世界王者・原田哲也が「ちょっとスゴいね」と唸った! ホンダCBR1000RR-R SPはスーパースポーツモデルの良心だ

 「車体は、かなり低くて長い印象ですね」と原田さん。「恐らく、ブレーキングスタビリティ(ブレーキをかけた時の安定性)を高める狙いでしょう。レースでは結局のところブレーキングが抜きどころ。勝負できるマシンにしたいというホンダの意気込みが伝わってきます。

 また、車高の低さにも好感が持てました。バイクを寝かせる量を減らすことができるし、旋回中もビタッと安定します。ただ、旋回性はちょっと犠牲になっているのかな、と感じました。

 旋回性を高めるなら、重心を上げてピッチングモーション(車体の前後方向の動き)を出すのがセオリーですが、RR-Rの方向性は逆。ブレーキングではすごく突っ込めるけど、旋回性そのものは必ずしも高くない」

1993年世界グランプリ250ccクラスチャンピオンの原田哲也さん。今でもサーキット走行を楽しんでいる
1993年世界グランプリ250ccクラスチャンピオンの原田哲也さん。今でもサーキット走行を楽しんでいる

 原田さんは、「開発の方向性が明確だということがよく分かる」と強調する。「バイクの開発は、『両取り』ができないものなんです。従来のCBR1000RRのように旋回性が高いと扱いやすく感じるけれど、ピッチングが大きくなるからブレーキングで勝負できない。

 そしてRR-Rのようにブレーキングスタビリティを高めると突っ込み勝負で有利だけど、旋回性はどうしても犠牲になる。……いや、犠牲というより、ライダーが旋回性を高めるための操作をしないといけないって感じかな。オートマチックには曲がってくれないから、ひと手間をかける必要があるんです。かなり割り切りってきたな、と思います」

「スゴいマシンに乗っている」という満足感

 筆者もRR-Rを走らせたが、「手強い!」のヒトコトに尽きる。スローペースで走っている分には何の問題もないが、ちょっとペースを上げようと手強さが顔を覗かせる。まずもって思うように曲げられない。

 かなりしっかりブレーキングしないとピッチングモーションが起きないのでキャスターを立てることができずフロント荷重も足りず、思うような旋回性を引き出せないまま「ハララララ……」とはらんでしまうのだ。以前、市販レーサーのホンダNSF250Rに試乗した時と同じ印象だ。

 どうやって曲げたらいいか分からない……というより、曲げ方は分かっていても必要なだけのブレーキングができない。目玉を三角にしてフンヌと攻め込めば少しはポテンシャルを引き出せるかもしれないが、そこまでテンションを持って行けないし、速度域が高すぎる。中途半端を許さないガチのスーパーバイクマシンは、かなり遠いところにある。

 レベルがまるで違うので並べるのも僭越の極みだが、原田さんも同じようなことを感じていた。「正直、テロッと走っていると僕でも厳しいです。RR-Rは、かなり気合いを入れて乗る必要がある。でも今、自分がそこまでがむしゃらになって走れるかって言うと、ねえ(笑)。

 ただ、一般の方でも『レーシングマシンってこういう乗り物なのか』と感じてもらえるのは確かですね。僕はRR-Rでの公道走行は積極的にオススメしません。相当にパワフルだし、前傾ポジションもキツいしね。

 でも、たまにこうしてサーキットを走って、汗をかきながらリアルレーシングマシンにほど近いフィーリングを楽しむのもアリだと思います。『スゴいマシンに乗ってる!』と思えるから、所有感はすごく満たされるんじゃないかな」

世界王者・原田哲也が「ちょっとスゴいね」と唸った! ホンダCBR1000RR-R SPはスーパースポーツモデルの良心だ
CBR1000RR-Rはロードゴーイングレーサーと言える存在。乗りこなせなくてもこのプレミアム感だけでも満足できる

 勝利への情熱を剥き出しにして、思い切った割り切りを見せるホンダCBR1000RR-R。さんざんからかわれてきた優等生がついに瓶底メガネをかなぐり捨て、制服を引きちぎり、筋骨隆々の体躯を誇示しているかのようだ。

 でも、200psを超えているスーパースポーツモデルなんて、本当にファンタジーの世界だ。私たち一般ライダーは、そのポテンシャルのほとんどを使いこなせない。それなら、原田さんをして「気合い入れないと」と思わせるぐらい緊張感がある方がいい。

 何でもないフリをして実はヤバいというより、アヴェンタドールSVJのように見るからにヤバく、実際に乗ってみてもある程度のヤバさをキチンと感じさせてくれる方が、いっそ良心的だ。

【画像ギャラリー】世界王者ですら気合を入れた ホンダの超絶SSを乗りこなすには

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