マツダ株式会社毛籠勝弘社長インタビュー【後編】 お客さまから選ばれるためにマツダが今やるべきこととは? 

日本以上に北米で大きなインパクトを残したラージ商品群

北米で販売されるCX-90は直6、3.3ℓマイルドハイブリッドにターボを搭載し、サードシートを持つプレミアムSUVとして人気となっている
北米で販売されるCX-90は直6、3.3ℓマイルドハイブリッドにターボを搭載し、サードシートを持つプレミアムSUVとして人気となっている

 同時に毛籠社長の北米における実績やブランド価値の確立に大きく寄与したのが『ラージ商品群』の重要性だ。北米市場ではラージ商品群に対する需要が非常に高い上に、1台あたりの収益が大きい。当然だが利益率向上に直結する。その重要性についてこう語る。

 「ラージ商品群と言っても、アメリカ市場では“ミッドSUV”というセグメントに属しています。日本市場で主力のCX-5やアメリカ北米専用で人気のあるCX-50は、その下のC(セグメント)-SUVを受け持っています。ラージ商品群は、ボリュームのある重要なセグメントなのですが、これまでマツダはそこに軸足を置いてこなかった。

 アメリカで、ブランドとして成功しようと思えば、このミッドSUVでプレゼンスを持つということが極めて大事。なにより収益性を向上させるためには、欠かすことのできない非常に優良なお客様も多く、その点でもC-SUVとは、役割が少し違います」

 ワイドボディ3列シートの「CX-90」を2023年春に、翌2024年春にはワイドボディ2列シートの「CX-70」を北米で発売し、大きな成功を得たことは、ラージ商品群のプレミアムブランドとしての商品力を証明している。さらに言えば従来のマツダ車ユーザーが上級移行する際、他ブランドへと流失していたというジレンマも解消し、同時に新たな優良な顧客層の開拓にも大きく寄与したわけだ。

 「例えばミッドSUVの中で3列シートは極めて重要な要素です。アメリカ市場には欠かせないファミリービークルなんですね。自らのライフコースの変化を見れば“1回は3列シートに”というお客様たちが多い。つまりCX-5を持っている人が、次はファミリービークルとして、3列シートというキャパシティを買う。

 その後、(子供たちが独立したりすれば)C-SUVなどコンパクトなセグメントに戻ってくる。ラージ商品群はお客様のライフコースをマツダ・ブランドの中につなぎ止めるリテンション(自社ブランドに定着)には、必要不可欠な存在になっています」

 こうしてマツダにとって好ましい循環を構築させた毛籠氏の「ブランド哲学」は現在も色濃く反映されている。結果としてブランド価値と収益性を大きく高め、過去最高レベルの販売台数を牽引してきた。

 もちろん不確定要素に溢れた世界情勢を鑑みれば楽観ばかりもできない。例えばカーボンニュートラルに対する考え方はマツダ独自のものだ。

 「電気自動車だけに依存しない多様なソリューションの一つとしてロータリーエンジンを位置づけています。同時に業界の内外での連携と協調が極めて重要だとも思っています。政府の成長分野に自動車は直接入っていないのですが、自動車には多くの分野の技術やアウトプットが集約され、社会実装の装置として重要なんです。

 つまり1社だけでカーボンニュートラルに腐心するのではなく『オールジャパン体制』で総合力と国際競争力を高める必要があると思います」

自動車OEM各社が生き残りために「競争と協調」のあるべき姿

日本の自動車産業をより強固なものにするにはサプライチェーンの再構築が欠かせないと強調する(イメージ)
日本の自動車産業をより強固なものにするにはサプライチェーンの再構築が欠かせないと強調する(イメージ)

 毛籠社長が考える『オールジャパン体制』とはどのようなものなのだろうか?

 「日本のものづくりは大変優秀な中小企業の支えと現場力の垂直統合が強みとして、高品質でリーズナブルなものを安定供給してきましたし、それが勝ち筋だったんです。ところが現在、それが弱みなっているのではないでしょうか。国内生産スケールが850万台ほどで、グローバルでは2400万台ぐらいです。850万台の国内生産規模に対してサプライヤーが多様で、ハーネスだけでも約7万種類ある。

 各社には多くのサプライチェーンがありますが、異なるベクトルを向いているため、サプライヤーの連携が難しいというのが現実です。デジタル化やソフト開発のスピード競争に柔軟に対応するため、サプライチェーンの大規模な改革が必要と考えています」

 マツダは広島を中心としたサプライチェーンを持つが、あえてサプライチェーン改革にも切り込んで見せる。広島という地場を守るには、大胆な改革が必要だという危機感の表れでもある。

 「日本の自動車メーカーはそれぞれの『確固たるブランド価値』を世界中で持っていると思うんです。だからお客様は日本車を選ぶし、これは絶対失ってダメだと思います。少し乱暴な表現かもしれませんが、各社の『ブランド価値』以外の領域はすべて協調していいと思います。

 まず自前の技術だけが『ブランド』ではないことを理解する。その上で協調によりコスト削減や効率化を進めていけば、その恩恵はサプライチェーンを構成する中小企業にも波及効果を生んでいきます。例えば大きなシンクタンクを作り、そこで生み出したものを広く各社に配布するシステムができれば大きな力になります。

 当然ながら開発や意思決定のスピード向上が重要で、お客様視点に立った物作りが実現できると思います。さらに生成AIなどを活用し、開発と意思決定を迅速化する必要があります。もちろんそれは自動車メーカーだけではなく『サプライチェーン全体の協調への速度向上』も不可欠だということになります」

 毛籠社長の「ブランド価値」以外の領域はすべて協調していいというしなやかな考えは、凄味さえ感じさせるものだ。

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