【その踏み間違い事故は他人事じゃない!!】データから見えた、高齢者事故の深層

 頻繁にニュースになる、高齢者のペダル踏み間違い事故。高齢者は免許を返納しろという意見も聞かれるが、地方には高齢者だからこそ生活にクルマは欠かせないという人がいるのも事実だ。

 しかし、踏み間違いが起きる原因を調べてみると、他人事で片付けられない事実も浮かび上がってくる。交通事故分析センター(ITARDA:イタルダ)が2018年2月に発表したレポート『アクセルとブレーキペダルの踏み間違い事故』には、年齢による事故の割合や、どのような条件で高齢者の事故が起きやすいのかが、統計データや科学的見地から分析されている。

 今回はそのレポートに沿って、高齢者事故の実態を紐解いていきたい。

※本稿は2019年8月のものです
文:編集部/写真:編集部、ITARDA、警察庁、内閣府
初出:『ベストカー』 2019年9月10日号

※データ出典:ITARDA『アクセルとブレーキペダルの踏み間違い事故』『予防安全技術とドライバ操作(高齢運転者を含む)の干渉防止要件検討のための基礎データ収集』。警察庁『令和元年上半期における交通死亡事故の発生状況』

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■DATA1/高齢になるほど事故リスク上昇。操作不適による事故が最多

 まず見てもらいたいのは下表1だ。これは、 内閣府がまとめた平成29年末時点での年齢別の運転免許保有者数とその保有率をまとめたものだ。

表1 運転免許保有者数と年齢別保有者率(平成29年末)(内閣府公表データから作成)

 それによると、現在ニュースなどで問題となっている65歳以上の免許保有者は1818万3894人。それに対して、65歳以下の普通免許保有者数は6407万1301人となっている。

 この年齢のなかで事故が多いのは、24歳以下の若年層と75歳以上の高齢層。1000万人あたりの事故件数に関しては若年層のほうが多いのだが、事故件数だけでは見えないものがある。

 実際の年間走行距離で考えると、若年層よりも高齢層はかなり短いと考えられている。しかし、高齢層は年間走行距離がほかの層よりも少ないにもかかわらず、若年者に次ぐ件数の多さとなっているのだ。これは、高齢者の事故リスクが高いことを表わしている。

 次に見てもらいたいのは下表2で、警察庁交通局がまとめた『令和元年上半期における自動車事故による死亡事故の人的要因比較』からのデータだ。75歳未満では安全不確認、前方不注意が多いのに対して、75歳以上では操作不適(ハンドル操作不適、ブレーキとアクセルの踏み間違い)が群を抜いて多い結果となっている。

表2 自動車運転者による死亡事故の人的要因比較(ITARDA公表データ)

 発生件数は横ばいだが、その事故を元に集計された客観的なデータからも高齢者は、踏み間違いによる事故が多いことがわかる。

■DATA2/ペダル踏み間違い事故の割合は、駐車場等がワースト

 高齢者に踏み間違い事故が多いことを理解してもらったところで見てもらいたいのが、踏み間違い事故の実態に関するデータだ。

 下の表3は、踏み間違い事故の『事故発生場所の特徴(事故件数)』をまとめたものだが、四輪車(特殊車とミニカー除く)が第1当事者になったペダル踏み間違い事故の発生件数を、年齢別(64歳以下、65〜74歳、75歳以上の3つ)にし、10年前の傾向(平成14〜18年)と現在(平成24〜28年)を比較している。

表3 第1当事者が四輪車の年齢層別、道路形状別のペダル踏み間違い事故件数(過去:平成14~18年、平成24~28年)(ITARDA公表データ)

 それによると事故発生件数は、どの年齢も単路が最も多いことがわかる。また、高齢者では、一般交通の場所(駐車場等)においての事故発生件数の増加率が高いこともわかる。

 次に下表4だ。こちらは、前述の事故件数をもとにした事故割合となる。

表4 第1当事者が四輪車の年齢層別、道路形状別のペダル踏み間違い事故割合(過去:平成14~18年、平成24~28年)(ITARDA公表データ)

 道路形状別で事故割合を見ると、全年齢層で一般交通の場所(駐車場等)の割合がほかの道路形状に比べて高い。これは10年前も同じ傾向であったこと、非高齢者での割合も大きい傾向となってはいる。しかし、高齢ドライバーは特にこの道路形状での割合が高くなっているといえる。

 走行距離も免許保有者数もほかの年齢層よりも少ない高齢層が、群を抜いて高いことから、ここが高齢者がより注意して運転するべき危険ポイントであることも指し示している。

■DATA3/踏み間違い事故は、意外にも直進時が最多、次いで発進時

 駐車場等でどのような運転行動を行った際に事故が起きやすいのか? 下表5で四輪車が第1当事者になったペダル踏み間違い事故割合を平成24〜28年まででまとめているが、各年齢層に共通して、発進時と直進時の割合が高いことがわかる。特に高齢になるにつれその割合が高くなり、事故を起こす危険性は加齢に伴って高くなる。

表5 第1当事者が四輪車の年齢層別、駐車場等における行動類型別のペダル踏み間違い事故割合(平成24~28年)(ITARDA公表データ)

 ではなぜ踏み間違い事故は起きるのか? その要因も分析されている。割合の高い発進時(前向き駐車時、駐車位置の調整、駐車場からの発進)においては、「踏みかえ回数の増加(切り返しの増加)」。

 直進時(駐車場所まで向かう途中、駐車場で入り口まで向かう途中)では、「速度調整機会の増加」「不注意な運転(わき見)」。後退時(駐車するために後退中、後退発進する時)は「体をひねる」「踏みかえ回数の増加」「急な後退」が挙げられる。

 高齢化による身体能力、集中力の低下、体の柔軟性の低下によって、頻繁にペダルを踏みかえる動作でミスをしやすくなるのだ。

■DATA4/加齢による関節の老朽化が、事故を発生させる要因に

 駐車場等での踏み間違い事故は、加齢で衰えた高齢者がペダルの踏みかえを頻繁に行うことが要因で発生するのだが、実は体の柔軟性も影響を及ぼすことが明らかになった。

 前進や発進時に比べれば割合は少ないが、後退時にも踏み間違いが起きる。この点に着目し、福山大学工学部とITARDAが共同研究を行った結果、着座姿勢とペダルの踏みかえ挙動がその要因であることをつかんだ。

 高齢ドライバーが運転中に上半身を右方向にひねるような姿勢をとった状態でブレーキペダルを踏もうとすると、無意識のうちに足先が右方向へ移動し、ブレーキペダルを踏むつもりでアクセルペダルを踏んでしまうのだ。

運転姿勢を変える挙動。右後方を向く動きでは、高齢者は股関節が硬くなってきているため、足先が無意識に右方向へ移動しやすく、ブレーキと勘違いしアクセルを踏みやすい(ITARDA公表データ)
上半身を右方向にひねり、後方を目視する後退運転の姿勢の状態を想定。上半身をひねると足も一緒についてきてしまうので、そこに注意してもらいたい(ITARDA公表データ)

 実際に調査をした結果、高齢ドライバーは男女問わず、上半身を右方向にひねった状態で後方を目視する姿勢をとると、体(特に大腿部)の柔軟性が低下していることにより、下半身が上半身に引っ張られるようになる。

 そうすると、ブレーキを踏んでいるつもりでも、足先はアクセルも踏むことになる。本人はブレーキを踏んだつもりでも、実は無意識にアクセルを踏んでいるということになるのだ。

何度も切り返しを行ううちに、ペダルを踏み間違う恐れがある。狭い駐車場などは特に注意が必要

■DATA5/安全運転サポート車促進も、平均車歴が伸び、効果は低い

 近年、衝突被害軽減ブレーキや踏み間違い時加速抑制装置が、続々と新車に搭載されているが、そのような安全運転サポート車による事故防止は大きな期待が寄せられている。

 2020年までにはおおむねすべての新車に搭載が可能になるとの見通しが示されているが、それで踏み間違い事故は大きく減少させることができるのだろうか? 残念ながら、答えは否だ。

 平成28年の事故データを基に、年齢層別・普通乗用車と軽自動車が第1当車両となった全事故を調査した結果、各年齢層に共通して事故車両は車齢が高いクルマを使用していたことがわかった。

 75歳以上の高齢者に至っては、約半数の46.5%が初度登録から10年以上経過した車両で事故を起こしていた。非高齢者(64歳以下)でも41.2%となっていた。

 現在市場で登録中の普通乗用車や軽自動車の平均車齢は8年以上と伸びており、ペダル踏み間違い時加速抑制装置が搭載されたクルマに買い換えが進むことだけ期待していても、事故は減ることはないと考えられる。運転者の意識改革が必要だ。

安全装備の性能は向上しているが、車齢の長いクルマに乗るオーナーの多くが乗り換えるのを待ってはいられない。ほかの方策が求められる

 踏み間違い事故を防ぐには、駐車場などではクリープ現象を積極的に使うことと運転操作の再確認を意識することだ。急発進させてパニックに陥ると、被害を拡大させる恐れがある。何かあっても冷静に対処できるように心がけたい。

 池袋の母子死亡事故などのような痛ましい事故が発生しないよう、年齢問わず凶器となり得る自動車を運転していることを自覚し、注意してもらいたい。

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