電動化に向けて動き出したスズキ。しかし気になることがある。将来の製品計画に、エスクードの姿が見当たらないのだ。コンパクトSUV市場そのものを生み出したこの名車は消えてしまうのか? その過去と未来を追いかけてみた!
文/渡辺陽一郎、写真/スズキ
■スペーシアやスイフトのシルエットもなし?
スズキは2023年1月に、2030年度に向けた成長戦略を発表した。この中で注目されたのが、2030年度までの製品計画だ。「2023年度(2023年4月から2024年3月)に、バッテリーEVを初投入」とある。この後、2030年度までに、バッテリーEVを6車種投入するという。
気になるのはバッテリーEVの内容だ。成長戦略の発表資料では、日本で発売される6車種のバッテリーEVがシルエットで示された。あくまでもイメージだが、シルエットからはアルト、ワゴンR、ハスラー、エブリイ、インドで公開されたフロンクス、同じくインドで披露されたeVXと受け取られる。
スズキの主要車種が入っているが、最も国内販売台数の多いスペーシア、小型車のスイフトやエスクードは見当たらない。欧州の発表資料には、ジムニーシエラ(5ドア?)EVのシルエットも掲載されたが、これも日本の計画にはない。
ちなみに日本における2030年度のパワートレイン比率は、バッテリーEVが20%で、ハイブリッドは80%を想定している。依然としてハイブリッドが主力だ。欧州は逆で、バッテリーEVが80%、ハイブリッドは20%になる。
つまり欧州におけるバッテリーEVの初投入は2024年度で日本より遅れるが、規制対応に沿って、2030年度までには大急ぎで販売比率を80%まで高めるわけだ。
発表資料によると、海外で発売するバッテリーEVにはSUVが多いが、日本では少ない。そこで省かれたエスクードについて、改めて考えてみたい。
■コンパクトSUV市場を切り開いた初代エスクード
初代エスクードは、1988年にコンパクトSUVとして発売された。当時のSUVは、トヨタランドクルーザー、日産サファリ/テラノ、三菱パジェロ、いすゞビッグホーンなど排気量の大きな車種が中心で、コンパクトサイズはジムニー程度だった。
そのために初代エスクードは注目を集めた。当時は若年層の間でクルマの人気が高く、エスクードと同じ1988年に発売されたS13型5代目シルビア、1987年に登場した3代目プレリュードやAE92型カローラレビン&スプリンタートレノ、1985年の4代目セリカといったクーペが好調に売られていた。
その点で初代エスクードは、全長が3560mm、全幅は1635mmとコンパクトだ。3ドアの外観には引き締まり感もあってカッコイイ。ボディタイプは、ハードトップとソフトトップのコンバーチブルが用意され、後者では爽快なオープンドライブを楽しめた。
エンジンは直列4気筒1.6Lで、ラダー(梯状の)フレームに架装される。後輪駆動をベースにした4WDには、悪路で駆動力を高める副変速機も装着され、走破力も高かった。価格はハードトップ、コンバーチブルともに5速MTが178万円で、価格が割安なことも人気を高めた秘訣であった。
この後、エスクードは5ドアボディの「ノマド」を加えてファミリーユーザーも増えたが、1994年にはトヨタから初代RAV4が発売された。
軽快な印象のコンパクトなボディなど、コンセプトは初代エスクードに似ており、RAV4のプラットフォームは乗用車と共通の前輪駆動をベースにしたタイプだ。走行安定性が優れ、エンジンが2Lだから動力性能にも余裕がある。
初代RAV4の駆動方式は、発売時点ではエスクードと同じ4WDのみだった。標準タイプの価格は5速MTが176万9000円だから、初代RAV4はエスクードの強敵になった。そこでエスクードも、ディーゼルエンジンやV型6気筒2L/2.5Lのガソリンエンジンを加えるなど、上級移行を図った。
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