■マイナス要因が重なった3ナンバー車の急減速
そしてこのあと、日本車のクルマ造りに変化が生じた。1989年の消費税導入に伴って自動車税制が改定され、3ナンバーサイズの不利も払拭されて、海外仕様と同様の3ナンバー車が国内でも売られるようになったからだ。大きくて見栄えのいい3ナンバー車が増えればユーザーは喜び、海外仕様との共通化も図れて合理的だと判断された。
ところが、このやり方が裏目に出て、3ナンバーサイズのセダンは売れ行きを下げ始める。3ナンバー車が日本の交通環境で使いにくいだけでなく、海外向けの商品を日本に導入したことの違和感が売れ行きを下げた。当時の北米向けに開発された日本車は、国内のユーザーから見ると、外観デザインなどが大味な印象だった。
また1990年代に入ると、「エスティマ」「オデッセイ」「バネットセレナ」「タウン&ライトエースノア」「ステップワゴン」など、空間効率の優れたミニバンが続々と発売されて売れ行きを伸ばした。セダンが日本を離れて海外向けになるいっぽう、これらのミニバンは日本のユーザーに向けて開発され、目新しさも手伝って好調に売れた。
1998年には軽自動車の規格も一新されて、今と同じボディサイズになった。新車販売台数に占める軽自動車の比率は、1990年頃は20%少々だったが、2000年頃には新規格対応で約30%に達した(2019年は37%)。このほか1999年にヴィッツ、2001年にはフィットと魅力的なコンパクトカーも発売され、国内の売れ筋カテゴリーは、実用重視のミニバン/コンパクトカー/軽自動車になった。
同時に海外の販売比率も高まり、日本メーカーの多くは、ダイハツを除くと世界生産台数の80%以上を海外で売るようになる。日本は20%以下の小さな市場になった。
■日本投入の遅れが悪循環を加速させる
こうなるとホンダの「シビック」「アコード」「CR-V」。日産「スカイライン」、スバル「レガシィ」などは、ますます北米中心の海外指向を強めていく。
アコードセダンは、1993年登場の5代目で3ナンバー車に拡大したら日本での売れ行きが下がり、1997年の6代目で再び5ナンバー車に戻した。しかし、この時点でホンダの売れ筋はオデッセイやステップワゴンに移り、販売の回復は望めず2002年発売の7代目では、海外仕様と共通のボディを使う3ナンバー車に戻った。
そして今では、各メーカーのセダンは、日本国内で売る気を失っている。例えばアコードは2020年2月20日にフルモデルチェンジを行ったが、北米では2017年に新型が発売されていた。日本では2年半も遅れて登場したのだから、もはや新型車とはいえない。
レガシィも2019年7月に新型の生産を北米で開始したが、日本では今でも旧型を売り続けている。
今日のクルマは、フルモデルチェンジを行うと、衝突被害軽減ブレーキの性能やボディの衝突安全性を必ず進化させる。レガシィも、新型では新しいプラットフォームを使う。そうなると、日本におけるフルモデルチェンジが遅れると、その間は海外仕様に比べて危険なクルマを売ることになってしまう。
多少の時間差は仕方ないとしても、アコードの2年半は開きすぎだ。レガシィも北米で新型の生産を開始したあとの2019年9月に、日本仕様は一部改良を実施した。そうなると今後しばらくは現行型を売る。スバルの販売店では「次期型レガシィは、日本では2020年の秋にデビューすると思うが、今のところメーカーから日程は聞いていない」という。つまり新型レガシィの発売も、海外に比べて少なくとも2年間は遅れる。
以上のように、シビック、アコード、CR-V、スカイライン、レガシィなどの売れ行きが低迷する背景には、複数の理由があった。ミニバン/コンパクトカー/軽自動車の好調もあって、新車販売に占めるセダン比率が下がり(今は軽自動車が37%でセダンは9%)、日本のユーザーとは親和性が低い海外向けを国内導入するようになってしまった。発売時期もアコードやレガシィのように海外に比べて遅れる場合があり、国内で発売した時は古くなっている。
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