トルクが太いと何がおトク?
トルクは力の一種なので「トルクが大きい」または「小さい」と表現できる。しかし、クルマのトルクを語る際に「大きい」「小さい」ではなく「太い」「細い」を使う人は多い。これは実際にドライブしているときに大きなトルクを発生するエンジンを「トルクが太い」と感じるのが理由。この記事は科学論文ではないから、そこまで厳密な言葉の使い分けはしないのであしからず。
トルクと馬力の走りにおける違いを簡単に説明すると、トルクが大きければ静止状態からクルマを発進させる力が強く、馬力の大きいクルマは最高速度が速くなる。つまり、最高出力がいかに大きくても、低回転域におけるトルクの小さいエンジンでは、クルマを力強く加速させることはできない。実際に高回転・高出力型のエンジンはトルクが小さくなることも多く、低速側の減速比を調整してトルクの細さを補っている。
反対に低速トルクの大きいエンジンを積んだクルマは、車体が重くても十分な加速力が得られる。ただし、得てしてこうした特性のエンジンは最高回転数を上げにくく、最高速度も頭打ちになりがち。広い回転域で大きなトルクを発生するエンジンは良好なドライバビリティをもたらしてくれる。
市販車のトルク王は?
「R35GT-Rのエンジンは570psを発揮する」「いや、国産車の馬力ならLFAだって負けてない」など、馬力に関するネタは豊富で、カタログでも最高馬力を誇らしげに表示するモデルも多い。
では、ある意味馬力以上に重要なトルクはどうだろう? 皆さんは国産車のトルク王がどのモデルなのか知っていますか? これにすぐに答えられる人はかなりのマニア。ここではそうした“通”ではない読者にトルク王を紹介していこう。
国産スポーツカーにおけるトルク王は日産R35 GT-R NISMOだ。このモデルは600psの最高出力も強烈だが、トルクも66.5kgmと圧倒的。最高出力がエンジン回転数6800rpmで発生するのに対し、最大トルクの発生回転数は3600rpm。この特性がGT-R NISMOに驚異的な加速性能を与えている。
重量のあるSUVではトルクが大切だが、この部門でのトップはトヨタのランドクルーザー300(FJA300W型)。71.4kgmのトルクを1600rpmで発生する。このモデルに搭載するエンジンはディーゼル方式であり、ディーゼルエンジンの特性として、ガソリンエンジンよりも低回転で最大トルクが得られる。そのためかなり低い回転数でこれだけのトルクを生み出している。つまり力強い発進力ならディーゼルに分があるといえる。
コンパクトカーのトルク王には37.7kgmでトヨタGRヤリスが輝いた。しかし、このクルマはコンパクトカーとはいっても一般的なコンパクトカーとは少々毛色が異なるのはご存じのとおり。それでもナンバーワンであるのは間違いない。
真のトルク王はEVだった!?
ここまでは燃料を燃やして動力を得る内燃機関を搭載したクルマのトルク王を紹介してきた。だが、トルク王を考えるうえで電気自動車(EV)とハイブリッド車(HV)の存在は無視できない。その理由は動力に使われる電動モーターの特性にある。
内燃機関の最大トルクがある程度回転が上昇してから得られるのに対し、電動モーターは回り始めたその瞬間に最大トルクを発生する。詳しい解説は省略するが、これは内燃機関と電動モーターの仕組みの違いによるもの。低速で大きなトルクを発生することが加速面で有利なのはすでに述べてきたが、この理屈でいえば、電動モーターを搭載するEVやHVのほうが高い発進力を発揮できることになる。
参考までに代表的な国産EVの一台でもある日産リーフ標準モデルのSでスペックをチェックしてみると、最大トルクは32.6kgm。この数値自体はそこまで驚くものではないが、注目はその発生回転数が0~3283rpmになっている点だ。つまりゼロ発進からいきなり最大トルクで加速できるということ。
低速域のトルクの太さは電動モーターと内燃機関を組み合わせたハイブリッド車でも同様だ。ゼロ発進から低速区間はトルクの大きいモーターが主な動力源となり、高速では主に内燃機関の力によって走行する。こうして両者の利点をうまく活用しているのだ。
ちなみにハイブリッドスポーツのホンダNSXも56.1kgmの最大トルクを2000rpmという比較的低い回転数で発生させる。
ここまで読めば、トルクの重要さもわかってもらえたはず。これから新たにクルマを購入しようと考えている人は、馬力と同時に最大トルクとその発生回転数もぜひチェックしてほしい。クルマに対する考え、スペックの見方が変わるかもしれない。
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