どんなカテゴリーのクルマといえども、環境性能を抜きにしては語れない時代になりました。燃費や効率を追求した結果、環境には優しくなりましたが、「クルマとして面白いかどうか」にはさまざまな意見があると思います。
単純に「あの頃はよかった」と言える話ではありませんが、ただかつて日本市場には、「アクセルを踏み込むだけで幸せな気分になれたNA(自然吸気)エンジンがあった」ということだけは確かです。
本稿ではそんな、おそらくもう発売することは難しいであろう、楽しく偉大なNAエンジンを5機、(「ターボ編」に続き)自動車ジャーナリストの片岡英明氏に選んでいただきました。
(※編集部注/一部、登場年に誤記がありましたので修正いたしました。謹んでお詫び申し上げます・2018.3.5 18:50)
文:片岡英明
■選考理由は「スポーツ性」を優先
「NA」(Natural AspirationもしくはNormal Aspiration)と呼ばれる自然吸気エンジンは、ダイレクトな応答レスポンスと高回転まで気持ちよく回ることがチョイスの基準になる。
また、官能的なエンジンサウンドも重要な要素だ。とくにマルチシリンダーは奏でるサウンドを重視した。
燃費と排ガス適応能力など、環境性能も重要だ。
が、スポーツ性を優先しているエンジンは、ある程度は割り切って評価した。このことから分かるように、燃焼が不安定になるキャブ仕様は避け、1980年代以降の電子制御燃料噴射装置付きのエンジンのなかから選んだ。
ターボ搭載車で選んだエンジン(前回の「ターボ編」参照)は、そのNA版も高く評価できる。
が、より多くのエンジンの魅力を伝えたいため、あえて今回のノミネートからは外した。
当然、高級なマルチシリンダーだけでなく、量産の4気筒や3気筒も候補のなかに入れている。
軽自動車のエンジンもあるが、このクラスは過給機がないと非力なので今回は選から漏れた。できるだけクラス別に選び、名機が多い場合はその中からスポーティ度の高いエンジンを優先して選んだ。
■ホンダF20CおよびF22C型/S2000
「エンジン屋」を自認するホンダには名機が多い。オートバイやレーシングカーのエンジンを数多く手がけているから、高回転まで気持ちよく回るエンジンが多いのである。
また、NAエンジンに傑作が多いのも、ホンダの特徴だ。タイプRに搭載されているファインチューニングしたエンジンは、いずれも魅力的である。
悩んだ末に選んだのは、後輪駆動のS2000のために設計された縦置きレイアウトのF20C型直列4気筒DOHC・VTECだ。
高性能だけでなく、環境性能も考えた新世代のスポーツユニットで、コンパクト設計も話題となった。
バルブ挟み角を狭めてシリンダーヘッドをコンパクト化し、駆動システムはカムチェーンとしている。排気量は1997cc。11.7という驚異的な圧縮比を採用し、平成12年排ガス規制をクリアしながらリッター当たり出力125psオーバーを達成した。
その気になれば8000回転まで無理なく使うことができ(許容回転数/レッドゾーンは9000回転)、6500回転を超えてからの加速も鮮烈だった。2004年の北米仕様から、F20Cを元にストロークを84mmから90.7mmに延長し、排気量を2.2Lに拡大、「F22C」に改良して常用域でのトルクを増加した。
登場は約20年前だが、現在まで含めて日本車史上最高峰のNAエンジンのひとつとして君臨している。
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