【夢の2ペダルMT】「DCT」はなぜ天下を獲れなかったのか?

従来のステップATの反撃

メルセデスベンツはCクラス以上のモデルに関しては9ATの搭載がスタンダードとなっている。DCTはAクラスなど一部のモデルに限定されている

 ところが、その予想を覆したのがベンツやBMWをはじめとする老舗プレミアムブランドのAT戦略だった。

 AUDIを除くドイツプレミアム2社は、AMG SLSやMシリーズなどのハイエンドスポーツにこそDCTを投入したものの、主力モデルにはトルコンステップATを堅持。

 日本勢でもDCTを採用したのはR35GT-Rやラン・エボXのみ。トヨタにいたっては、DCTには目もくれないというスタンスだったのだ。

 それどころか、これらトルコンステップAT派は自らのメカニズム改良に邁進。効率アップやレスポンス向上はもちろんのこと、ギア段数も8速9速10速と多段化。 日本ではレクサスがATの多段化の先端を行く。

ステップATは多段化がトレンドとなっている。その最先端を行くのがレクサスで、LC500に搭載されてデビューした10ATは評価が高い

 かつてイマイチと言われたスポーツドライビング時のドライバビリティを、短期間のうちにDCTと大差ないレベルまで向上させてしまった。

 そのいっぽうで、一時は天下を取るかと思われたDCTにアキレス腱があることが発覚。

 電子制御で自動化されているとはいえ、DCTにはクラッチという摩擦板を滑らせて動力を伝達している。欧州のような流れのいい交通状況では問題にならなかった耐久性が、渋滞の多いアジアマーケットではクラッチの早期摩耗などで顕在化。

ユーザーの評価も賛否両論あり、DCTはレスポンスがいいものの、渋滞の多い日本の交通事情ではステップATのスムーズさ、快適性のほうが魅力的だと感じている人は多い

 つい先日もVWジャパンが大規模リコールに踏み切ったが、中国などを中心とするアジアマーケットで、乾式クラッチDCTにトラブルが多発してしまったのだ。

 実際のドライバビリティでも、渋滞でストップ&ゴーを繰り返すようなシチュエーションでは、DCTよりトルコン付きATの方が明らかにスムーズ。オイルという流体を介してトルクを伝えるだけに、耐久性の点でもトルコンに一日の長がある。

 かつては燃費面でもドライバビリティ面でも弱点と思われていたトルコンが、制御技術の進化によって最近はむしろ長所となっているのだ(ホンダは北米でトルコン付き8速DCTを市販している)。

BMWは脱DCTを宣言していて、特に縦置きエンジンはステップATが基本戦略。BMWとトヨタの共同開発によって生まれたスープラもDCTではなく8ATを搭載

DCTはスポーツカーに搭載して最も輝く

 また、最初は魅了されたDCTならではのキレのいいシフトフィールも、「DCTだからいい」のではなく、「いいDCTがいい」ということがだんだんわかってくる。

 つまり、ポルシェのPDKやBMW Mなどが使うZF製のハイエンドスポーツ用DCTの走りは惚れ惚れするほどだが、たとえばゲトラグ製のコンパクトカー向け普及版ではそれほどでもなく、並みのトルコンステップATと大差ないレベル。

 ライバルの性能が急速に進化したことで、かつて輝いていたDCTの魅力に影が差しているという状況なのだ。

マクラーレンなどスーパースポーツカーではDCTが全盛で、究極の気持ちよさを追求すると同時に高効率に速く走るためにはDCTが必須となっている

 率直に言って、現在のAT勢力分野でもっとも有力なのは進境著しいトルコンステップAT。続いて燃費性能を武器にアジアで強いCVT。最後尾が欧州で好まれるDCTという順位づけになっているように思う。

 やはり、DCTはスポーツカーに使ったとき、その特性がもっとも輝くAT。普及モデルのDCTには、それほど魅力を感じられなくなったというのが最近のぼくの正直な印象でございます。

日本メーカーがDCTの採用に消極的ななか、ホンダはフィットハイブリッドで7速DCTを登場させ、現在では同タイプのDCTをヴェゼル、フリード/フリード+(クロスター含む)、シャトル、グレイスのハイブリッドモデルに拡大採用

【画像ギャラリー】DCTを搭載する日本車(絶版車含む)

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