三菱i-MiEVがついに生産終了! 市販EVのパイオニアが築いた功績

三菱i-MiEVがついに生産終了! 市販EVのパイオニアが築いた功績

 日産と共同開発している軽EVがまもなく発表される予定だが、それを前に三菱のホームページから『i-MiEV』が消えた。

 2009年に軽自動車のEVとして登場し、EVの先駆けとしてその道を切り開いた「i-MiEV」。現在の最新型と比べると、設計に古さはあるもののが、コンセプト自体は魅力的だった。

 今回は、そんな『i-MiEV』がディーラーでいつまで受注が可能なのか? またこれまで築いてきたsの功績とは何か? について語っていきたい。

文/渡辺陽一郎
写真/MITSUBISHI

【画像ギャラリー】日本発EVの元祖! 三菱『i-MiEV』の変遷と仲間たち全集


■EVとしての使い勝手はよかったが、価格面での苦戦したi-MiEV

 コンパクトな電気自動車の三菱『i-MiEV(アイミーブ)』が生産を終了した。今後の動向などを販売店に尋ねると、以下のように返答された。

 「i-MiEVは生産を終えて、在庫車もほとんど残っていません。お客様からの問い合わせも少ないです。今後は日産と共同開発する軽自動車サイズの新しい電気自動車が発売されます。これが実質的にi-MiEVの後継車種になります。今は電動車(ハイブリッドを含む)が話題になり、軽自動車も人気なので、i-MiEVの後継車種には期待しています」

 そこで改めてi-MiEVの足跡を振り返りたい。

 i-MiEVは軽自動車の『i(アイ)』をベースに開発され、2009年にメンテナンスリース車両として市場に投入された。この後、2010年に一般ユーザーへの販売を開始している。日産の『先代(初代)リーフ』の発売よりも少し早かった。

2009年に登場し、数々の改良を重ねて販売を継続してきた。その日本のEVの先駆者も、日産と共同開発された、軽自動車規格の新型EVへ世代交代を果たす
2009年に登場し、数々の改良を重ねて販売を継続してきた。その日本のEVの先駆者も、日産と共同開発された、軽自動車規格の新型EVへ世代交代を果たす

 この後もi-MiEVは進化するが、売れ行きは伸び悩んだ。リーフはフルモデルチェンジを控えた2015年に1年間で9057台を登録したが、i-MiEVの販売台数は634台だ。それ以前はもう少し多いが、おおむね1年間に1000台前後で推移してきた。

 2018年には衝突安全性の向上を目的に前後のバンパーが伸ばされ、全長を従来の3395mmから3480mmに拡大している。全幅は1475mmで変更されていないが、カテゴリーは軽自動車から小型車になった。変更の翌年となる2019年の登録台数は100台だから、小型車になったことで、販売面ではさらに不利になった。

こちらは2018年の改良で「登録車」扱いとなった『 i-MiEV』。前後のバンパーが変更となっただけなので、4人乗りとなる軽規格の室内は変わらず、さらに売れないクルマとなってしまった
こちらは2018年の改良で「登録車」扱いとなった『 i-MiEV』。前後のバンパーが変更となっただけなので、4人乗りとなる軽規格の室内は変わらず、さらに売れないクルマとなってしまった

 また電気自動車ではリーフの売れ行きが圧倒的に多く、i-MiEVも比較される。この時に割高感が生じることも、i-MiEVの販売面でマイナスに作用した。

 i-MiEVの最終型は、駆動用リチウムイオン電池の総電力量が16kWhで、JC08モードにより164kmを走行できた。価格は300万3000円で、経済産業省による補助金の交付額は2020年度が18万4000円だ。この金額を差し引くと281万9000円であった。

 一方、現行リーフは、価格の最も安い「S」が332万6400円だ。経済産業省による補助金の交付額は2020年度で42万円だから、この金額を差し引くと290万6400円になる。購入時の出費はi-MiEVと同程度だが、リーフSのリチウムイオン電池は総電力量が40kWhだから、JC08モード走行で400km(WLTCモードで322km)を走る。i-MiEVの2倍以上だ。

 しかもリーフのボディは3ナンバーサイズで車内も広い。モーターの最高出力は150ps、最大トルクは32.6kgmだから、i-MiEVの64ps/16.3kgmに比べると2倍に達する。リーフなら衝突被害軽減ブレーキなども標準装着され、機能や装備と価格のバランスは圧倒的に勝っている。

 このようにi-MiEVは価格が割高だった。特に唯一のライバル車になるリーフと比べられると、割高感がさらに強調されてしまった。

 ただし、電気自動車とコンパクトな軽自動車のサイズは親和性が高い。電気自動車は、もともと短距離の移動に使われるクルマであるからだ。

 電気自動車には「1回の充電で走行できる距離が短い」という欠点が指摘される。確かにその通りだが、電気自動車の世界観に当てはめるとナンセンスだ。二酸化炭素の排出量や化石燃料の消費量を抑える考え方に基づけば、遠方への外出には、鉄道など公共の交通機関を使うのが合理的であるからだ。クルマは公共の交通機関ではカバーしにくい買い物など、日常的な短距離の移動に利用する。

 つまり遠方まで移動する時には、最寄の駅までクルマで出かけ、駐車場に入れて公共交通機関に乗り替える「パーク&ライド」の考え方が有効だ。個人的な交通機関のクルマと、公共的な交通機関を組み合わせることで、エコロジーを合理的に向上させる。好きな時に好きな場所へ自由に移動できることがクルマの大きな魅力だが、エコロジーを達成するには制約も生まれる。そこを前提に電気自動車は開発されている。

革新的なスタイルの軽自動車『i』ベースのEVだったため、10年以上現役でも古さは感じない。しかし、軽ベースゆえのバッテリー容量の小ささや安全装備が伴わず、残念ながらヒットしなかった
革新的なスタイルの軽自動車『i』ベースのEVだったため、10年以上現役でも古さは感じない。しかし、軽ベースゆえのバッテリー容量の小ささや安全装備が伴わず、残念ながらヒットしなかった

 そして日常的な短距離移動に利用するなら、ボディは小回り性能の優れたコンパクトなサイズが好ましい。車庫入れなどを頻繁に行うから、視界がよいことも大切だ。その意味でi-MiEVは、電気自動車本来の使われ方と親和性が高かった。

次ページは : ■ライバルEVの姿から考える 新型軽EVに求められる方向性

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