和歌山県は日本最長距離を走る路線バスが出入りする場所で知られるが、実はその隣の三重県に長い路線がもう一つ運行している。三重交通56系統「松阪熊野線」がそれだ。
文・写真:中山修一
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■ある意味日本一な路線バス
三重交通56系統「松阪熊野線」は、三重県熊野市の三交南紀(三重交通の営業所)とJR熊野市駅前、同県松阪市の松阪中央病院または松阪駅前を結ぶ、高速道路を通らない一般路線バスだ。
この路線には「熊野古道ライン」の愛称が付けられている。熊野古道(くまのこどう)とは、熊野本宮大社、熊野速玉大社、熊野那智大社の三社の総称である熊野三山へと通じる道のことだ。
各方面から続く6つのルートがあり、その中で松阪熊野線の愛称は、伊勢神宮〜熊野三山を結ぶ「熊野古道 伊勢路」をイメージしている。
運行距離にすると134.8kmにも及び、非高速バスとしてはかなり長い。全国ランキングで見ると、お馴染みの奈良交通八木新宮線(169.8km)を筆頭に、大体5番目くらいに松阪熊野線がランクインする。
一見するとNo.1からは程遠い。ただし条件を「一つの県内で完結する一般路線バスが走る距離」に変えると、1位は奈良県と和歌山県をまたぐため対象外、2〜4位は北海“道”なのでノーカウントとなり、押し出しで松阪熊野線が日本一長い路線バスに輝く。
ちなみに、日本最長である八木新宮線の走行区間のうち、奈良県内は延長120kmくらい。単一県内の走行距離で見ると松阪熊野線のほうが長いわけだ。
また、2023年現在のところ、松阪熊野線には2018年式の大型路線車・いすゞエルガのハイブリッド車が専属で使用されている。ハイブリッドの路線車が一本の便で走る距離の長さも日本一と言えそうだ。
■青と緑が二度オイシイ
130kmを超える距離を走るバスということで、4時間以上のロングライドだ。せっかく乗りバスで楽しむなら、始発の停留所から乗車して終点で降りてみたくなる。
今回は熊野市側から出発して松阪を目指す順路を選んだ。56系統は1日3本あるが、うち2本は朝早く出てしまうため、実質的に使えるのは始発の三交南紀を13:20に発車する松阪駅前行きのみだ。
三交南紀のバス停は熊野市の観光エリアから外れた場所にあり、JR線と徒歩で向かった。成り行きでバス停への到着がギリギリになってしまったが、間に合わないことはなかった。始発から乗車した他の利用者はゼロ、この時点で通し乗車は1名で確定した。
出発後しばらくの間は田園風景の中を通り、JR熊野市駅の前を経由してすぐに海沿いへと進路を変えて、景勝地の鬼ヶ城の前を通る。この区間はキレイなオーシャンビューが楽しめる。
このまま海沿いを走る路線なのかな? と思いきや、鬼ヶ城を過ぎると海から離れ、今度は山の中へ吸い込まれるように入っていく。さっきまで青かった景色が、打って変わって一面の緑に激変する極端さが楽しい。
バスは国道42号線をメインルートに進んでいくが、この42号線がなかなかの峠道であり、海沿いを走る路線バスにして山岳路線の一面を持っていると気付かされた。
最も高い場所で標高405m程度まで上がるようで、道路脇に群生している木々が途切れる瞬間に顔を出す、進行方向右側の奥に広がる山々の連なりは圧巻だ。
峠を過ぎると再び海が現れる。三交南紀から34kmほど進んだ地点の尾鷲(おわせ)市付近で、国道42号線がJR紀勢本線の線路と合流して、その後はほぼ線路沿いを走っていく。
約60km地点のJR紀伊長島駅を過ぎたあたりで、線路も国道も内陸へと進路が変わり、以降海からは完全に離れる。