全日本ラリー選手権のオープンクラスに、場違いともいえるクルマが走っている。誰しも競技車両ではなくサービスカーだと思ってしまうハイエースだ。全日本ラリー選手権 第2戦ツール・ド・九州2022 in唐津にCASTレーシングから2台の新開発のショックアブソーバーを装着した、2Lガソリンエンジンハイエースが参戦した。ドライバーは自動車ジャーナリストの国沢光宏氏。記念参戦か、ひやかしか。いいえ、もちろんガチです。勝ちに行ってます。
TEXT/国沢光宏 PHOTO/CAST RACING
■ハイエースで参戦する海より深い理由
昨年全日本ラリー参戦を発表した時は「ハイエースなんかラリー車じゃない!」的な批判を少なからずいただいた。京丹後ラリーなんか当日になって「出場を認めず!」。一方「面白い!」と評価する声もあり、全体的に見ると応援してくれる方が多かったような気がする。実際、一生懸命クルマ作りをして一生懸命走っていると、見た人は皆さん「すごく楽しい!」と言ってくれます。
幸いなんとか居場所を確保できたようで、今シーズンは「オープンクラスなら走っていいだろう」という流れになってきた。ということで昨年も参戦を許可してくれた全日本ラリー第2戦の唐津が今年初のイベントになります。
今回のテーマは「市販したばかりのショックの耐久チェック」です。ハイエースで参戦している理由のひとつが「市販パーツを競技で鍛える」というもの。
昨シーズンは売るパーツもないのに予算を使い、ラリーに出て開発していたのでございます。『CASTレーシング』は自動車部品商である『丸徳商会』とネオチューンで有名な『サンコーワークス』のジョイントベンチャー。面白いことに最初から収益を考えるんじゃなく、競技で開発していい部品が作れたら売ろうというコンプトだったりする。私も100%賛同します。
やっと市販できるショックアブソーバーが完成したので、今回競技に出て、さらに改良していきましょう、ということになった。
なぜハイエースでラリーなのかと言えば、一番条件が悪いと思える車種だからだ。なんたって前後の重量配分は80対20くらい。スポーティなクルマの文法を守っておらず。重心だって高い。
車重も1600kg以上あり、しかもブレーキかければほぼ前輪だけで支えなくちゃならない。コーナリングすると前輪の外側に強烈な荷重がかかる。こんなクルマでオイル漏れせず、しかもセットアップが決まってガンガン走れるなら、どんなクルマだって使えることだろう。私のクルマのサスペンションをすべてこいつにしたいと思っているほど。それくらい興味深いダンパーです。
タイプは写真のような「サブシリンダー一体式」だ。ダンパーの性能を追求すると、なるべく多くの作動油を使いたい。だからこそ複筒式より単筒式の方がいいと言われる。これにサブシリンダー(別体タンクとも呼ばれる)を付ければ圧倒的に作動油の容量を増やせる。今回のタイプも約2倍になった。競技用は上のクラスになるほど「別タン式」を使う。ところが別タン式、けっこうなお値段になる。
それをリーズナブルな価格で実現しましょうというプロジェクトなのだった。長い長い前置きになっちゃいました。発売したばかりのサブシリンダー一体式を装着して全日本ラリーである。走り出す前、開発担当の喜多見さんから「昨年までのスペックより少し動きが大きいかもしれません」。そのあたりは器用さを取り柄とするドライバーなので、なんとかしましょう。
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