自動車盗難においては、自動車ユーザーおよびメーカー+防犯技術エンジニアと、自動車窃盗団は「窃盗」→「防犯技術向上」→「それを破る技術開発」→「その技術を防ぐ技術開発」→「その防犯技術を突破し窃盗」→「さらにその技術を…」という熾烈な開発競争が続けられてきた。
その結果、ここ10年で自動車盗難件数は約1/5にまで減少しており(認知件数ベースで2011年は2万5238件、2020年は5210件)、防犯チームがやや優勢に思える。
しかしそのいっぽうで、自動車盗難技術はより先鋭化が進んでいることも事実。より高級車に狙いを定められ、手口があくどくなっている。
本記事で紹介するのは、そうした一部の窃盗団が使っている「CANインベーダー」という盗難装置だ。
その盗難装置CANインベーダーを防ぐ方法はないのか? セキュリティ専門店とセキュリティシステムのメーカーに徹底取材した。
文/加藤久美子
写真/加藤博人、ユピテル、ベストカーweb編集部(アイキャッチ写真のレクサスLXはカーセキュリティプロショップA2M代表の撹上(かくあげ)智久氏の所有車)
■リレーアタックとCANインベーダー 何が違う?
警察庁が発表している『自動車盗難認知件数』は2003年の6万4223件をピークに年々減り続けており、2019年は7143件、2020年はピーク時の10分の1以下となる5210件(自動車本体の盗難)にまで減少した。コロナ禍で海外との往来が困難であったことも理由だろう。
しかし、このような状況でも盗難率が激増している車種がある。それがレクサスLXだ。
こちらは、2019年と2020年の盗難台数のワースト5と盗難率である。
レクサスLXの盗難率は46.5と他車に比べてケタ違いに多い。1000台あれば約47台が盗まれている計算になる。
LXは他の車種が減少する中、唯一、盗難率が上がっている車種なのである。そしてこのLXを筆頭としたレクサスやクラウンなどの国産高級車は近年、『CANインベーダー』という新たな手口での盗難が増えている。
高級車の盗難手口はイモビカッター→リレーアタックと変化してきており、電子制御が進んだ最新の高級車においてはCANインベーダーが主流となりつつある。改めて、リレーアタックとCANインベーダー。このふたつの違いについて簡単に説明しておこう。
■リレーアタック
流行のピークを過ぎているとはいえ、いまだに多い盗難手口だ。スマートキーから常時出ている微弱な電波を特殊な機器で増幅してドアロックを解除しエンジンを始動させる。
駐車しているクルマとスマートキーが近い状況(家の玄関や駐車場に近い窓際などにキーがある等)で狙われやすく、駐車場にクルマを停めて自宅へ向かう歩いている途中にもポケットやカバンに入ったスマートキーがターゲットになりうる。
しかし、リレーアタックの場合はスマートキーから出ている電波を完璧に遮断すれば防ぐことが可能だ。キーを金属の缶や電波を遮断するキーケースに入れるなど比較的簡単に対策を講じることができるため、近年はリレーアタックによる盗難被害が大幅に減少している。
■CANインベーダー
CANとは 【Controller Area Network】を意味するIT用語でクルマ内部にある電子回路や電気系の装置を接続するための通信規格の一つ。ECU(電子制御装置)やエンジン、各種センサーなどの部品をつないでおり、すべての装置が一つの伝送路を共有する。
CANインベーダーとはこの伝送路に侵入(invade)してドアロックなどを解除し、エンジンを始動させる盗難手口のこと。リレーアタックに代わって、2017~2018年頃から徐々に増え始めており2020年の終わりころから急増している。
クルマとキーの距離や位置関係、電波発信の有無などには関係なく、クルマの前に人が立てるスペースさえあれば盗めてしまうのが恐ろしいところ。リレーアタックのようにスマートキーからの電波遮断という対策は効果がない。新しく高級なクルマほどこの手口で盗みやすいとされている。
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