前回は「静的評価」でアテンザとレクサスESを評価した現役自動車開発エンジニア、水野和敏さん。
評価としては概ね高評価で、日本車のFFセダンの新時代を走り抜ける2台もひと安心といったところ。
今回はいよいよ試乗。計算だけで割り出されたような、「開発者の思い」が反映されていないクルマにはとことん厳しい水野さん。
今回のアテンザとESの評価はいかに?
文:水野和敏/写真:池之平昌信
ベストカー2019年3月26日号
■アテンザのお買い得感は高い!!
ヘッドアップディスプレイは直接窓ガラスに映し出す方式になりましたね。
350万円でヘッドアップディスプレイも付いているのなら、お買い得感は高く、ハイバリュー!
しなやかな乗り心地はタイヤとのマッチングのよさです。ヘタに超扁平の18インチとか19インチなどを履くよりもよいと思います。
2.2Lディーゼルターボは真面目によく作られたエンジンですが「ディーゼル特有のパンチ力のあるトルクやアクセルレスポンス」などについては、ベンツの新型ディーゼルなどが持つ感性的快感は期待できません。
ガソリン車のようです。やはり、尿素処理がなく、EGRと燃焼制御だけに頼った排ガス対応では限界があるのでしょう。
燃焼制御だけではトルクを絞ってしまったりレスポンスも鈍くしてしまうリスクも持っています。
ベンツのフルスペックの最新2Lディーゼルターボはもっとガツンと押し出すようなトルク感があるしレスポンスもキチンとあります。
とはいえ、350万円という価格を考えると、このエンジンの価値観は感じられます。操縦性はニュートラルで安心感があります。
操舵に対するレスポンス遅れはなく、前後のロールバランスも適正で位相遅れなどはありません。
サスペンションリンク剛性が高くアソビを感じません。ブレーキの前後配分バランスもいいです。
タイヤとのマッチングもさることながら、エンジン特性との合わせ込みが上手。ボディ剛性は、ガッチリ固いということではないのですが、クルマ全体で変形がバランスされているので違和感を感じるところがありません。
ロードノイズもよく抑えられているし、ディーゼルエンジンの音や振動もしっかりと抑えられています。
乗り心地もカド感がなくしなやか。どこにも「悪いところ」がない。
一方、特段に「ここが凄い」という部分もないのですが、350万円という価格を考えれば、このトータルバランスの高さは大きな価値です。
直進性も高いので高速道路を100km/hで長距離走って疲れないでしょう。自然に乗ることができてよいクルマです。
■レクサスESはフロントのバネを4Nm程度柔らかく
走り出してすぐに足の硬さを感じます。カムリはこんなに硬くなく、柔らかさが上手くバランスされていました。スポーティモデルのFスポーツだからでしょうか!?
ボディ剛性不足を感じる部分があります。タイヤとサスペンションのチューニングに対して、特にリア部分がブルブルと位相が遅れて振動します。
これはカムリでは感じませんでした。操安性に関して、フロントは両輪がきちんと接地して気持よくスッと反応しますが、リアは前後フロアの車体接合部分で撓んでしまい、接地感が希薄になり、遅れて反応する動きをします。
バッテリー搭載スペースや重さに車体が影響を受けてしまっているのでしょうか。
カムリもそうでしたが、フロントのストラット間車体剛性は、後付メンバーの効果が大きく剛性は高く、このESのスポーツセッティングやスポーツタイヤにも対応できているのですが、リアの車体剛性はついていけていないようで、ここに少し違和感があります。
この車体であればフロントのバネを4Nm程度柔らかくし反応を少し緩めたほうが、リアとのバランスが自然で操安性の質感が高められると思います。
ブレーキはちょっとフロントに頼りすぎて後輪の制動力が使い切れていません。下りの急制動でリアがフラつくのは少し改善してほしいと思いますが、この改善は操安性の改善と共存すると思います。
前後の効きバランスはアテンザのほうが上手くまとめられています。カムリとの違いを演出するためにちょっと極端に振り過ぎたのかもしれません。
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