こんなクルマよく売ったな!! 【愛すべき日本の珍車と珍技術】独創的なデザインのビークロスはなぜ売れなかったのか?

■オン/オフを問わない卓越した走りも独自の個性

 スポーティSUVを謳うだけあって、走りにかかわるメカニズムも抜かりはない。搭載エンジンは、いすゞのクルマとしては珍しく、ディーゼルの設定はなく、ガソリンのみの設定。3.2L V6エンジンは最高出力215ps/最大トルク29.0kg-mを発生し、トランスミッションは4速ATの組み合わせ。

 駆動方式は前後輪のトルク配分制御システムを搭載したパートタイム4WDを採用し、それまでのいすゞ製SUVに比べて応答性を引き上げたスポーティなセッティングとしていた。こうしたパワートレインによって、力強い動力性能を着実に路面へ伝達しながらオフロードで卓越した悪路走破性を発揮するとともに、舗装路では爽快な走りを実現していた。

 足まわりはフロントがダブルウィッシュボーン、リアは4リンク式コイルサスペンションという構成。これはビッグホーンと同じだが、ビークロスでは横剛性確保のためにリヤのラテラルリンクブッシュをピロボールマウント化してある。

 また、ショックアブソーバーは市販車としては初となるアルミ製別体タンク式モノチューブショックアブソーバーが奢られていた。こうしたメカニズムにより、まさに走りにおいては、路面を問わず走破できる全天型スポーツカーを目指したいすゞの狙いが見事に具現化されていたのだ。

悪路でのパフォーマンスはいすゞ製SUVであることを強く実感させてくれる。舗装路でのシャープな操縦性を発揮するのもクロスオーバーSUVならではの特徴だ
悪路でのパフォーマンスはいすゞ製SUVであることを強く実感させてくれる。舗装路でのシャープな操縦性を発揮するのもクロスオーバーSUVならではの特徴だ

 車内は外装ほどに奇抜ではなく、質感も含めてスペシャルな感じが薄い。それでもMOMO製のステアリングや革巻きシフトノブ、レカロ製シートなど要所に特別なアイテムを採用することで個性をアピールした。

 ボディサイズはコンパクトだが、個性的なフォルムが影響して後方視界がよくないものの、インパネ中央にカラーモニターが配置され、ここに超広角バックカメラで捉えた映像が表示される。これで視界の悪さをフォローしていた。

 車両としての評価は高く、1997‐1998日本カー・オブ・ザ・イヤー特別賞や、グッドデザイン賞を受賞。また、「プレミアムプロデュースカラー25」と称する25色のボディカラーを揃えたり、1999年2月にはポリッシュ加工アルミホイールや立体デカール、レッド&ブラックカラーの本革シート、シリアルナンバーを刻印した記念プレートなどを装備した特別仕様車「175リミテッドエディション」を175台限定でリリース。

 そのスタイルと同様に自動車業界に少なからず話題を提供したが、175リミテッドエディションを最後に日本での販売を終了する。ビークロスの存在は、商用車メーカーであるいすゞが、乗用車の開発においてもデザイン力、技術力の高さを証明することになったわけだが、話題性のわりに国内販売台数は1700台と少なく、ヒットモデルにはなり得なかった。

 しかし、市場に残したインパクトは大きく、その後のSUVクラスにビークロスを模倣したようなスポーツ志向のクロスオーバーSUVが相次いで登場したことを鑑みれば、ビークロスが及ぼした影響は決して小さくなかったと言える。

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