■今年6月、兵庫県警が押収したCANインベーダーの機器を公開
2021年6月には日本で初めて兵庫県警がCANインベーダーの手口で約200台、総額10億円以上の高級車を盗んだ窃盗団を逮捕している。
その際、窃盗団から押収したCANインベーダーの機械も報道陣に公開されており、その特殊機器は【モバイルバッテリー型システム侵入ツール】と名付けられていた。
見た目はまさにモバイルバッテリーそのものといっていい形状だ。USBのソケットやケーブルなどがついており、職質された時などにも「モバイルバッテリーです」と言い逃れできるのだろうか?
この特殊機器は1機150万~200万円という高額で取引されているそうだが、「リレーアタックより簡単で確実」(窃盗団関係者)というのだから、コスパの良い投資なのかもしれない。
フロントバンパーを外側から外し、手が届きやすいCAN信号につながる端子に特殊機械を接続し、制御システムに侵入するという手口であるが、あまり詳しい方法を記事に書くのは犯罪の助長につながるので控えておく。
では猛威を振るうCANインベーダー。これによる盗難を防ぐ方法はあるのだろうか?
これまで2000台以上のカーセキュリティを取り付け、16年間一台も盗まれたことがないカーセキュリティプロショップA2M代表の撹上(かくあげ)智久氏と、国産最高級セキュリティ「ゴルゴ」「パンテーラ」を製造するユピテルのマーケティング部第2ディレクションチームリーダー小野塚竜太氏に話を聞いた。
ちなみに、撹上氏が初めてCANインベーダーでの盗難に遭遇したのは3年以上前のこと。CANインベーダーという言葉自体も存在せず、その手口すら明らかになっていなかった頃だ。
「数年前、リレーアタック全盛の頃でした。スマートキーを缶に入れたり電波遮断のポーチに入れたりして自衛するオーナーが増えていた時期でしたが、なぜか愛知県内ではリレーアタックの自衛をしていたのに盗まれるクルマが出てきていました。
その頃、愛知県の知人が所有するLXが盗まれて、運よくその日のうちに発見されたのですが、クルマを見ると見た目は全く損傷がない。どうやって盗んだのか調べてみたところ、助手席側のフロントバンパーがわずかにずれていることに気づきました。この時がCANインベーダーで盗まれたクルマを見た最初でした。
『この方法ならうちのクルマは全部やられてしまう!』と調査を行った自動車メーカーの関係者も頭を抱えていましたよ。」(撹上氏)。
■カーセキュリティでCANインベーダーによる盗難どこまで防げる?
自動車メーカーもお手上げのCANインベーダーだが、カーセキュリティで防ぐことはできるのだろうか?
「CANインベーダーで解除されるのは車両の純正セキュリティなので、まったく別のシステムで取り付けているカーセキュリティには一切影響がありません。セキュリティのセンサーはすべてスタンバイしている状態です。
バッテリーを切られた場合でもバックアップサイレン(電池式)が鳴る仕組みになっています。用途や車種によって各種のオプションをセキュリティのプロショップでしっかりと正しく取り付けて頂ければCANインベーダーであっても、当社のゴルゴやパンテーラで対応ができます。
どのような方法にしても『ドアを開ける』という動作は必ずありますので、その段階でまず発報(警報サイレンが鳴る)しますね」(ユピテル小野塚氏)。
「CANインベーダー特有の、『フロントバンパーを外す』という部分で衝撃センサーが働いてサイレンや通知が来る可能性も高いですし、また、仮にエンジンが掛かった際には、『イグニッションON 』を知らせる通知がセキュリティのリモコンに通知されます。
ゴルゴやパンテーラの場合、車種ごとに取り付ける場所や配線をつなぐ場所などをユピテルさんが指定してくれているのでわかりやすいですね。
カーセキュリティはどういう機器を選ぶかも大事ですが、同じ予算であれば、どういう付け方をするのか、が重要。もちろん時間をかけてオーナーにしっかり説明し理解してもらうことも大事です。そこを押さえていれば、CANインベーダーでターゲットにされやすい最新の高級車でも、1990年代の国産旧車でも同じです」(A2M撹上氏)
なお、量販店で販売されている1万~2万円のカーセキュリティについてはどうだろうか? 撹上氏の答えは「お守り、というか気休めのようなものですね。車上荒らし程度であれば少し効果が望めるかもしれませんが」とのことだった。
このほか、「ハンドルロック」や「タイヤロック」など1万円以下で入手できる防犯ツールについてはどうだろうか? これらについても撹上氏は以下のように話した。
「複数を組み合わせることである程度の抑止力や時間稼ぎにはなるかもしれませんが、窃盗団はハンドルロックなどすぐに切断できてしまいます。タイヤロックも同様で、車高が高いSUVタイプならそのまま強引に走って行けば外れることもあります」。
窃盗団は標的としたクルマにどんな防犯ツールがついているか? サイレンの音はどのレベルか? などを事前にしっかりと調べて準備をしたうえで盗むという。ポン付けの盗難防止グッズなどひとたまりもないだろう。
ただし、気をつけなければいけないのは「バッテリー上がり」だ。基本の基本だが、全てのカーセキュリティは電池式のバックアップサイレンを除いて自動車に積まれたバッテリー(鉛蓄電池)で作動する。カーセキュリティの多くは、2週間程度エンジンを掛けないと『スリープモード』に入る設定がある。(スリープモードにしない設定も可能)
「たまにしかクルマに乗らない方は要注意です。カーセキュリティの消費電力は大したことないのですが、クルマのバッテリーはエンジンをかけるか、走行するかしない限り、どんどん電圧が下がっていきます。弊社ではお客さんに「必ず週に1度はクルマを動かしてください。」と伝えており、スリープモードは外して常に警戒モードになる設定にしています」(撹上氏)。
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