ホンダが二輪で考える先進安全の今 世界中で事故をなくすための方策とは?

ホンダが二輪で考える先進安全の今 世界中で事故をなくすための方策とは?

 2021年11月25日、ホンダは2050年交通事故死者ゼロに向けた先進の将来安全技術を世界初公開した。

 前編では、fMRIを駆使した運転リスク・ヒューマンエラーの検出、Honda SENSING 360の海外への普及など、クルマにおける先進安全技術開発の最先端の研究を解説した。

前編:どうやって実現? ホンダ「2050年交通事故死者ゼロ」目標の本気度と現実

 今回は、バイクの事故・死亡事故を防ぐためにホンダが研究・開発している交通安全、先進安全技術の最前線を解説する。

文/西村直人、写真/池之平昌信、HONDA

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二輪事故を防ぐには(新興国での交通安全/二輪安全技術)

 二輪車に乗り始めて33年間。幸いにして、これまで程度に関わらず交通事故はなく、公道での転倒経験もないが、自分なりに事故に遭わなかった理由を振り返ってみると、10代の未熟な若年ライダーであった頃に、安全運転講習会に参加してきたことが大きかったと思う。

 今回ホンダは、安全ビジョン・テクノロジー取材会のなかで二輪と四輪を連携させた安全技術と安全教育を目指すと発表した。

 東南アジア諸国連合(ASEAN)など新興国では、二輪車の需要が四輪車以上に高い。車両価格が安価なことに加えて、ランニングコストも低く抑えられることから移動手段として人気が高いのだ。

 しかし、2名以上の多人数乗車や、想定している設計身長よりも低い子供が通学に利用するなど、危険な状態で二輪車に乗らざるを得ない国々もある。

 そのうちの一国、タイにおける二輪車の交通事故を分析してみると、交通事故による死者の74%が二輪車の乗車中に発生し、そのうち37%が乗用車との衝突が原因であることがわかった。

 また、二輪教習受講経験、つまり二輪車の安全な乗り方を学んだライダーは全体のわずか1%。86%のライダーが独学や、家族や友人に教わるという(数値はホンダ発表)。

 二輪の安全運転として効果の高い技術に“進化したブレーキ”がある。システムの高度化により確実に減速できるからだ。

 ホンダでは1982年に前後連動ブレーキシステムである「コンビブレーキ」を実用化して以降、現在は年間約1000万台以上の搭載車を販売している。コンビブレーキとは後輪ブレーキの操作で前輪ブレーキも同時に働かせる技術。1つのブレーキ操作で前後のブレーキを連動させ安定して止まることを目指した。

 さらに四輪では義務化されたABSが、二輪にも次々に採用されている。効果は四輪と同じく車輪のロックを防ぐこと。さらに二輪の場合は急なブレーキ操作からの車輪ロックは転倒につながることから、ABSでは転倒を抑制する効果もある。

 ちなみに、日本ではすでに二輪のABS(排気量【定格出力】/50cc【0.6kW】超~125cc【1.0kW】以下の原付2種はコンビブレーキでも可)の義務化が導入されている。

小型スクーター用二輪エアバッグの開発

小型スクーター向けのエアバッグ
小型スクーター向けのエアバッグ

 ホンダは2007年、世界初の量産二輪車用エアバッグシステムを搭載した「ゴールドウイング」を販売しているが、今回はそのエアバッグ技術を応用した小型スクーター向けのエアバッグが展示された。

 実は2017年のメディア取材会ですでに披露されていたのだが、直近の日本における二輪車死亡事故の特徴(「出会い頭」で頻発し「頭部損傷」が多いなど)から改めての紹介となった。

 ホンダが独自に行なった「負傷低減性能確認試験」(ダミーを乗せた小型スクーターを四輪車の側面に50km/hで衝突)では、これまで負傷レベルPAIS 5に相当するものであったものが、エアバッグにより負傷レベルはPAIS 0(負傷度94%削減)にまで下げることができたという。

ライディングアシスト搭載プロトタイプ登場

二輪姿勢制御機構を組み込んだプロトタイプ車両
二輪姿勢制御機構を組み込んだプロトタイプ車両

 転ばないバイク……。永遠のテーマに対しホンダは2017年に「Honda Riding Assist-e」として答えを出している。今回紹介されたのはホンダの「NM4」をベースに電動化した二輪車に、二輪姿勢制御機構「ライディングアシスト」を組み込んだプロトタイプ車両だ。

 要となるのは電動化された「バランスアシスト技術」。前輪操舵用のアクチュエーターと、後輪前に設置された車体・後輪揺動機構、そして車体中央のジャイロセンサーを駆使して、倒れそうになる反対側へ車体を動かして復元力を高めつつ、前輪での介入度合いを少なくすることで自然なライディングを実現したという。

 ホンダの人型ロボット「ASIMO」に搭載される姿勢安定化技術を応用し、まずはこのバランスアシスト技術を、停車時や不安定になりがちな極低速走行時(10km/h以下)の車体バランスを保つよう強固に制御。

 将来的には、このバランスアシスト技術を「運転支援技術」であるACCやLKAS(車線中央維持機能)と連動させ自動化レベル2を実現したり、衝突被害軽減ブレーキや車線逸脱抑制機能を作動させた場合の車体安定性を高めたりする。また、制動や駆動の制御やステアリングへの介入も行ない積極的な「運動安定技術」にも活かすという。

 また、すでにホンダでは、実際に衝突被害軽減ブレーキを搭載した研究車両により実用化テストを繰り返していることから、四輪の先進安全技術が二輪に搭載される日が近づいていることを肌で感じることができた。

 このほか、「コーナリングライト」や「エマージェンシーストップシグナル」、「デイタイムランニングライト」などが紹介されていた。

 このうち、ウインカーをできるだけ車体の左右に配置して見た目の幅を広くとり、合わせてヘッドライトを眼のように表現して人の顔のイメージさせることで被視認性を高める「FACEデザイン」は、すでに多くのホンダ二輪に採用されている。fMRIによる脳科学の分野でも実証されたこの知見は、ホンダが二輪のASV3(編注:ホンダ独自の安全技術を盛り込んだ先進安全自動車)プロジェクトで発表した理論だった。

 またホンダは二輪のASV3として、車体の光源を上下に分散して同じく被視認性を高める「LONGデザイン」も発表していたが、こちらは法規制の関係もあり、現時点では残念ながら実用化に至っていない。

 これまで四輪を前編、二輪を後編としてホンダの将来安全技術を駆け足で紹介した。レポートした内容の10倍以上の技術が公表されていたので、機会があれば各々の詳細にも迫ってみたい。

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