かつての中国車には、日本車に遠く及ばないイメージがあった。決して追いつかれることはないと、大多数の日本人が考え、そして安心していたはずだ。しかし今、中国と中国車は急速にその実力を伸ばしてきている。
モーターショーの規模を例にとれば、中国はもはや東京を追い抜いて、北京や上海などは世界のトップ5に入るまでになった。
「中国の話題なんか取り上げなくていい」という方も、なかにはいるだろう。しかし、そうした状況に象徴される目覚ましい発展を聞き、心中穏やかならざる人も多いはずだ。自動車産業は日本経済の屋台骨であり、新たな脅威が生まれるのなら、それは大げさではなく日本経済の先行きを左右しかねない。
そしてEV(電気自動車)だ。中国国内のEV開発と、それを取り巻く状況も合わせて、2017年11月の広州ショーでのEV試乗会に参加した松田秀士に話を聞いた。
※本稿は2017年12月のものです。
文:松田秀士、写真:佐藤靖彦
初出:『ベストカー』2018年1月10日号
■進むEVの普及とNEV規制 日本への影響は?
中国は自動車メーカーに対して、年間販売台数の10%をNEV(新エネルギー車)に設定すると発表した。
中国でいうNEVとは現在のEV(電気自動車)。2020年には、その比率を12%に引き上げるとしている。手っ取り早く説明すると、再来年(2019年)には1年間に販売するEVの数を年間販売台数で約2800万台の10%、つまり280万台がEVになる計算。これはスゴすぎる!
今、日本国内の自動車販売台数は500万台切れ。つまり、日本の年間販売台数の半分以上がEVになる。この規制をクリアしないと中国でクルマを売ることができなくなるか、自動車メーカーはなんらかのペナルティを支払わなければならない可能性も。
世界最大の自動車販売市場である中国は、世界中の自動車メーカーのドル箱。これを欧米のメーカーが放っておくワケがなく、中国の自動車メーカーと合弁などしてその対応に必死なのだ。これを受けて、トヨタもホンダもEVへの重い腰を上げ始めた。
実際、北京では大気汚染対策として、曜日によって走行できるナンバープレートの下ヒト桁を決めている。しかし、EVにすれば気兼ねなく毎日走れる。さらに、ナンバープレートの交付が抽選でなんと150倍ともいわれている。
しかし、EVは規制外だ。もちろん補助金もたっぷり。現実問題としてEVを販売することが急務なのだ。
実用的EVでは日産自動車がリーフを販売し、2017年にフルモデルチェンジした。技術的にも世界をリードしているかに見える。が、問題はEVの心臓ともいえるバッテリー(リチウムイオン)にある。日産は2007年にNECとの合弁事業で設立したオートモーティブエナジーサプライ社を中国のベンチャーキャピタルであるGSRに売却した。
今、中国国内では車載用リチウムイオン電池を製造するベンチャーがどんどん誕生。EV導入は国内経済活性化への中国政府の思惑もあり、バッテリー生産への補助金もあり、世界中の電池製造会社はコスト面でやがて太刀打ちできなくなる可能性が高い。
それを見越してカルロス・ゴーン会長はGSRに売却したのだろう。つまり、これまでと事情が変わり、バッテリーを外部調達に切り替えることでEV製造コストの低減を狙ったと考えられる。
しかし、車載用リチウムイオンバッテリーに関しては安全性や充電時間の問題など、まだまだ開発の余地が山積。そこを日本の技術力で大きく進歩させることができればEV台頭は日本メーカーにとって脅威ではなくなるはずだ。
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