■半導体不足解消はいつ? そして果たして需給は戻ってくるのか?
さて、読者諸兄に覚えておいていただきたいのは「TSMC」という台湾の会社です。半導体の受託生産会社で、自社ブランドの製品を持たず、メーカーから図面を受け取り、そのとおりに生産するのを仕事にしています。専門的には「ファウンドリー」と呼ばれています。
先に上げた3大車載半導体メーカーも、先端デバイスはすべてTSMCのようなファウンドリーに発注しています。さまざまな計算方法がありますが、世界に出荷される高精度プロセッサの92%がTSMC、また車載プロセッサの60%がTSMC製であると言われています。
●力を持った3次下請け
例えばルネサスは自社では線幅40ナノメートル以下の先端製品は作れませんから、先端製品は全量をファウンドリーに投げています。自動車メーカーがファウンドリーとやり取りする機会はほとんどありません。
自動車メーカーからすれば、デンソーの下請けであるルネサスのさらに下請けに当たるのですから、言うなれば3次下請けです。まさか「下請けの下請けの下請け」がここまで影響力を持つようになるとは夢にも思わなかったでしょうね。
ちなみにTSMCの一番のお得意様はアップルで、売上のおよそ25%がアップル向けです。そのほかにもクアルコムやエヌビディアなどの超優良企業が顧客であり、売上の約6割が北米向けになっています。日本は……わずか4%なんですよね。
TSMCからすれば、日本の車載半導体など「その他大勢」以外の何者でもありません。残念ですがこれが現実です。
このままじゃさすがにヤバくね? ということで、経済産業省が音頭を取って熊本県にソニーと合弁でTSMCの工場誘致を行っているのですが、果たしてうまくいくでしょうか。
主要顧客であるアメリカに工場を作るなら話はわかりますが(実際にこれからアリゾナに120億ドル規模の巨大な半導体工場を作る予定です)、大して重要でもない顧客の近くに工場を持つメリットなどほとんどありませんからね。
もしTSMC様が熊本に工場を作れたとしたら、それはそれは夢のような好条件(巨額の補助金とか土地建物がタダとか、特例的税制優遇とか)が提示されたと見るべきでしょう。なんかもうやられ放題ですね。ソニーさん大丈夫ですか?
今はCMOS(※編註:シーモス。BIOSに関する情報が記憶されたメモリーのことで、これを使ったスマホ用イメージセンサーでソニーは世界シェアの約半分を占めている)で儲かっているからなぁ。
●年内の需給安定は無理?
さて、最後に車載半導体はいつ頃需給が安定するか、に関して考察しましょう。「ここは必ず書いてくれ」と編集部の担当の方からも言われているのですが、難しいですねぇ。あまりいい加減なことは言えませんし、エイヤで書くと後で大恥を書くことになりますからね。
ただ間違いなく言えるのは、「年内はどうにもならない」ということです。物理的にムリです。ラインが確保されていません。
そうそう。そういえば車載半導体については面白い話があります。かのテスラはTSMCとサムスン(この会社も半導体の受託生産を行っています)に対し、必要な量を確保するために、なんと前金を払って半導体を購入する案を提示しています。
市況や顧客の懐具合に合わせて臨機応変に製品を配分するのがファウンドリービジネスの醍醐味であるのですが、その醍醐味をも上回る額を支払うということなのでしょう。
車載半導体はこれからどんどん値上がりします。自動車メーカーは苦労が絶えませんね。
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