ったことないからわからないけど」
榎本「F1マチックはお薦めしません!」
清水「ECUが直せないって本当?」
榎本「355のF1マチックに関しては、ポンプやモーターの故障はなんとか安く直す方法を見つけたんですけど、故障がECUまで行くと直せません。
新しい部品の供給もありません。フェラーリは冷たい会社で(笑)、20年くらいすると、もう部品を作ってくれないケースがあるんですよ。
需要の多い部品なら、アメリカで純正と同じものが作られてたりしますけど、それもない場合、我々は苦労して苦労して、事故車のパーツを探してきたりするわけです。でも、355F1のECUは手に入りません」
清水「とにかくF355はMTを買っておけばいいってことだよね!」
榎本「そうなんです!」
清水「200万円安いフェラーリは、200万円余計にかかる可能性があるってことだからね!」
榎本「そうなんです!」
清水「でも、360モデナのF1もダメ?」
榎本「355F1ほどダメじゃありませんけど、ウチでは基本的に扱いません。ただ、事情があってどうしてもMTが運転できない方には、なるべく状態のいいものを探してきてお売りしています。
クラッチの寿命がMTの半分くらいといったネガはありますが、場合によってはオッケーだと思います!」
清水「F430は?」
榎本「F430まで来れば大丈夫です。F430はF1マチックばかりで、MTを探すのは至難の業ですし。あとは458イタリアですね」
清水「458のDCTは超素晴らしいよ! っていうかクルマ自体がウルトラ素晴らしい。最後の自然吸気V8ミドシップだし、最後のピニンファリーナデザインだし」
榎本「328とF355と458。ピュアなフェラーリはこの3モデルでいいと思います!」
エノテンによると、この3モデルの10年後の相場は「未来のことは誰にもわかりませんけど、現在と同じくらいじゃないですか」
もちろん、未来のことなど誰にもわからない。先はわからないが買わずには死ねない! という者だけが買えばいい。それがフェラーリだ。
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