『頭文字D』名勝負列伝09 非力だが軽くて速い強敵!! ハチロク対カプチーノ編

【バトル考察】

 先行を選んだのは坂本。「ラリー屋は追いかけっこは専門じゃないし、勝負を長引かせたくない」のが理由だ。一方、追う拓海は、スタート前に涼介から「コーナーで離されてストレートで追っかける展開になる。今までとは正反対の発想が勝利のカギだ!!」とアドバイスを受ける。

 案の定、スタートするなり、コーナーでグイグイと引き離され、思わず拓海の口から「どうすりゃいいのか…まったくわからない…!!」と弱音がこぼれる(いつものことだが)。それもそのはず、先行車と同速度でコーナーに突っ込めないというのは、拓海にとって衝撃的なことである。

 わずか750キロ強のカプチーノはウェイトで圧倒的に有利。さらに日頃から悪路を走り慣れている坂本は、「コントロールできないアンダーステアより、コントロールできるオーバーステアをはじめから作っておくんだ…」と、4輪ドリフトで駆け抜ける。拓海がアイデンティティの崩壊にもがき苦しむ一方で、坂本はその一挙手一投足に一切の躊躇がない。

 どちらもアクロバティックなテクニックを得意とし、理論的なドライバーではないもの同士。実は二人のドライバーの気質は似ている。さらに、軽量なコンパクトカーというマシンの性質も同じベクトルを向いている。そうなれば、より軽量なカプチーノが有利になるのは必須であり、これまでコーナリングで勝ってきた拓海からすれば、ストレス極まりないシチュエーションなのである。

 バトルは後半に入り、勾配が弱くなる中高速区間へと移行する。前半でもっと差をつけておきたかった坂本としては、執拗についてきているハチロクに不穏なものを感じ始める。さらに、ハチロクはここにきて走り方を変えてくる。コーナー入口で十分減速をして、早めに車体の向きを変え、アクセルを踏む時間を長くする。コーナーを捨てて加速重視とした。これはかつてのライバル、ランエボを駆る須藤京一の戦術であった。

 坂本からすれば、この状況下で差を詰めてくるハチロクはアウトサイダーであり、「頼りないフロントのグリップを探りながら目一杯」走ってる以上、これ以上のプッシュはスリリングな挑戦となる。「あいつには怖さってものがないのか…オレは怖いぜ」と、ついに不安を滲ませる坂本。次第にパニックに陥る彼の口からこぼれた手書き文字のセリフ「バケモンかよてめえは!?」がパワフルな印象で、読者を引き込む!

 引き離すのではなく、抜かせない作戦に切り替えたカプチーノ。一方、真後ろにつけて、水けむりの煙幕で視界が消されようともアグレッシブに攻めるハチロク。勝負を決めたのは、なんら難解なものではなく、拓海の覚悟だ。スタート時からこのバトルの根底に横たわっていたのは、2人のドライバーのプライド。ライトウェイトスポーツ同士のバトルながら、ヘビーなプライドであった。

 コース終盤の平坦なストレート、相手の最大の武器である“軽さ”が武器にならない場所で抜きにいく。自分よりコーナーが速いカプチーノにどこか嫉妬しているような感情を抱き続けてきた拓海だったが、その過程でさまざまな衝動を感じつつ、このストレートで抜くことに躊躇しながらも、ついに得意のステルス走行で抜きさった。

 一見、読者まで置いてけぼりを食ったような展開だが、バトル後、涼介の秀逸なセリフがすべてを収束させる。曰く、「ドライバーの仕事はクルマの潜在能力を引き出して走ってやること。相手のクルマより勝っているポイントがひとつでもあれば、そのひとつを武器にして攻めるのみだ」。

 これまで次から次へと強いマシンが現れて、閉塞感にあえぎそうだったストーリー展開にひとすじの風を吹かせてくれたのは、カプチーノという名車だった。拓海の成長に大きな影響を与えただけでなく、誕生から30年が経とうとしている現在でも、その存在感は見た目と違って巨大であり続けている。

次ページは : ■【バトル丸ごと掲載】(第273~274話)

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