最近の新車販売台を見ていると、月毎ではたまに順位が逆転することもあるが、昔のように抜きつ抜かれつの熾烈なトップ争いがあまりなくなってきている。
カテゴリー別に見ると、例えばミドルサイズミニバンでは、1位がセレナ、2位がヴォクシー、コンパクトミニバンでは1位がシエンタ、ナンバー2がフリードというように、各カテゴリー、1位と2位の座は揺るがない。
そこで、なぜナンバー2のクルマは、ナンバー1になれないのか? ナンバー2のクルマにはナンバー1のクルマを超えられない何かがあるのか? モータージャーナリストの渡辺陽一郎氏が解説する。
文/渡辺陽一郎
写真/ベストカーWEB編集部
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ナンバー1とナンバー2の差は商品力の差か?
クルマにはSUVやミニバンといった複数のカテゴリーがあり、それぞれに人気車と不人気車がある。
以前は新型車が発売されると、人気を高めて所属するカテゴリーの販売ナンバー1になり、その後は衰退して、別の新型車が1位に浮上することも多かった。
しかし最近は、以前に比べて順位の入れ替わりが少ない。直近のデータも含まれる2019年度1~9月の販売データを見ると、Lサイズミニバンの1位はアルファード&ヴェルファイア(単独では2位)。アルファードとヴェルファイアを合わせて同一車種扱いにすると、2位はオデッセイになる。
ミドルサイズミニバンはセレナ、2位ヴォクシー、コンパクトミニバンはシエンタ、2位フリード。
コンパクトカーは1位ノート、2位アクア。軽自動車はN-BOXが1位で、2位はタントもしくはスペーシア、デイズなどが競い合っている。
例えばN-BOXは、先代型(初代モデル)を2011年に発売して、2017年に2代目の現行型へ一新された。従って2017年の1~6月は、フルモデルチェンジの直前で売れ行きが最も下がる時期だったが、1か月平均で1万8000台近くを販売した。国内販売のナンバー1を維持している。
このように売れ行きの好調な車種は、発売から生産を終えるまで安定的に高人気を保ち、そうでない車種は、売れ行きを早々に下げて二度と浮上しない。
では1位と2位の違いは何に基づくのか。各カテゴリーの1位になった車種には、人気を押し上げる複数の理由がある。
まずは商品力だ。当たり前の話だが、デザインから機能まで、ユーザーが欲しいと思える商品に仕上げていないと各カテゴリーの販売1位にはなれない。
例えばアルファード&ヴェルファイアは、現行型でプラットフォームを刷新した。床を下げて乗降性を向上させ、低重心にして走行安定性を進化させることも可能だった。
ところが実際は、プラットフォームの刷新で剛性などを高めながら、床は敢えて下げていない。設計の古かった従来型と同じく、床と天井を高く設定している。その理由は、外観を立派に見せて、走行中の見晴らしも良くするためだ。
安全性や使い勝手の向上を考えると、低床設計にして乗降性を改善したり、重心を下げるべきだが、アルファード&ヴェルファイアは、Lサイズミニバン特有の外観と見晴らしという感覚的な価値を優先させた。
良し悪しは別にして、アルファード&ヴェルファイアを求めるユーザーは、そこに購入すべき価値を見い出して売れ行きを伸ばしている。豪華で上質な内装も、この価値を盛り上げた。
2位のオデッセイは、1位のアルファード&ヴェルファイアとは正反対のクルマ造りを行っている。プラットフォームの刷新を生かして、フラットフロア構造のスライドドアを装着したミニバンとしては、床を徹底的に低く抑えた。
そのためにサイドステップ(小さな階段)を使わなくても、足が床に届くから、乗り降りがしやすい。低床設計だから、1300mmを超える室内高を確保しながら、主力グレードの全高はフラットフロア構造のミニバンで最も低い1700mm以下となった。
低重心により、運転感覚と走行安定性は、ミニバンというよりもステーションワゴンに近い。背が低ければ車両重量も軽くなり、空気抵抗も下がるから、走行性能と燃費ではさらに有利になる。
つまり機能を最優先させる考え方に基づくと、必要な最低地上高と室内高が確保されていれば、全高は低いほど良い。自動車として、背を高くする機能的なメリットなど一切存在しない。
オデッセイはこのセオリーに忠実なクルマ造りをしたが、売れ行きは伸び悩み、逆に旧態依然としたアルファード&ヴェルファイアは好調に売れた。それは先に述べたユーザーが欲しいと思える商品像に対して、忠実なクルマ造りをしたからだ。
いい換えればオデッセイは走行性能や燃費など機能の優れたクルマを目指し、アルファード&ヴェルファイアは売れる商品開発を行った。この違いは両メーカーの生き様の違いにも結び付く。
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