■マツダビアンテ 2008〜2017年
マツダビアンテは、不可能を可能にしたクルマだ。マツダは市場の流れに沿うべく背の高いミニバンの開発を迫られたが、使えそうなプラットフォームは初代アクセラのタイプしかない。ただしこのプラットフォームは根本的に重大な問題を抱え、ペダルの位置を高められない構造だった。これではフラットフロア構造の背の高いミニバンは開発できない。常識で考えれば諦める場面だ。
ところがマツダはこれに挑んだ。ペダルの位置は変えず、車内の床面に段差を付けて、後ろに向けて床と乗員の視線が高まる設計にした。苦肉の策だが「シアターレイアウト」と名付け、あたかも床にわざと段差を付けたように宣伝した。
それでも問題は残る。1列目の床とペダルは低いから、ドライバーの着座位置はあまり高められない。この問題を解決するには、ボンネットと1列目のサイドウインドーを低く抑えれば良いが、そうすると外観が日産初代プレーリーとか、三菱トッポのようになってしまう。これは避けたい。
そこでボンネットは限界まで高めに設定して、サイドウインドーの下端は視界確保のために低く抑えた。
そうなるとボンネットとウインドーの下端に段差ができてしまう。これをいい意味で誤魔化し、なおかつ当時の「Zoom-Zoomコンセプト」との整合性を取るために、歌舞伎顔にした。
こんな苦労話を抱えたクルマは珍しく、さすがはロータリーのマツダだと感心するが、ユーザーには全然関係ない話だ。単純に「ヘンな形のミニバン」と受け取られ、3ナンバーサイズも災いして(5ナンバーサイズには収められなかった)、売れ行きは低迷した。
客観的にいえば、引き際の話以前に、ミニバンとしてはもともと相当に無理のある商品であった。
■トヨタFJクルーザー 2010〜2018年
「FJクルーザーを開発する段階では、日本で売ることはまったく考えていなかった」と開発者はコメントした。北米で発売したのは2006年だが、日本は2010年であった。
当時は軽自動車やコンパクトカーの売れ行きが伸びて、クルマのツール化が進んだ。しかも86の発売前で、トヨタには面白いクルマがない。そんな事情でFJクルーザーの発売に踏み切った。
V型6気筒の4Lエンジンとパートタイム式4WDで悪路の走破力は高いが、センターデフなどを備えたフルタイム4WDではないから、舗装路のカーブを曲がる時に前後輪の回転数を調節できない。従って舗装路は後輪駆動の2WDで走り、4WDの恩恵を受けられなかった。
加えて全幅が1900mmを超えるボディは最小回転半径が6.2mと大回りで、側方と後方の視界が悪いから市街地では運転がしにくい。後席はボディが大柄な割に足元空間が狭い。乗降性も悪く、まさに「日本で売ることはまったく考えていない」クルマであった。
今では北米などの海外でも生産を終えた。悪路走破力の高いトヨタのSUVはほかにもあるから、困らないという判断だろう。
しかし、もう少しコンパクトで、なおかつ悪路に強いSUVは欲しい。だからといってランドクルーザー70は、存在価値は大いに認めるが、一般的には基本設計が古すぎる。ちょうど良いのが必要だ。
延命すればもう少し売れたと思うが、発売から12年を経ており、引き際はちょうどよかった。
■トヨタアイシス 2004〜2017年
ウィッシュとヴォクシー&ノアの間を埋める車種として2004年に発売された。全高は1700mm以下で床面構造もウィッシュに近く、フラットフロア形状ではない。
従って3列目は膝の持ち上がる座り方でヴォクシー&ノアよりも窮屈だが、価格も安く、スライドドアは装着されていた。しかも左側はピラー(柱)をスライドドアに埋め込み、前後ともに開くと開口幅がワイドに広がった。
このようにトヨタアイシスは福祉車両的な性格を兼ね備えるから、便利で快適に使うユーザーも多かった。可能であればフルモデルチェンジ、それができなくても緊急自動ブレーキを作動できる安全装備を装着するなど、改良を施して売り続ける手もあっただろう。
ただし今のミニバンの売れ行きは、トヨタのミドルサイズカーであればヴォクシー/ノア/エスクァイアに集中しており、アイシスの月販台数は250〜300台だ。ヴォクシーの5%程度だから、残念ではあるが終了も仕方なかっただろう。
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