今ではほとんど見かけなくなってしまったが、ひと昔前まで、スポーツモデルには、大きなリアウイングが付けられていた。大きければ大きいほど「エライ」と思われていたリアウイングだが、公道を走るクルマのリアウイングに、どれほどの意味があるのか、と、疑問を感じた方もおられるのではないだろうか。
あの巨大な羽根は、本当は無意味なのだろうか。大きなリアウイングが特徴的だったクルマを振り返りつつ、巨大な羽の意味を考察してみよう。
文:吉川賢一
写真: NISSAN、TOYOTA、MITSUBISHI
【画像ギャラリー】ほかにもこんなクルマがあった!! リアウイングが特徴的だったクルマをギャラリーでチェック!!
60km/hでも効果はある
セダンやミニバンなどの車体形状にかかわりなく、乗用車は、高速走行をすると、揚力(リフトフォース)が働く。その力は、速度が高まるほどに2次関数的に増え、高速走行中にハンドルが軽くなったり、些細な横風でも左右にクルマが流されやすくなったりと、車両挙動へ悪影響を及ぼしていく。
あの大きなリアウイングは、この揚力と反対方向に働くダウンフォースを得るために装着している。ウイングの上面と下面に流速差をつけるよう、ウイングへ迎え角を設け、ダウンフォースを発生させているのだ。
近年、あの大きなリアウイングを見かけなくなったのは、床下やボディの形状を工夫することで、リフトフォースを低減できることがわかったためだ。
後方視界を妨げるような巨大なリアウイングを使わずとも、同等以上の効果を発生できるのであれば、あえてリアウイングにする必要はなくなる。時速300km/hを超える速度を出すR35型GT-Rが、あれほど小さなリアウイングで済んでいるのは、そのためだ。
冒頭で触れた、公道でのリアウイングの効果については、時速60km程度の一般道でも、リアウイングの効果は確かにある。しかし、これを体感することは難しい。
具体的な数値はクルマごとに異なるため、あくまで一般論だが、トヨタ86のような、さほど大きくないリアウイングを備えたクルマで時速60km/hでの走行中だと、ダウンフォースは1kg程度、120km/hだと5kg程度、200km/hだと20kg程度と推測する。
クルマの車重が1000kg~1500kg程度であるのでその大きさは、わずか1~2%だ。このように、迎え角度を調整できるようなウイングでない限り、実は、思ったほど大きくないのだ。
もし実験的に、リアウイングのオン/オフを乗り比べたとしても、リアウイング分の質量によるリア接地荷重の差を感じてしまい、それなりにスピードを上げないと、リアダウンフォースの効果は分からないだろう。
だが、限界速度で走っている走行中にクルマのリアフェンダーを左右にポンと手で押せばスピンしてしまうように、そのわずかな差であっても追及する意味はあるのだ。
派手なリアウイングが特徴的だった3台
■R33型スカイラインGT-R
1995年にデビューしたR33型の特徴の一つが、角度調整機能が付いたこのリアスポイラーだ。角度は水平(0度)、6度、12度、18度の4段階あり、高速で走るサーキットのコーナーでは、この効果が絶大に表れる。R32型スカイラインGT-Rのような固定式リアスポイラーもよいが、サーキットに合わせて、ユーザーの好みでセッティングできるリアウイングは面白いギミックだ。
■三菱GTO(最終型)
1990年に登場した三菱GTOも、ド派手なリアウイングをもつクルマとして有名だ。
シャシーはFFセダンであるディアマンテがベースのフルタイム4WD、ミドシップ車のようにも見えるボディをまとった3ドアクーペだ。4WS(四輪操舵)に加え、前後のスポイラーが可変するアクティブエアロシステムなども装備していた。1998年に登場したマイナーチェンジ版が最終型となり、最も大きなリアウイングとなった。
■トヨタA80型スープラ
1993年に登場したA80スープラの大型リアスポイラーは、記憶に残っている方も多いであろう。先代のA70スープラの直線的なデザインとは対照的に、流麗なカーブをもったグラマラスなボディスライルに合うよう、大きな弧を描いた大型スポイラーがオプションで用意されていた。
筆者のお気に入りは、リアウイングが積極的に使われ始めた、90年代の可変迎角のリアウイングを備えたクルマ達だ。床下の空気を使ったダウンフォース発生技術が確立していない時代の作品として、非常に面白いクルマが多くあった。
いまではカスタムカーでしか見ることがなくなった大型のリアスポイラーは、当時のエンジニア達が創意工夫をして生み出した「作品」だ。どんな意図で作りあげたのか、想像してみるのも面白い。
コメント
コメントの使い方