WEC(世界耐久選手権)の2025年シーズンで苦しい戦いを強いられたトヨタ。来シーズンはアップデートを施したニューマシンを投入するというが、ここでは「鼻歌を歌いながら運転できるようなクルマ」を目指すという。その鍵となるのが同社の「適合力」。トヨタはハード面では完璧だが、制御やチューニングといったソフト面に盲点はないだろうか?
文:山本シンヤ/写真:トヨタ
【画像ギャラリー】トヨタの2026年WECマシンをじっくり見てよ!(13枚)画像ギャラリーBOPを理由に甘え過ぎていた
現在、TOYOTA GAZOO Racing(以下:TGR)はさまざまなモータースポーツ活動を行なっているが、その頂点となるのがWRC(世界ラリー選手権)とWEC(世界耐久選手権)である。最大のミッションは勝つことだが、ただ勝てばいいというわけではない。その本質は「勝利できるようなクルマづくり」と、「その技術を市販車へフィードバックすること」にある。
その中でもWECは2012年から参戦を行なっているが、ハイブリッドを中心に最先端の技術がこの場で鍛えられてきた。その成果はトヨタ念願のル・マン制覇、シリーズチャンピオンで証明されている。
しかし、2025年は苦戦を強いられたのは皆さんのご存じの通りだろう。最終戦・バーレーンで1-2フィニッシュを獲得し、マニュファクチャラー選手権では2位となったものの、シーズン序盤から第7戦富士まで表彰台にすら届かない状況だった。
その最大の理由は“5年目”のマシンで戦うことの厳しさであった。BoP(性能調整)の問題もありライバルと比べるとマシンのトータル性能は劣っており、マシンの差をセットアップやレース戦略、オペレーションを踏まえた総合力でカバーしてきた。しかし、それにも限界があることが見えたシーズンだった。
チーム代表の小林可夢偉選手は「我々は『BoP(性能調整)があるから何もできない』ということに甘えすぎていました。それに対してライバルは、『何としてでも勝ってやろう』というメンタリティが強かったように感じます。参戦メーカーが増えた今、『今までのWECはこうだった』では通じないことが解りました」と分析している。
鼻歌を歌いながら運転できるクルマ!
ただ、チームは黙って指をくわえているだけでなく、9月下旬に行なわれた第7戦(富士)で、2026年に向けてマシンのアップデートを明言。つまり、現行ハイパーカールールで許されるエボ・ジョーカーの活用だ。ただ、勘違いしてほしくないのは、ル・マンの惨敗から進めたモノではなく、昨年の段階から着手していたそうだ。
10月1日にティザー画像、そして10月上旬にフランス・ポールリカールでテストが行なわれ、その時の画像がネットで拡散された。
中嶋一貴TGR副会長は「空力や制御のアップデートがメインとなる」と示唆していたが、そのコメント通りデザインが大きく変更(最新トヨタのイメージが付加)。もちろん機能のための変更となるが、テストを行なった可夢偉選手は「トヨタ史上、一番カッコいいクルマになるはず」と語っている。
その後TGRは11月21日に鈴鹿サーキットでWECシーズンエンド記者会見を開催したが、この席で可夢偉選手は、「かなり戦闘力が上がっているのは確認できています。残念ながらいえませんが、知ると『マジか!!』っていうこともやっています。そういうチャレンジや発想を持ってエンジニアの皆さんがかなり面白いことをやってきてくれています」と語っている。
実はル・マンの時に「レギュレーションの問題で『それは無理でしょ』と決めつけず、『どうやったらより速いクルマを作れるのか』と純粋に考えるようなマインドにする必要がある」と語っていたことが、すでに実践され始めているのだろう。
目指すのは「ドライバーが『鼻歌を歌いながら運転できるような』高いドライバビリティ」のクルマの追求だそうだ。これによりワンミスが命取りとなってしまう現場で働くメカニック・エンジニアの心の余裕も生み出せることも期待されている。















コメント
コメントの使い方ブガッティも(何億もするので実際は不可能ですが)誰でもTシャツでプロ並みの速さで走れる、を理想として車作りしてます。それと通じますね
とはいえ、スーパーカーはあくまで自己満足の世界であり、カタログ数値と違い個人のタイムはシビアではありません
一方でレースカーはタイムが全て。ブガッティより更に厳しい水準を目指すことになっていくでしょう。トヨタがどこまでやれるか、市販車にどれだけ反映されるか、見物です