どうやって実現? ホンダ「2050年交通事故死者ゼロ」目標の本気度と現実

どうやって実現? ホンダ「2050年交通事故死者ゼロ」目標の本気度と現実

 クルマの安全運転支援技術は日々進化している。衝突軽減ブレーキやアクセル踏み間違い防止機能、周囲を見渡せるカメラや車線維持機能、そして運転中でもハンドルから手を離せたり目線を外せる機能も登場している。こうした技術は地道な開発の積み重ねで進化しており、大きな「交通事故をなくす」という目標に向かって、少しずつ進んでいる。

 ではその「最前線」はどのような状況なのか。本稿ではホンダの安全技術の最先端を取材した。

文/西村直人、写真/池之平昌信、HONDA

後編:「転ばないバイク」も電動化!? ホンダが二輪で考える先進安全の今 世界中で事故をなくすための方策とは?

【画像ギャラリー】2050年交通事故死者ゼロへ!! ホンダの将来安全技術をチェック(14枚)画像ギャラリー

■ホンダが目指す安全技術の進化の行方

 交通事故は誰もが避けたい。被害者はもちろん、加害者にだってなりたくない。これは自動車メーカー共通の願いでもある。

 2021年11月25日、ホンダは事故を遠ざける「手段」こそ、将来にわたる安全技術のあるべき姿であるとし、全世界に向けて公開した。ここでは、すぐにでも実用化できる技術から、2020年代後半やそれ以降に実用化を目指す研究過程の技術まで多様な手段が提示された。

 もっとも大きな要点は目標を“交通事故死者ゼロ”に設定したことだ。具体的な手段の方向は2つ。

 “実用化されている運転支援技術”と、“操作ミスや事故リスクの予兆をAIにより捉える技術”を融合させた(1)「知能化運転支援技術」。通信技術で歩行者を含めた混合交通の参加者をつなげ、互いに事故を遠ざける(2)「安全・安心ネットワーク技術」だ。本稿では(1)を中心にレポートする。

 目標へは2段構成で迫る。まず(1) 「知能化運転支援技術」を活用することで、2030年までにホンダの二輪車/四輪車が関係する交通事故死者を半減(2020年比)。次に(1) 「知能化運転支援技術」に加えて(2) 「安全・安心ネットワーク技術」を活用することで2050年までに交通事故死者ゼロを目指す。

 掲げられた目標だけでも達成難易度は高いが、さらにホンダは2050年の交通事故死者ゼロの前提として、2050年に世界で保有されている現存車、つまり過去に販売されたホンダ車を含めて死者ゼロを目指した。これはとてつもなく高いハードルだ。

 今回、ホンダが掲げた手段は多岐に渡るため、本稿では以下の5つに絞って紹介する。

fMRIで人間の脳を調査し運転リスクの検出

交通事故死者ゼロに向けたシナリオ
交通事故死者ゼロに向けたシナリオ

 (1)「知能化運転支援技術」の開発には人の研究がなによりも大切。このことからホンダは「脳」に着目した。脳は認知、判断、操作のすべて渡る司令塔だ。「ヒューマンエラー」、すなわち人の間違いによって発生する操作ミスや判断の誤りは、原因をたどるとすべて脳に行き着く。

 そこで脳の活動のうち、ヒューマンエラーにつながる運転中の活動を磁気共鳴機能画像法(fMRI)で可視化して、運転中のさまざまなリスクに対応する部位とその特徴の解析した。fMRIとは人間ドックなどで体験するMRIの機能に加えて、脳の神経活動により発生する血流状態を検出して画像にする機能を加えた機器のこと。

 ちなみに人の脳は、目や口など顔をイメージさせるものに高い関心を示すことで知られる。ホンダはこれを二輪のマスクデザインにも応用し、「FACEデザイン」(詳細は本稿第二弾の二輪版レポートにて紹介)と名付けた。また、実際にfMRI用いてFACEデザインの優位性を立証しつつ、すでに多くのホンダ車に採用済み。

 (1) 「知能化運転支援技術」の開発では、fMRI被験者に対して、なるべく現実に近い運転環境に近づけて仮想空間を走行させ、その際に発生する各種イベント(例/急な割り込みなど)での運転操作や身体的な反応、さらにはそのイベント前後の脳活動をfMRIによって細かく画像として記録した。

 すると、ヒューマンエラーしにくい(=運転操作での事故リスクがもっとも低い)ドライバーは、特定部位が素早く反応していることが分かり、それにより正しい視線移動と運転操作が確実に促されていることがわかってきた。  

 この先は、運転中の視線や操作に車載の先進安全技術などの情報を統合することで、ヒューマンエラーの真の原因を特定して、危険から遠ざける運転環境を提供することを目指す。

AI技術を活用することで未然に防ぐヒューマンエラーによる事故

運転能力拡張シミュレーター(N-BOX)
運転能力拡張シミュレーター(N-BOX)

 今回、(1) 「知能化運転支援技術」の考え方で構成されたヒューマンエラーを抑制する具体例を「運転能力拡張シミュレーター」(N-BOX)で体験した。

 ここではまず、ドライバーの視線や運転操作などを検出。つぎにドライバーが見落としていたり、漫然運転をしていて危険な状態に近づくことをシステムが判断した場合には、AIが想定したリスクの少ない(=安全な運転操作ができる)ドライバーに近づけるよう、インジケーターや光などを通じて注意喚起(報知)を行なったり、正しいステアリング操作やアクセル操作のアシストを行う。

 テストコースでは、AI技術を活用してヒューマンエラーによる事故を防ぐ「新世代HMI」を搭載した運転支援技術も体験した。車載の外界認識カメラ(360度)から取得した自車周囲の外界情報と、ドライバーモニターカメラからの車内情報、さらにはドライバーが装着するリストバンド型の心拍数計測機器からの身体情報が統合され、事故の発生リスクの高まりに応じて、AIのディープニューラルネットワークを用いたシステムが各HMIを通じてドライバーへ様々なアプローチを試みる。

 新世代HMIの体験は以下A~Dの4項目。

A/シートの背もたれ部分を振動
B/インジケーターの点灯とシートベルトの巻き上げ
C/Bの機能を使って横断歩道での見落としミスを抑制
D/背もたれ部分上部左右に内蔵されたスピーカーを使い、危険が迫る方向を意識させる

 Bでのシートベルトは真綿を締めるようにじんわりと巻き上げられるため、危険が迫るまでの猶予(おおよその時間)も把握できた。これにインジケーター表示が加わるため、運転経験や技量に関わらずわかりやすいと感じた。

Honda SENSING 360の日本国内・海外への普及

Honda SENSING 360(実験車)
Honda SENSING 360(実験車)

 Honda SENSINGにミリ波レーダー5つを加えて、センサーでの検出範囲を自車周囲360度へと拡大。これにより、システムが対応できる運転環境が劇的に増え、よりシビアな運転環境でも高度な運転支援が行える。

 テストコースでは、見通しの悪い前方交差道路を走る二輪車の確実な認識とブレーキ制御、同じ道路条件で80km/hで走行する四輪車の認識とブレーキ制御を披露。技術者によると、90km/hまでの相対速度に対応可能であるという。

 50km/hで追従走行中、前走車の急な進路変更により、新たに現れた前方停止車両に対する確実な報知し、スムースなブレーキ制御も体感できた。これは自動化レベル3を備える「Honda SENSING Elite」が実装する機能の切り分けだ。

 また、横断歩道のある交差点を左折する際、車両の右前方からくる歩行者だけでなく運転席から死角になりやすい左側方からの歩行者も認識してブレーキ制御まで作動させるシーンも体験した。

  Honda SENSING 360は2022年中に過酷な運転/道路環境で知られる中国市場の四輪車から導入を開始する。わかりやすく複雑でシビアな環境を皮切りにするとは、ホンダは技術に相当な自信があるのだろう。なお、Honda SENSING 360は2030年までに日本を含めた先進国の全モデルに搭載される。

最新エアバッグ技術

「全方位エアバッグ技術」を披露。四輪車の「斜め前面衝突」で問題となる脳障害を低減を狙った、頭部の回転を抑えるエアバッグを開発した。運転席はドーナツ型として、そして助手席はエアバッグに2つのサブエアバッグを組み合わせたサブチャンバー型として脳の揺さぶりを可能な限り抑えつつ、確実に乗員の拘束も行う。

 さらに会場では「ESV2019」(開催国/オランダ)に出展された技術コンセプト車両も展示された。運転席用として両肩の後ろからエアバッグを展開し、上半身の大部分を覆い拘束力を高めながら衝撃を吸収する技術や、歩行者との前方衝突を予測した場合にエアバッグが車体の前方にせり出して、歩行者の衝撃を吸収する「新・歩行者保護エアバッグ」を披露した。

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