長年、トヨタのライバルとしてル・マン、世界耐久選手権を戦ってきたアウディが2016年をもって撤退した。
F1やWRCなどモータースポーツではさまざまな撤退劇が繰り返されてきたが、本当の意味で残念だと思える撤退劇は数少ない。なぜ、アウディの撤退はそれほど残念だといえるのだろうか。
文:段純恵/写真:Audi
ベストカー2017年1月26日号
多くの撤退劇のなかで、本当に残念だったのは“2つ”だけ
いくつものモータースポーツ撤退劇をみてきたが、本当に残念でならないものが2つある。2009年のトヨタF1撤退と今回のアウディWEC撤退だ。
トヨタの場合、あと一手で頂点にタッチできる地点まで登りながら、リーマンショックによる本社の業績悪化を受けての下山だった。
しかし、アウディの場合、背景にあるのはVWグループのディーゼル排ガス規制の不正問題である。ウソ八百を知りながらそれに目をつぶり、会社が金儲けに走った挙げ句の結果、というのが情けなくもやり切れない。
市販車で起きた問題とはいえ、ディーゼル車の優勢を喧伝してきたアウディ・モータースポーツのイメージもガタ落ち。
WEC発足当初のようなディーゼル車への優遇措置もほぼなくなり、勝利が厳しくなったいまが潮時、あとはポルシェに任せよう、という判断がグループ上層で働いたと思われる。
1999年のル・マン初出場に始まるアウディの耐久レースの歴史を紐解くと、そこにあるのは必ずしも光だけではない。
優勝請負業者ヨースト・レーシングをめぐるいろいろを皮切りに、時に王者としてセコくないか? と思う手段を選ぶことさえ厭わず、2012年の世界初ル・マン制覇ハイブリッド車にしても、実際は『なんちゃって』の域を越えていたとは言い難かった。
18年間で107勝。ディーゼルをレースで成功させた唯一無二の功績
それでもこの18年間にアウディが耐久レース界に残した功績は余人をもって代え難い。
187戦107勝、うちル・マン13勝の記録はもとより、存在そのものが耐久レースを牽引する象徴だった。
とりわけ最大の功績は、ディーゼルエンジンの価値と可能性を世間に知らしめた点だ。
自動車メーカーが、エンジン、駆動方式、ハイブリッドシステムなどの型や構造を問わず同列に競い、各々の技術を試す場である耐久レースに挑戦し、アウディはディーゼルエンジンの技術を磨いた。
実際、低回転から力強いトルクを生み出すディーゼルのパワーに何度目を見張ったことか。今季最終戦で2台のR18は、直線、コーナーを問わずポルシェとトヨタを圧倒。
6時間をフルブーストで走る抜けるような勢いは、エンジンを含むパワーユニットとシャシー、特に足回りの完成度の高さを伺わせた。
最後に勝てるマシンを仕上げ、ディーゼルエンジンにWECの覇権を、争う力が備わっていることを証明してみせたアウディの面々こそ、こんな形で耐久界から去らねばならないことを一番悔しく、不本意に思っているに違いない。
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