これまで日本にはたくさんのクルマが生まれては消えていった。そのなかには、「珍車」などと呼ばれ、現代でも面白おかしく語られているモデルもある。しかし、それらのクルマが試金石となったことで、数々の名車が生まれたと言っても過言ではない。
当連載では、これら「珍車」と呼ばれた伝説のクルマや技術などをピックアップし、その特徴を解説しつつ、日本の自動車文化を豊かにしてくれたことへの感謝と「愛」を語っていく。今回は、今も伝説として語り継がれるクルマ、ランサーエボリューションワゴンを取り上げる。
文/フォッケウルフ、写真/三菱
■WRCを席巻した4WDスポーツのワゴンバージョン
1992年10月に初代が誕生してから、2015年に生産終了するまでの約23年間、三菱自動車(以下三菱)のイメージを体現し、牽引してきた名車といえば「ランサーエボリューション(以下ランエボ)」である。
初代の「I」から10代目となるIX」まで三菱独自のオール・ホイール・コントロール技術を積極的に採用することで、走る・曲がる・止まるといった運動性能を磨き上げてきた。
そもそもランエボは、WRC(世界ラリー選手権)を戦い、勝つために生まれたクルマとして文字通り進化してきたわけだが、2000年代初頭に登場した第3世代のランエボVII以降、速さだけでなく快適性を兼ね備えた、高性能4WDスポーツセダンというキャラクターを確立する。
「速く快適に」というランエボの新たな方向性は、2002年にシリーズ初のAT(オートマチックトランスミッション)搭載モデル「GTA」の投入、さらにランエボ=スポーツセダンという固定概念を打破する「ランサーエボリューションワゴン(以下ランエボワゴン)」の誕生に繋がっていく。
ランエボワゴンはランエボIXのプラットフォームを用いていただけでなく、エンジン、トランスミッション、駆動系システム、サスペンションなどを踏襲することで、ワゴンでありながら優れた運動性能を発揮できる作りがなされていた。
基本的にはランエボ(セダン)をベースとしていたが、ボディサイドパネルやルーフパネルなどはランサーワゴンのものを採用し結合させていた。各ピラーとルーフの結合部は補強材などを追加して強化し、ワゴンボディで懸念されるテールゲート開口部周辺も、50点あまりにおよぶスポット溶接を増し打ちするなどの補強を行っている。
これによってランエボを名乗るにふさわしい、際立った走りに耐え得る軽量高剛性ボディを実現した。ちなみにこれらの補強アイテムは、量産ラインから離れて熟練者の手作業によって施されていた。
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