北海道留萌市在住の写真家・佐藤圭さんが撮った貴重な動物、風景写真をお届けする週末連載。
第21回は、エゾシカです。
古都奈良では、シカは神の使いとして保護されているので、街中に溢れていますが、北海道では保護されているわけでもないのに、人の生活圏までエゾシカがぐいぐい進出してきています。
以前、北海道を旅行中、小さな町の中心部で信号待ちをしているエゾシカの集団を見たことがあります。
そののんびりした風情に思わず笑ってしまいましたが、地元の道民たちにとっては微笑ましいと感じるようなものではなく、増え過ぎたエゾシカは、相当頭の痛い問題のようです。
写真・文/佐藤圭
農家の春、農作業の前にまず角拾い
北海道では、エゾシカというと、キタキツネと同じくらい身近な野生動物です。
しかし、僕が小さい頃(30年ほど前)は、一度も見たことがありませんでした。
それが、最近は、海岸線を車で走っていると、必ずと言っていいほどの確率でエゾシカを見かけます。それほど、爆発的に数を増やしています。
近年は、エゾシカが道路を渡ることも多く、車との衝突事故も多発しています。
エゾシカとの衝突で愛車が廃車になってしまった知人が何人もいます。
北海道では、特に山道を走るときは、エゾシカとの衝突に注意してください。
エゾシカは群れで行動するため、1頭飛び出してきてから、次々と飛び出してきて、30頭、40頭と渡って行くこともあります。
繁殖期は秋の終わりごろで、その頃は、オスが縄張りを主張し、叫び声をあげるラッティングコールが、山々に鳴り響きます。
オスが角をぶつけ合って力比べをするバトルも、この時期に多く、ぶつかったときの衝撃音はすさまじく、山中に雷のような音が響き渡ります。
そのバトルに勝った強い雄がハーレムを形成し群れで生活します。
4~5月には、繁殖期も終わり戦う必要がなくなるため、オスの角は落ちます。
この時期、里山の農地には、落ちたシカの角がごろごろしているような状態になり、角をトラクターで踏むと、パンクしてしまうので、農家のみなさんは、農作業の前に落角拾いをすることになります。
メスは、夏の初めには出産します。可愛いバンビの姿が見られるのは、もう少し先ですね。
エゾジカが爆発的に増え過ぎたことによって、生態系の破壊や農作物の食害など、さまざまな問題が生じますが、新たな生命の誕生は本当に美しいので、僕は子ジカたちに出会うのを純粋に楽しみにしています。
佐藤 圭 kei satou
1979年、北海道留萌市生まれ。動物写真家。SLASH写真事務所代表。フランスのアウトドアブランド「MILLET」アドバイザー。
日本一の夕陽と称される留萌市黄金岬の夕陽を撮影するために写真家の道に入る。北海道道北の自然風景と野生動物を中心に撮影を続け、各地で写真展を開催し、企業や雑誌、新聞などに写真を提供している。
2018年、エゾナキウサギの写真「貯食に大忙し」で第35回『日本の自然』写真コンテスト(主催:朝日新聞社、全日本写真連盟、森林文化協会)で最優秀賞受賞。
ウェブサイト:https://www.keisato-wildlife.com/
Facebook:https://facebook.com/kei.sato.1612
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