今復活の可能性濃厚でクルマ好きを騒がせているMR2。特に初代MR2(1984.6~1989.10)は、当時の人にとっては、国産初のミッドシップスポーツカーとして印象的に残っている方も多いのではないだろうか。今回はMR2 aw11型の初試乗記事をリバイバルし、懐かしき時代(私は生まれてないけども)を振り返っていこうと思う。
※この記事はベストカー1984年8月号(著者は黒沢元治氏)を転載し、再編集したものです
■スターターが背中で音をたてる…
首を長くして待っていた我々の前に日本初のミドシップスポーツカー、MR2がツインカム独特の排気音を背中から響かせながらキュンと現われた。″意外に小さいな”と、瞬間思った。とてもトレッドが1440mm(フロント)もあるようには見えない。
純白のMR2は、4A-GELUの″G・LIMITED”仕様で、ミラーを含むウインドウ回りやバンバー、フロントのエアダムスカートやサイドステップを黒で絞め上げた華麗で精巧なスタイリングを我々に見せている。
発表会で見たときの印象とはずいふん違う。あのとき、照明に照らされていたMR2たちはどこか精彩がなかった。しかし、今日のMR2は周りのクルマを圧倒するかのように、キラキラ輝いて見えた。
オーナーの「どうぞ」の声ももどかしく、早速コックピットに乗り込む。黒と赤のドライビングシートは背中にピタッとフィットしている。
最近のトヨタ車のシートはホールド感に優れ、とてもよく体にフィットしてくれるが、このMR2のシートはそのなかでもトビキリだ。室内に目を移す。ミッドシップ特有の狭苦しさは感じない。
そういう意味ではこのクルマがミドシップのクルマであることを忘れさせてしまうが、イグニッションキーをひねったとたん世界は一変する。スターターが背中で回り始めた…。
″ああ、こいつはミドシップなんだ″と思った瞬間、4A-GELUが息をし始める。
静かなエンジン音だ。この背中から聞こえてくるメカニカルノイズと振動をとても心地よく感じた…。
どことはなしにF3マシンを想い出しながらのスタート。
■コーナリングスピードは1割アップ
まず、発進時のスクォートがまったく感じられないことに驚く。ス〜ッとスタートし、リアタイヤがベタッと路面をグリップしていることがよくわかる。これこそミドシップフィーリングだ。
スティック状の短いシフトレバーは2速に入っている。シフトフィーリングは抜群、硬さもレスポンスも適切だ。
4A-GELU、130馬力のエンジン音に追いかけられるように、さらにアクセルを踏む。940kgの車重のためか、レビン/トレノの軽い加速に比較するとやや重い加速といえるが、トラクションがよいためか、思ったよりスピードにのっている。車重は重いが加速性能はレビン/トレノ上回っているかもしれないほどだ。
30分ほどの試乗でMR2の下調べは終わった。ミッドシップといったら、やはり曲がりをテストしてやらなくては…。私が選んだコーナーは60Rほどの2速全開コーナーだった。コーナリングスピードは約80km/h、MR2のコーナリング性能を試すために目一杯の速度で走ってやる。
ごく一般的な人なら、こんなコーナーを目一杯突っ込む勇気はないだろうし、よしんば元気一杯突っ込んだつもりでも、ミドシップの限界は高いから、パニックを経験することはまずないだろう。
しかし、こちらはこれが仕事。コーナーの頂点をすぎたところでパワースライドさせてみる。″きた、きた″。思いきり突っ込んだMR2のリアがスライドを始める。
予想した以上にゆっくりした滑り出しだ。ステアリングを左にほんの少し切ってカウンターを当ててやる。流れ始めたリアタイヤが小さくスライドしながらまっすぐ前へ進もうとする。ステアリングは一定のままコーナー出口へ向かってアクセルを踏む…。
自分でいうのもなんだが、小さなカウンターを当ててコーナーをクリアする。これがミドシップのコーナリングだ。カウンターはついついオーバーめに当ててしまうものだが、ミドシップはシビアだから、強烈なオツリで痛い目にあう可能性が強い、くれぐれも注意してもらいたい。
MR2は想像した以上のクルマだ。その走りはAE86レビントレノのあのオーバーともいえるFR独特の挙動とはまったく次元が違うものだった。
ステアリングレスポンスはあくまで鋭く、操安性も抜群、コーナリング中、少々乱暴に扱っても変な挙動はまったくなかったほどだ。
MR2の一連の動きをたとえれば、″しっとりとした脚″という表現が適切だろう。このあたりはガソリンタンクをフロアトンネル下にもってきた芸の細かさも効を奏している。
MR2のコーナリング性能の高さを数字で表わせば、現在優れたコーナリング性能を発揮するクルマの1割強アップのコーナリング速度が可能であろう。
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