■S14シルビアをベースにして直4エンジン搭載
今回紹介するのは、Z32からZ33に生まれ変わる途中に製作された、プロトタイプの実験車(先行検討車)。今回の新型フェアレディZプロトタイプの公開に合わせて、日産本社ギャラリーに展示されている。
1990年代半ば、Z32型フェアレディZの後継となる新型Zの方向性を模索し、様々な検討が日産社内で進められていた。その過程では、いくつかの試作車が作られた。そのうちの1台が、1997年に製作されたコンパクトなこのプロトタイプZであった。先行検討車だけに、市販車をベースに製作が進められ、左ハンドル仕様の日産240SXが使用された。日本ではS14型シルビアに相当するモデルである。
ボディサイズは、全長4310mm×全幅1770mm×全高1280mmと240SXと異なる専用仕様に。全長を縮めながらも全幅は拡大したスポーツカーらしいディメンジョンに変更されていた。
搭載エンジンこそ、輸出仕様向けである2.4L直列4気筒DOHCのKA24DE型であったが、これにチューニングを加え、最高出力200ps、最大トルク256Nmまで性能を向上。これをフロントミッドシップに搭載。前後タイヤは、フロント205/55R16、リヤ225/55R16とし、リヤ側のみワイド化されていた。
製作年月は「1997年」とある。
展示車の横に設置された説明板には、「このクルマは結果的に陽の目をみませんでしたが、その後20年以上にわたり社内で保存され、2019(令和1)年に社内の試作部門によって往時の姿を取り戻しました。」とある。
エクステリアデザインは、ドアこそ240SXのものを流用しているが、それ以外は専用デザインに変更。フロントマスクは、240ZG風でもあるが、フロントバンパーデザインやリヤテール、サイドのブラックピンストライプなど、Z32の影響も強く残す。車内は、240SX同様に4シーターだが、リヤサイドガラスを小型化し、Cピラーを太く見せるなど、2シーターを意識したデザインと思われる。またリヤガラスにも手を加え、テールゲートへと変更されている。
一方、インテリアデザインは、240SXのまま。我々にもなじみ深いシルビアのそれだ。ステアリングやシートも、そのまま流用されている。マイル表記のホワイトメーターが備わるが、日本仕様でもホワイトメーターが採用されていたので、この点もそのまま。なんとラジカセまでしっかりと装備されている。
■10/12まで日産本社ギャラリーに展示、急げ!!
エンジンの搭載位置変更やチューニングが施されていることからも想像できるが、この試作車は、実際に走行が可能で、それについて一つの短いエピソードが残されている。
「ミスターZ」の愛称で親しまれ、初代フェアレディZ誕生に深く携わった片山豊氏が、1997年のある休日、栃木テストコースにてこの先行検討車に試乗。「人車一体感とZのDNAを感じ、同車に好感を示した」という。
その後、新型Z開発プロジェクトは一時中断されるも、着実に進んでいたことに進められていたこと、関係者への意見聴取までは進んでいたことが伺える。
不思議なのは、この試作車が20年以上にも渡り、日産社内のどこかに保存されていたことだ。これまで展示車として活躍したこともなく、日の目を見ることはなかったモデルにも関わらず、だ。いったい誰が、なぜ、保存し続けていたのだろうか。
これは想像に過ぎないが、この「ミドルスポーツ」は、Z33誕生によほど大きな影響を与えた試作車であったのではないのだろうか。Z33に使用されるFMプラットフォームは、フロントミッドシップを採用している。また1999年のデトロイトショーで公開された「240Zコンセプト」も、240SXがベースとなっている。このコンセプトカーは、米国デザイン部門の独自のスタディであったものの、開発者たちが理想とするZは、コンパクトかつ軽量なZの姿だったのだろう。
そんなZに関わった様々な人々の気持ちを想像させる試作車「ミドルスポーツ」は、2020年10月12日まで、2001年デトロイトモーターショーで世界初公開された「ニッサンZコンセプト」とともに、神奈川県横浜市の日産グローバル本社の1F「日産グローバルギャラリー」にて展示中だ。
「Zコンセプト」は、その見た目からもZ33のコンセプトカーであることは一目瞭然だが、細部を見てみると、市販車との様々な違いを発見できるにも面白い。さらに現行型だけでなく、初代フェアレディZも「Z-L(1970年)」と「240ZG(1972年)」も展示されている。Zファンは、ぜひこの機会をお見逃しなく。
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