トヨタの全チャネル全車種取り扱いがスタートして、間もなく2年が経過する。併売化は、長きにわたりチャネル制を維持してきたトヨタ販売会社にとっては、非常に大きな転機だった。その変化は、非常に大きなものだっただろう。
販売のトヨタが行った聖域改革で、何が起こったのだろうか。変化の様子と今後の課題を考える。
文:佐々木 亘
画像:TOYOTA
■3代目プリウスで感じた競争の現実
メーカーが大舵を切ったのは2020年5月の事だが、トヨタ販売店は随分前から「併売」という現実を受け止め、対策を講じていた。
全車種併売の雰囲気を感じ始めたのは、2009年5月の3代目プリウス登場とほぼ同時だ。
トヨタテクノロジーの全てを注ぎ込んで作られたプリウスは、初代がトヨタ店、2代目はトヨタ店とトヨペット店の専売車種である。ハイブリッドは、まだまだ高級なものというイメージがあったのか、トヨタの中では高価格帯のクルマを扱う2チャネルに販売を限定していた。しかし、3代目はトヨタの量産車として初めて4チャネル扱いとなり、後にプリウスは、月販18万台を記録する国民車となる。
兄弟車ではなく、同一車種でトヨタチャネル同士がライバル関係になり、各販社がプリウスの販売台数を競い合った。これが、トヨタ販社同士で「競争」を意識した瞬間である。
■直営はひとつだけ! 地場資本にすべてを売り渡したトヨタ販売の現実
メーカーとしてのトヨタは、2020年5月に併売化をスタートさせた。そして間髪入れず、2020年7月22日に、メーカー直営5社を地場資本へ譲渡することを発表する。これによりトヨタ直営販社はトヨタモビリティ東京だけとなり、全国に点在する5,000~6,000と言われるトヨタ販売店のほぼすべてが、各地の地場資本で運営されることになった。
この発表は、事実上各地域の販社をメーカーが守るという構図を無くし、トヨタ販売店は、縮小する国内販売の中で、生き残りをかけた大戦争がスタートする。
どのお店でも同じクルマを扱えるようになったことで、クリーンな競争が行われているように見えるが、チャネルごとに客層が大きく違うトヨタ販社では、競争原理が正しく働かない側面がある。
特に、どのクルマが、いつニューモデルとして登場するのかというカギを、メーカーが握っていることから、「生き残ってほしい販社」は、既に決まっているのではないかと、不信感を抱く声も聞こえていた。
併売化後、真っ先に登場したニューモデルは、トヨペット店が専売していたハリアーだ。そしてヤリスクロス(旧ヴィッツはネッツ店専売)、MIRAI(初代はトヨタ・トヨペット店専売)と続く。これらのニューモデルは、中間上位ユーザー層を受け持っていたトヨペット店には、追い風となっただろう。
格式のトヨタ店や革新的な勢いのネッツ店とは違う。量販のカローラ店よりも質が高いトヨペット店を、トヨタ販社の代表的なイメージとしたかったのだろうか。各地域のトヨペット店が勢いを増していく中で、他店はトヨペット寄りのスタンスへ、大きく転換することとなった。
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