最近、液晶メーターが増えてきて、スピードメーターやタコメーターだけでなく、あらゆる情報がディスプレイに表示されている。
昔ながらのメーターの針が懐かしく思えてくるが、このまま液晶メーターが増える一方なのか?
そこで、液晶メーターの長所と短所をモータージャーナリストの岩尾信哉氏が解説する。
文/岩尾信哉
写真/ベストカー編集部 ベストカーWEB編集部 TOYOTA HONDA NISSAN VW
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デジタルメーターはいつから採用されたのか?
自動車用メーターでデジタル表示の採用が積極的に始まったのは、1980年代に中古車のオドメーターのいわゆる“メーター戻しが横行したことに対応して、液晶カウンターの採用が進んだことがきっかけになったようだ。
その後、スピードメーターにデジタル表示が使われるようになった。続いて、燃費なども含めた多くの車両情報を提供するマルチインフォメーションディスプレイが登場してからは、液晶パネルの採用が一気に増加。いまやその機能は表示の階層化が進み、より複雑化している。
いうまでもなく液晶表示が数多く見られるようになったメーターとマルチインフォメーションディスプレイは便利な機能だが、使い勝手に関してはメニューというか情報量の増加に伴う機能を、ユーザーが使いこなせているのだろうか。
「慣れてしまえば問題ない」という意見もあるだろうが、機能としては「慣れを必要としない」ほうがよいに決まっている。
このような液晶化が進んでいったディスプレイのデジタル化。はたして機能的に使いやすくなっているのだろうか、項目を追って長所と短所を探ってみよう。
マルチインフォメーションディスプレイの功罪

液晶メーターについては、液晶化される前段階で自発光式メーターが採用され、それ以前よりも格段に見やすさが改善された印象がある。
いっぽうで、デザインについては意外に思えるほど大きく変わっておらず、2眼式メーターが依然として主流だ。
初代ソアラのように細かく連続するLEDバーによる回転計とデジタル表示を用いた速度計を採用した例は日本の高級車ではいくつか登場したが、いつしか従来型のスピードメーターに落ち着いたのは、やはり視認性に優れるということだろう。
ちなみに、道路運送車両法には平成28年告示の第54条(速度計等)に速度計の定義があって「照明装置を備えたもの、自発光式のもの又は文字板及び指示針に自発光塗料を塗ったものであって、運転者を幻惑させないものであること」とある。
一定間隔をもって断続的に速度を表示する速度計を「デジタル式速度計」として、これ以外を「アナログ式速度計」としている。
多くの情報を表示する機能を与えられた TFT(薄膜トランジスタ)液晶パネルを用いたマルチインフォメーションディスプレイ(日本メーカーでは呼び名がほぼ共通化されている)は、トヨタでは速度/タコメーターを自発光式としたオプティトロンメーターをセルシオに初採用した。
メリットとしては明るくて見やすく、視認性が高いこと。デメリットとしては、メーターが常時発光しているので周囲が暗くなったことをメーターの暗さで気付くことができないため、暗くなっても街灯や施設の照明で明るい市街地などでライトの点け忘れにつながりやすいが、オートライトをオンにしておけば、かなり防げるようになった。
しかし、メーター内の表示で簡単に確認できるのは、ドライバーには便利になったとはいえ、マルチインフォメーションディスプレイの過多な多機能化にはあまり賛成できない。
その名の通り、マルチな機能を操作するためのスイッチを設置するためにはスペースが限られていて、いまやステアリングホイールのスポーク部分などは、高級車でなくてもスイッチ類で占められるようになったのは煩雑さが増したように思える。
手もとで操作できる点は評価できるとはいえ、極端な機能の集中化は使いづらさに結びつくだけでなく、メニューから階層を追って望む機能を引き出すには、それなりに手間がかかってしまう。
たとえば、トリップメーターについては、過去には走行距離をリセットするのにボタンひとつで済んだのに、いまや距離計の項目を探し出すにもひと苦労する。もう少しシンプルにできないものか。
コストの面で液晶メーターのほうが有利に思えるが、実はそうでもないらしい。というのはヤリスやカローラスポーツなどの廉価グレードにはアナログメーターが装備されているからだ。コストの面ではアナログメーターのほうがかからないということを意味する。

見にくさは改善されつつある
液晶メーターの表示の見やすさで気になるのは、着座時の角度への配慮が必要に思えることだ。たとえば、座高が低すぎたり高すぎる場合には、いくらステアリングコラムにチルト機構などがあり、シート座面を調整してもしっくりこないことがある。
他にも、日中に室内に入ってくる日光や夜間だと街路灯の光が反射して見にくい場合があることだ。
最近では巧く遮光されている例が多く、照り返しが気になるようなケースは少なくなってきている。
自発光式メーターと同じく、周囲の光をなるべく入らないように仕立て、パネル表面の反射を抑えるなど、視認性を高める工夫が施されているからだ。
メーターそのもののデザインではないが、液晶パネルの使用を意識した工夫も見られる。
ダッシュパネルのメーター上部に位置するひさし(バイザーと呼ぶこともある)のデザインは、日光や照明の反射を防ぐ機能をもち、スピードメーターを含む液晶モニター(メーター)の見やすさを確保するうえで重要。
メーター周りのデザインをすっきりと仕上げるには、ひさしがあることを感じさせないことが肝となる。
最近の例としてトヨタヤリスでは、上面への張り出しがごく小さなメーターナセルのなかに、TFT液晶の二眼メーターと中央にインフォメーションディスプレイを設置している。電化製品だけにやはり最新こそ最良のものということになる。
一方、ホンダフィットは視界のよさを重要視し、メーター上部にあったひさしを取り払い、7インチのTFT液晶メーターも必要最小限の情報を最大限に表示するというコンセプトのもと、見やすいメーター表示となっている。実際、運転してみても反射が少なくTFTモニターの優秀さが伺えた。
デジタル表示の指針式メーターの意味

液晶パネルによるデジタル表示では一見して数値を把握することが簡単なのは当然だが、速度を大まかなに把握するだけなら、指針の位置と周囲の目盛りで充分にも思える。
タコメーターでは定常走行時のおよその回転数やギアチェンジ時の変化を把握することが主な使用目的になるから、デジタル表示よりもアナログ表示が適していて、実際にも回転数が数値でデジタル表示されることはほとんどないように思える。
表示の細かい点では、液晶表示の針の動きについては改善が進んでいるとはいえ、もう少し立体感があったほうがよく、実物のレベルでわかりやすいといえるほどの到達している例はまだ少ない。
これを補うために、ほとんどメーター内が液晶化されているにもかかわらず、円形のベゼルで分けて2眼式として表示することで、慣れとともに見やすい印象を与えるようにデザインされているように思える。
トヨタクラウンでは円形のメーター周囲の数値表示を別パネルとして見やすさを向上させているように、改良の余地はまだあるとしておきたい。
輸入車や高級車から進む「全面液晶化」
最近では、輸入車については、ドイツの高級ブランド“御三家”を筆頭に、メルセデスベンツがトップモデルのSクラスのディスプレイを手始めに、ドライバー正面にタブレット端末のようなディスプレイを配したAクラスを発表。
BMW3シリーズや1シリーズもメーター部の全面液晶化を進め、アウディが先んじて採用したメーター全面の液晶ディスプレイを採用するなど、VWグループは積極的に装備しているようだ。
アウディはTTから採用が始まった「バーチャルコクピット」は、メーターナセル全体を液晶パネル化。
メーター表示やナビ画面などに表示を切り替え可能として多機能化を進めたことで話題になった。メルセデスは液晶パネルをダッシュパネルの横方向に拡大して大型画面を形成するなどの変更を施している。
ただし、これらが見やすいかと言われれば、見た目の新しさはいうまでもないが、慣れの要素を除いても、見た目のうえで平面的な印象は拭えず、視線の移動量が減少したとも思えないから、視認性の確保やスイッチ操作など扱いやすさの面では、もうひと工夫が必要だろう。
特にメーター内にナビのマップを表示するのは視線移動という観点からはいいかもしれないが、画面が小さいので逆に覗き込んでしまうということもあった。
2020年末に日本導入予定のVWゴルフ8もメーターとセンターをセットにしたデジタルコクピットを採用する。
こうした輸入車の活発な動きに対して、日本車のデジタルコクピットの動きはなかなか装着されない音声認識システムを含め、遅れているといわざるを得ない。


しかし、ようやく日本車メーカーの大画面液晶メーター化が始まろうとしている。2020年10月に発売予定のホンダeを筆頭に、2021年以降に発売予定の日産アリアなど、今後、新型EVには大型マルチディスプレイが採用される見込みだ。
ただ、このままでいいのかは、甚だ疑問だ。バックカメラやアラウンドビューモニター、ヘッドアップディスプレイの普及が進み、バックミラー、さらにはサイドミラーも映像としてとらえる時代になってきた。

運転に支障のないように視線移動が少なく、見やすいメーターになるのはいいが、3つ、4つとマルチインフォメーションディスプレイが並ぶ必要はないのではないか。
ホンダeのコクピットはまるで走る”映像鑑賞ルーム”だ。運転して移動するというより、自動運転車に近いイメージである。
いずれにしてもTFTモニターなどのディスプレイの進化により、解像度が高く、視認性のよい液晶メーターが今後は主流になっていくだろう。
さすがにホンダeのようにここまでディスプレイは増えないにしても、1つのメーターとディスプレイが横に並んだ欧州車のような形が一般的になっていくだろう。
減少した「メーター戻し」
最後に、アナログメーターからデジタル(液晶)メーターに変えたことで、オドメーターに手を加えて改ざんする、いわゆる「メーター巻き戻し」はまだ起きているのだろうか?
この点について、中古車のオークションの業務を手がける自動車公正取引協議会に訊いてみた。
担当者によれば「現状ではICチップ(ECU)の交換やデータの改ざんには手間がかかるので、改ざん例は少ないです」とのこと。
「メーターパネルそのものやインフォメーションディスプレイ表示部の部品交換など、大がかりな作業となってしまいますから」ということで、悪徳業者にとって効率が悪すぎることは充分に想像できる。
法律的には「景品表示法」の誤った表示を実施する“不当表示”となり、メーター改ざんによって客をだまして車両を販売する「不正競争防止法」の違反として警察の取り締まりの対象となるとのことだ。
この点では液晶表示が犯罪防止に繋がっているのだから、明白な長所といえるだろう。
ちなみに、平成29年1月に国土交通省は、車検証に過去の車検までに走行距離の最大値記載を実施するようになった。
それまでは初回車検前に戻せば、過去の実走行データを消し去るために、車検を2回通してデータを新しくしてしまうことが可能だったが、過去の車検までの最大走行値を記載されているようになり、車検の度に車検証に最長走行距離が記載されるなど二重車検の対策が実施されている。