無謀な規制緩和で誰が得する? 「免許もヘルメットもミラーも不要」 電動キックボードの危険性はないのか

24年4月メドのはずが早くも23年7月開始へ

 全般的な内容としては、動力を搭載しながら最高速を制限することで、ほぼ自転車並みの扱いとするのが狙いだ。なお電動ボードのみ対象のように見えるが、要件を満たしていれば形状に決まりはなく、自転車タイプや3輪タイプを含む電動モビリティが特例および特定原付の対象だ。

 警察庁が予定する施行時期は2023年7月1日。2024年4月末までに実施されることは決まっていたが、異例なほど導入が早い印象である。

 なお一部報道で誤解が見られるが、今ある電動キックボードが何でも7月から特定原付としてノーヘル&無免許でOKとなるわけではない。最高速が20km/h以下だったとしても、特定原付として保安基準を満たし、型式認定済みであることを示す表示(ラベル)がないと認められない。

 問題点は既にベストカーWebを含む各メディアが挙げているとおり多々ある。

 まず「交通」の問題。特定原付の20km/hは少し速い自転車と同程度だが、今後は車道に従来の原付と自転車に加え、より走行速度の異なる三種類の乗り物が混在することになる。ドライバーやライダーとしては走行中のストレスが一段と増えるに違いない。

 「免許不要」も懸念材料だ。購入店などで交通ルールを指導していくとのことだが、自転車でさえルールを破る輩が多いのに、動力付きの特定原付で無免許となると危険な運転が頻発するはず。しかも任意保険に加入する層は少ないと見られ、これに巻き込まれたドライバーは過失責任を多く負うことになってしまうだろう。

「一般原付」とは従来の原付を表す新しい名称(予定)。電動ボードを含む特定原付はわずか10km/h低いだけで免許とヘルメットが不要だ。※表は警察庁資料を元に筆者作成
「一般原付」とは従来の原付を表す新しい名称(予定)。電動ボードを含む特定原付はわずか10km/h低いだけで免許とヘルメットが不要だ。※表は警察庁資料を元に筆者作成

マジ? 違反しても免許不要だから点数制度がない!

 しかも特定原付の違反行為は、免許不要のため、点数制度の対象外という。ただし飲酒運転などの悪質な違反は、自転車と同様に青キップや刑事処分の対象となる(16歳未満は6か月以下の懲役または10万円以下の罰金、16歳以上は5年以下の懲役または100万円以下の罰金)。

 とはいえ、走行帯の違反は(たったの)3000円。違反を3年以内に2回以上繰り返した場合は、自転車と同様の運転者講習が義務付けられる(講習に参加しなかった場合、5万円以下の罰金)。

 また「制限速度」に関しては、リミッターで制御するにしても、解除する輩が出てくるはず。他にも問題点は山積している。

シンガポールでは事故多発で電動ボードが実質禁止に

都内を走る電動キックボード。重心が高く、二輪のため、段差では安定性に欠ける。ドライバーやライダーとしては追い抜きの際に気をつかう ※写真は筆者撮影<br>
都内を走る電動キックボード。重心が高く、二輪のため、段差では安定性に欠ける。ドライバーやライダーとしては追い抜きの際に気をつかう ※写真は筆者撮影

 事実、電動ボードの事故は増加の一途だ。2020年は全国で4件だった事故が、翌年は29件、2022年は6月までの統計で16件あった。そして昨年9月25日、東京都内で電動キックボード初の死亡事故が発生。酒酔い運転の男性が車止めにぶつかって転倒したことが原因だった。

 海外に目を向けると、2010年代半ばからシェアリング事業が本格化。急速に拡大したが、事故も多発している。特にシンガポールでは車道走行が禁止された後、2019年に歩道走行も禁止され、実質的に走行NGになってしまった。

 広い道路が多い国ではともかく、道が狭い日本で本当に安全が確保できるのか、はなはだ疑問が残る。

名目は産業競争力の強化だが、その実態は……

50ccの原付一種は、維持費こそ安いものの、51cc以上のバイクとは異なる30km/h上限などのルールがあり、利便性の面で不利。いまだに1955年時点の性能が基準になっているのだ
50ccの原付一種は、維持費こそ安いものの、51cc以上のバイクとは異なる30km/h上限などのルールがあり、利便性の面で不利。いまだに1955年時点の性能が基準になっているのだ

 なぜ、ここまで電動ボードは優遇されるのか? 元々は道交法で「原付一種」の扱いのため、免許やヘルメットが必須といったハードルがあった。こうした障壁に対し、電動キックボードの事業者団体が「免許なし、ヘルメットなしで乗れるよう規制緩和してほしい」と国に要望したのが発端。

 2020年より経済産業省が主導し、「日本の産業競争力の強化」や、インバウンドを見込んだ「海外との規制調和」を名目に緩和を推し進めた経緯がある。

 これを受け、2021年から電動ボードのシェアリング事業者らが実証実験を行い、ついに今回の法改正に至ったのが経緯だ。

 それにしても“ゴリ押し”に見えるほどアッサリと規制緩和に至ってしまった感がある。本来こうした大幅な規制緩和は長い年月をかけて慎重に行うべきものだが、背景に何らかの強い力を感じてしまう。

 筆者が特にそう感じるのは、従来の原付バイクにおける旧態依然としたルールがずっと変わらないからだ。

 原付一種(50cc以下)バイクの上限30km/h規制は、戦後間もない1955年に制定された。自転車にエンジンを積んだ「バタバタ」の時代だ。また、原付独自の二段階右折に関しても法令化されたのは1986年(それ以前はクルマと同様に小回り右折が認められていた)。

 バイクの性能が飛躍的に向上し、ライダーや業界団体が数十年と声を挙げ続けてきたにも関わらず、頑なに旧い制度が変わらないのだ。

 その一方で電動ボードを含む特定原付はわずか3年程度で規制緩和が実現した。これが冒頭で述べた「異次元緩和」と感じる主な理由だ。

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