ダブルディフューザーに特化して開発されたBGP001は開幕戦から圧倒的な速さだった
しかし、当時の政治的状況はブラウングランプリに圧倒的に有利に働き、このダブルディフューザーは許され、シーズンがスタートしてしまった。ブラウングランプリだけではなく、ウィリアムズもトヨタもブラウングランプリを真似てこのダブルディフューザーを搭載したが、開幕戦で違反扱いになる可能性が高いと判断して、マシン自体はすぐにスタンダードに変更可能な中途半端なものだった。ところがブラウングランプリは、マシン自体をダブルディフューザーに特化して開発してきたのだ。もちろんこの裏には違反にならないという強い自信があったからだ。
チームのその自信は規則の抜け穴を探り当てていたことと、政治的にも違反にされないという保証があったのかもしれない……。このチームは無償でブラウンがホンダから受け取り、一年後に160億ともいわれる額でメルセデスに売却している。当時のF1はメルセデスワークスの参入を懇願していたのだ。
このチームの根源は旧ティレルをBARが購入し、出だしはメカクローム/ルノーエンジンでのスタートだったが、すぐにホンダエンジンに載せ変え、さらにホンダによる協同経営、そしてホンダによる100%買い取りと発展してきたチームだ。
そして、このチームは常に投資家によるギャンブル的な要素をはらんできた。これはマーケッティングだけではなく、マシン開発にもいえることだった。巧みに規則の抜け穴を見つけてはそれをアドバンテージにしながら、チームのクレバーさを誇示してきた。これがこのチームの骨格をなす哲学なのだ。
しかし、抜け穴は時には行き止まりも存在する。このチームの誇ったずば抜けた抜け穴探しの戦略に足をすくわれ、大きく転倒したこともあるのだ。
初期にはフレキシブルリアウイングを採用してトップスピードを稼いでいたのだが、これが表面化したところでFIAが新しい車検法を導入、これでアドバンテージは消えてしまった。
秘密の燃料タンク発覚でBAR ホンダ失格騒動
抜け穴キングの奢りがハッキリと現れたのが2005年のBAR時代、サンマリノグランプリでの重量違反の裁定が下されたときだ。本来車体の最低重量は燃料タンクを空にして計測する、これはレギュレーションで規定されている。レース後の車検では燃料を完全に抜き去って重量測定されるのだが……。車検で燃料を抜くのはチームスタッフの仕事だ。ここでチームメカニックは抜き取り用のポンプを使い、完全に抜き取った事をFIAの係官に報告。しかしこのとき係官は燃料タンクの蓋を開けさせ、内部を検証した結果大量の燃料がタンクの中に残留していた。この残留燃料を完全に抜き取ると最低重量を大きく割っていたのだ。
当時はレース中の燃料補給があったのだが、このチームのレース中の最後の給油時間がレースの残り周回数からすると明らかに長いと、疑問視されていた。つまり最後の給油で最低重量規定に見合うように給油を増量していたのだ。したがって最終給油以前では、他のマシンよりも10kg以上も軽い状態で走らせていたのだ。
問題はこの違反そのことではなく、レギュレーションの抜け穴を探すことに夢中になり、F1現場の空気とF1を取り巻く環境を無視したことが問題なのだ。実はこの燃料タンクの問題は前年からピットレーンでは話題になっていた。
当時の給油は給油速度が規制されていて、給油器も全チーム同じでFIAが給油器検査もしていた。したがって給油時間で燃料補給量は一目瞭然。前年からこのチームの最終スティント給油時間が注視されていたのだ。
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